表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/102

友達もできません


 ゾディアック学園は、オルサ国の中心にある貴族だけが通う学校である。学園の校舎は、私が通っていた鉄筋コンクリート造とは違い、まるで大聖堂のような校舎で石畳に絨毯が敷かれている。高い窓から射す太陽の光がステンドグラスの加減で、教室の中に虹の世界を幻出させている。


「エリースの瞳は、本当にきれい。澄んだ湖のような青になったり、新緑の森林のような緑になったり……見ているだけで吸いこまれてしまいそう」


 第六王女のリブラが、舌足らずな声で話しかけてくる。隣のキャプリコーンは、眩しそうに私を見つめている。


 私は、学園生活をほぼこの二人と行動している。他の生徒と友達になれたらと淡い期待を抱いて入学したが、すぐにその期待は木っ端微塵に打ち砕かれた。


 顔と名前が、覚えられない……。


 signは、中世のヨーロッパのような世界だ。学園内は、魔法学校の有名映画で着ていたローブのような制服を着用している。それが、余計に人の判別を難しくさせている。なぜなら、全員がブロンドの髪だからね!


 制作者に、文句を言いたい!


 どうして、ピンクとか赤とか青とか緑とかの髪色にしてくれなかったの?! 「天然では、あり得ない色だから」という返答なら、思いきり殴りたい!!

 設定が、すでに現実離れしているから、 そこだけ実際にある髪色である必要が、どこにある?! バカなの?! それに、攻略対象者がブロンドだけじゃなく、どうして生徒全員がブロンドなのよ?! 常識でいうなら、全員がブロンドなのはおかしいでしょ! ブロンドは劣性遺伝なのに、生徒全員がブロンドなんて、あり得ないから!! おかげでブロンドの種類に詳しくなったけど! 別に、詳しくなりたいとも思ったことなんてないけど!!


 せっかく得た知識だから、ここで披露しよう。

 

 一概にブロンドといっても、その範囲は広く、様々な呼称がある。前に説明した攻略対象者の髪色は、王子・王女たちがストロベリーブロンド。サジタリアスが、アッシュブロンド。キャプリコーンが、ゴールデンブロンド。他の攻略対象外の生徒たちは、ダークブロンドである。

 ダークブロンドとは、金髪と茶髪の中間といえば、わかりやすいだろう。明るい茶髪ともいえるし、暗い金髪ともいえる、そんな髪色。金よりのブロンドだったり、茶色よりのブロンドだったりと人それぞれであるが、私にしてみれば些細なちがいとしか思えない。日本人は黒髪ばかりなのだから、それよりは覚えやすいって思うでしょ?

 甘いからね! ここは、signの世界! だから、頭がおかしいの!!

 なんと、生徒全員の髪型が同じだからね! みんなが全員、長髪。だから、髪型で判別することができない。大して違いのない髪色に、鎖骨あたりか胸あたりまでの多少の誤差程度の髪型のちがいに、日本人に馴染みのない彫の深い顔立ち。


 難関は、まだまだ続く。


 顔を覚えたとしても、それで終わりではない。今度は、名前を覚えなくてはならない。この名前も日本人の私には馴染みがなさすぎて頭に入ってこない……和名にしてもらいたかった。その結果、もう覚えなくてもいいだろうか? となってしまったわけである。


 もちろん友達ができない理由は、それだけではない。


 私の最大の問題は、エリースが規格外の美少女すぎること。この圧倒的な『美』の力が凄まじい。

 美しいものを見たいという気持ちは理解できるけど、その視線は「目は口ほどにモノを言う」の言葉がピッタリなほどに訴えかけてくる。ひたすら視線を感じる。見られている気がするけれど、気のせいかな? とは思えない。そんな生易しい視線ではない。


 ……怖い。

 怖くて、視線の先なんて見たくない。

 

 まだ、ある! 彼らは、隙あれば触ってこようとしてくる。しかも、顔に魅入った状態で何も言わずに触れてこようとする人もいる。……そろそろ、泣いてもいいだろうか? 普通の十四歳の令嬢なら、部屋から出て来られなくなっていたと思う。まさか、肉食動物に狙われている草食動物の気持ちを理解する日がくるとは思わなかった。

 その気持ちをすべて隠して、柔和な笑顔で繰りぬける。


 これぞ、必殺・夏目スマイル!


 長年、隣で見てきたからこその完璧な夏目スマイル……だけど、この夏目スマイルを使えば使うほどに生徒たちが見つめてくる。声をかけてくる。触ってこようとしてくる。


 どうして?


 なんで、こんな規格外の美少女に声かけようと思うんだろう? 高嶺の花だと思わないの? と疑問に思っていたけど、その答えを何番目だかの王子が教えてくれた。


「エリース、そんなに優しく笑わないでおくれ。君の笑顔は花のようで、蜜蜂たちが寄ってきてしまう」


 その言葉に、はっとした。


 夏目スマイルは、誰をも魅了する笑顔であると同時に「ゆうり」信者を増やしていく、優しさ溢れる柔和な笑顔。それは「あっ、私も話していいんだね」と思わせる笑顔なのだ。



 ……失念していた。



 夏目……。私は、もう疲れたよ。

 半年間、学園生活を送ったけど、全く楽しくない。友達もできない。話しかけてくるのは、下心ありまくりの人ばかり。



 夏目……。いま、何している?

 可能なら、今からでも私と変わってもらえない?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ