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意見に賛成します

 アルフェラッツから、よく知る単語が出できて、ビクリとして強直した。



 ……どう、いう……こと?

 え? なんで? ……いま、なんて言った? 



 衝撃が大きすぎて、言葉が出てこない。



「ですが、エリース様であることも紛れもない真実です。それでは、旦那様に連絡してま……」

「まっ、待って! 待って、待って! お願いだから、話を進めないで! いま『瀬良(せら) 優梨ゆうり』って、言ったよね?!」

「はい、言いました」

「なんで!? なんで、その名前を知っているの? どうして!? 誰から?」

「旦那様からです」

「お父様から!? どういうこと? なんで、お父様は……私が『瀬良(せら) 優梨ゆうり』だって、知っているの? いつから!?」

「申し訳ありませんが、それらの質問には答えられません。私が知っていることは『セラユーリ』という名前だけです。詳しいことは、旦那様から直接お聞きください」

「お父様に聞けば……教えてくれる?」

「はい。きっと、エリース様の質問に答えてくださいますよ」

「……だから、私はエリースじゃないって」

「『エリース』という名前は、お気に召しませんか?」

「そういう意味じゃなくて……本当のエリースじゃないのに、エリースと呼ばれているから」

「エリース様は、あなたしかいません」

「私しか……いない?」

「はい。エリース様は、あなただけです。あなた以外に、エリース様はいません」

「私がエリースとして目覚めたのは、十二歳の頃だよ。それよりも前のエリースは?」

「その質問に答えるのは、私ではありません」

「お父様に聞くべき、ってこと?」

「えぇ。旦那様から、直接お話を聞くべきです」

「……うん、わかった。お父様に聞くわ」

「エリース様、一つだけ助言をしてもいいですか?」

「うん、して」

「旦那様もメサルティム様も、エリース様をとても大切に想っています」

「……わかっている。ありがとう、アルフェラッツ」

「では、旦那様に連絡してまいります。すぐに戻りますから」


瀬良(せら) 優梨ゆうり


 久しぶりに聞いた、私の名前。

 もう聞くことがないと思っていた、私の名前。

 もう呼ばれることがないと思っていた、私の名前。



 ――どうして、お父様が知っているのか?

 それは、わからない。でも、不思議と不安を感じない。



『エリース、信じると決めた相手を最後まで信じなさい。そして、一度繋いだ手を決して離してはいけない。何があっても……』



 私は、お父様を信用している。私の味方だと、信じている。




 顔を横に向けると、棚に置いてある銀の箱が目に入った。その箱は、陽に照らされて光っていた。光が目を刺した時、突如ひとつの記憶がフラッシュバックしてきた。


 それは、自分が泣いている……記憶だった。


 涙は後から後から溢れて、頬をつたって地面に落ちていた。それから、目の前の人が……何かを言った。何を言っているのかわからない。


 記憶に手を伸ばしたが、泡のように脆い記憶は触れた瞬間に消えた。記憶の泡が消えた時、電気に触れたようにビクンと身体が震えた。


 ……よく知る感覚だった。  


 まわりの空気が、急速に希薄になっていくような気がした。今にもあの「発作」が襲ってきそうで、痛みを覚悟するように目を閉じると、忘れたくても忘れなられない文章が頭に浮かんでくる。


『その瞳に魅せられた人間は、彼を主人として崇拝し、仕えて愛するようになる。望みは、主人のそばにいることだけ。そして、金瞳に魅了された者の体には、従属の証が刻まれる。そばを離れると激痛が襲い、酷い苦しみが待っている。放っておくと何度も発作を起こし、最後には死に至る。従属の証を刻まれた人間は、レグルスと呼ばれていた』


 この世界の本は、嘘ばかりなのに……どうしても、不安な気持ちが消えてくれない。この発作の前兆が、また不安を増長させる。


 この発作は、何なのか?

 額に出たマークは、何なのか?

 ヴィーに会って、この発作がなくなったら?

 

 疑問は、次々と出てくる。


 ――でも、

 それでも、私は……ヴィーに会いたい。


 ヴィーの声が聞きたい。ヴィーに触れたい。ヴィーの体温に包まれたい。私に向かって、笑ってほしい。ヴィーの笑顔が、見たくてたまらない。


 ヴィーに……ただ、会いたい。


 ねぇ、夏目。やっぱり、夏目の意見に賛成するよ。私も”自分を好きな相手”よりも、“自分が好きな相手”と一緒にいたい。

 ねぇ、夏目。私の選択を夏目なら、私らしいって言ってくれるよね? 笑って、それでいいって言ってくれるよね?

 


 私はもう後戻りできないくらいに、ヴィーが好きになんだ。



 右手が、勝手に熱をもってくる。そして、無意識に魔法を紡ぐ。部屋を照らしていた陽の光が弱まり、雲に隠れたのか、どんどん光が薄くなっていく……。


 陽がふたたび部屋の中を照らした時、部屋には誰もいなかった。

 

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