幸せな朝
今日こそは、遅刻しない!
そう心に決めたせいか、いつもより早く目が覚めた。
隣に眠っているヴィーを見ると、猫のように丸くなって眠っている。このまま何も言わずに寮に戻ろうかと思ったけど、そんなことをしたら盛大に拗ねるにちがいない。
「ヴィー」と肩を揺すって起こすと、ヴィーはまた猫のように体を伸ばして、手の甲で目をこする。カーテンの切れ間から漏れた光線の柱が、放射状にヴィーに降り注いでいた。
まるで天使の梯子みたいなその陽の光を一緒に浴びたくなって、ヴィーの隣にもぐりこむ。そのままヴィーに抱きつこうとしたが、私が抱きつく前に強く抱きしめられた。ヴィーの胸に頰があたっているから、頬にヴィーの体温と鼓動が伝わってくる。
「「おはよう」」
挨拶のタイミングが合わせたかのように同時で、それが可笑しくて声をあげて笑ってしまった。笑いがおさまると、また二人で「おはよう」と言い合って、キスをしながら、また二人で笑い合う。
優しい、朝の時間。
穏やかな幸せに包まれる、暖かな時間。
私は、この朝の時間が好き。
…………だけど、今日は遅刻するわけにはいかない!!
「今日は遅刻できないから、もう行くね!」
私は立ち上がり、ヴィーを見ることなく、支度をする。ヴィーを見てしまったら、また遅刻してしまいそうな気がする。
その間、何も言わないヴィーの視線を感じていた。時折、クスクスと笑い声が聞こえて、見られていることに恥ずかしくなった。
「なによ? なんで、笑うの?」
「セーラが可愛くて」
「はぁ?!」
「全部、可愛い」
「……もう、いい」
「可愛いって言われるのが、嫌?」
「嫌……じゃないけど」
「照れてる?」
「……ヴィーの頭がおかしい、とは思っている」
「俺だけが……そう思っていれば、いいんだけど……。セーラが可愛いと、俺だけしかわからなければいいのにな」
「ヴィー以外、いないよ」
「はぁ〜〜。だから、セーラが心配なんだよ。王子たちにも他の生徒たちからも言い寄られているだろ?」
「だけど、可愛いと思われているわけじゃない。ただ、顔を好きなだけよ。それに、私の顔は可愛いってわけじゃないし」
「たしかに、セーラには“美しい”って言葉の方が合うけど、中身は可愛いよ」
「……やっぱり恥ずかしいから、もう言わなくていい。じゃあ、本当にもう行くね」
そう言って振り向くと、ヴィーがすぐ真後ろにいたから、思わず肩を跳ねた。ヴィーの瞳は、きらめく金色だった。ヴィーを見てしまうと、やっぱり「ここに、いたい」と言う言葉を発してしまいそうになった。
その言葉をどうにか飲みこむ。
そんな私の葛藤を無視するように、ヴィーが手を伸して私の顎を持ち上げると、そっと唇にキスをした。優しい、触れるだけのキス。起きてから何回キスしているんだろうと思ったら、笑いが自然と漏れる。
――その時、右手に針で刺したような痛みが走った。
魔法が、発動している。
”身代わりくん”が発動している。
……どうして?
王子たちが来なくてなってから”身代わりくん”が、発動することはなくなっていたのに。誰かが、寮の部屋に来ている。
一体、何のために?
痛みが、強くなってきた。……まるで”身代わりくん”が助けを呼んでいるように。
――誰が来たの?
こんな時間に、何しに?
「ヴィー、寮に戻るね」
ヴィーも軽く頷いたが、私を掴む手に力が入る。
「心配しないで、夜には戻るから」
そして、私は寮のクローゼットへ移動した。




