秘密のお茶会
「ヴィー、お茶会をしよう!」
「え?」
私を見つめたままヴィーは、私の言葉に固まった。
「秘密の場所で、秘密の話をする、秘密のお茶会。素敵でしょ?」
「……それを、今?」
「うん、今! 嫌?」
「嫌ではない。けど……今は、他にしたいことがある」
「ヴィーのしたいこと、って?」
「いいよ、お茶会をしてからで」
「何よ、その言い方! 私がお茶会に招待したのは、ヴィーが初めてなんから!」
「え? 俺が初めて? ……俺だけ?」
「そう! ヴィーが初めてだし、招待するのはヴィーだけ。特別な相手だけとしかしない、秘密のお茶会だからね」
「しよう、お茶会!」
"秘密のお茶会"の作り方は、簡単。テーブルにシーツをかけて、秘密の場所を作る。ただそれだけできる空間。
部屋にあるテーブルに、寝室から持ってきたシーツをかける。両手でシーツを触れ、テーブルがすっぼりと隠れるように整える。洗って干したばかりの匂い、白鳥の羽のような白、柔らかな心地よい肌触り。
『お茶会だよ』
『へ?』
『質問の答え』
『質問の答え? あのね、夏目。私が質問したのは、"運命の相手を見分ける方法はあるの?"よ』
『うん。だから、僕の答えは"お茶会"』
『ごめん、全然わからない』
『セーラは、アガサ・クリスティを知っている?』
『ミステリーの女王でしょ。本を読んだことはないけど、名前だけは知っている』
『彼女は、小さい頃にテーブルにシーツをかけた場所でお茶会を開いて遊んでいたらしい』
『ふ~ん。……で?』
『とても素敵なお茶会だから、僕も誰かを招待したいと思ったんだ』
『じゃあ、誰かを誘ったら? みんなが喜んで参加するから、大盛況間違いなし』
『セーラ、僕がしたいのは特別なお茶会なんだよ』
『……特別な、お茶会?』
『誰もいないシーツで出来た、秘密の場所。そこで、秘密の話をする』
『秘密の話、って?』
『嘘のない、真実だけの話』
『なんだか、楽しそうね。私とする?』
『セーラの相手は、僕じゃないよ。僕の相手もセーラじゃない』
『誰なら、いいの?』
『秘密のお茶会に誘う相手は、特別な相手だよ』
『……特別な、相手?』
『ほら、セーラの質問の答えに繋がった。秘密のお茶会に誘いたいと思える人が、僕の運命の相手』
夏目の声が、聞こえてくる。昔の思い出が、つい昨日の出来事にように浮かび上がってくる。
『……運命の相手、ね』
『馬鹿らしいと思っている?』
『ううん、そんなこと思ってない』
『運命の相手なんて、いないと思う?』
『いるんじゃない、夏目には』
『セーラ。慎重になることは、大事なことだと思う。だけど、慎重になりすぎるのは良くないよ。いつか……セーラが誰かを好きになったら、その相手をお茶会に誘ってごらん』
あの時、自分に"運命の相手"なんているわけがないと思っていた。だけど、ヴィーが私を好きだと言ってくれた今は……ヴィーとお茶会をしてみたいと思った。二人だけの、秘密のお茶会を。
「ヴィー、準備ができたよ!」
声をかけると、ヴィーは腰を折り曲げ、中を覗き込みながら「え? ここ……?」と言った。少し戸惑っている様子に、疑問符が浮かんだ。
何か、おかしいだろうか?
テーブルに、シーツをかけた秘密の場所は……狭くて、暗かった。その暗闇に、アルドラにいたヴィーの姿が、出会った時の記憶がよみがえる。同時に、自分を殴ってやりたくなった。
「ごめん。やっぱり、や……」
「大丈夫だよ。俺が、セーラの初めての招待客なんだろ? 中に入りたい」
ヴィーの言葉に本心を探るように、目を見つめた。すると、ヴィーは目を細めた後、笑った。
「本心で言っている」
「……わかった。じゃあ、せめて明るくしよう。リブラからもらったキャンドルが、ベッドの横に置いてあ……」
「嫌だ!」
思いがけない大きな拒絶の声に、瞬きを繰り返して、ヴィーを見た。ヴィーも自分の声に驚いたようで「ごめん、その……火が苦手で……」と言いながら、あちこちと視線を動かし、最後に私を見た。私の様子をうかがうように、不安そうに瞳を揺らしながら。
私は衝動的に、ヴィーを抱きしめていた。
「ヴィー、謝らないで。謝る必要なんてないの。今夜のヴィーは、私のお客様なんだから、そうだ! 私たちしかいないから、テーブルをシーツで囲むのをやめよう」
「……それをやめたら、秘密の場所じゃなくなるんじゃないか?」
「大丈夫よ。他に、秘密の場所を作ればいいだけだから」
言いながら、シーツを自分とヴィーの頭からかぶる。そして、両手を上げる。ふわっと空気が入り、テントのように膨らんだ。
「私たちの“秘密の場所”の出来上がり。これなら、二人で好きな場所に行ける。ヴィーの行きたいところが、私たちの秘密の場所。ねぇ、ヴィー。どこに行きたい?」
「ベッドの上」
「決定!!」
シーツを頭からかぶったまま、二人で寝室に向かう。途中にある家具を、二人で一緒に飛び越える。その度に、笑い声が漏れる。まるで、子どもの頃に戻ったみたいだった。秘密という言葉にドキドキしていた頃、特別な言葉だと思っていた頃。そんな頃に戻ったみたいで、クスクスと漏れた笑い声から、お腹からこみ上げてくるような笑い声へと変わっていく。
そして、二人で同時にベッドに飛び乗り、膝をくっつけて座ると、示し合わせたように顔を見合わせた。




