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ゲームの世界のようです

 『What’s your sign?(あなたの星座は、何ですか?)』とは、星座をモチーフにした恋愛ゲームである。登場人物は、すべて星座の名前から付けられており、『どの星座と恋に落ちますか?』をコンセプトに複数の攻略対象と色々なシチュエーションで、恋愛を楽しむ。もちろん、登場するキャラクターは美形しかいない。

 よくある恋愛ゲームのようだけど、『What’s your sign?(あなたの星座は、何ですか?)』は万人受けするようなものではなかった。(面倒くさいから、これから略してsignと言うことにする)

 signの攻略対象は、男性だけではなく、女性もいた。夏目の頭の中のようなゲームだから、性別なんか関係ないのだ。そして、このゲームは……主人公が複数人と同時恋愛するのを楽しむゲームで、よくいう○○ルートというものはない。何人と同時恋愛ができるか、を楽しむゲームだった。


 『色んな恋を楽しめる』のキャッチフレーズだったけど、私から言わせるとそれだけの要素しかないゲームだった。なぜなら、登場するキャラクターは最初なら主人公を溺愛している。恋愛ゲームの醍醐味であるはずの恋の駆け引きなんてものはない。ただひたすら愛を語ってくるキャラクター相手をしながら、同時進行で次々と恋人を増やしていく。だから、もちろん、signには魔族も、魔物も、魔王も、勇者も、冒険者も、ダンジョンも、聖剣も出てこない。


 夏目、私に教えて。

 このゲームの何が、そんなに楽しかったの? 


 舞台はずっと学園で、ただひたすら恋愛をしているだけのゲームなのに、無駄に魔法学園が舞台なのは制作者側のゲームを作っているのだという足掻きに感じられた。ゲーム中で、魔法使う場面なんて一度もなかったしね! 

 全く楽しくないゲームだったけど、夏目のせいで私はsignの内容にはかなり詳しい。すべてのキャラクターと恋したい! と言う夏目に付き合わされ、完全制覇したから。人気がなかったせいで攻略本なんてものは存在せず、わずかなネット情報を頼りにひたすらゲームをしまくるという効率の悪い方法ですべてを網羅したのだ。


 ――さすが、私! 

 

 でも……そのせいで、いま自分が置かれている状況に愕然とする羽目になっているけどね!


 もう一度、言わせて!

 なんで、私なのっ!?


 異世界転生と言ったけど、私は死んだ記憶はない。いつものようにベッドで眠り、目が覚めたら、signの世界だった。

 いま、流行りの異世界転生は、神様がいて……なんか話をして……異世界に来たりするんじゃないの? でも、私にはそんなのは全くなく、目が覚めたら見たこともない天井があった。天蓋付きの豪華なベッドに、横になっていた。天蓋からは白いレースが垂れていて、隙間からキラキラと太陽の日差しが眩しくて、手を伸ばしたら「おはようございます」と三十才くらいの知らない紳士が私に向かってお辞儀をしていた。


 この時の私の気持ちが、わかる人がいるだろうか? 叫ばなかっただけでも、私を褒めてほしい。


 「……どなた……ですか?」と聞いた私に、その紳士がにっこりと笑いながら「悪い夢でも見ましたか? エリース様」と言った。


 初めは、夢だと思った。夏目のせいで、変な夢を見ているのだと。


 だけど、その夢は一週間経っても覚めることがなかった。しかも、鏡に映るのは――絶世の美少女。プラチナブロンドの髪、グロスでもつけたのかというほどにトゥルンとした赤い唇。きめ細かで白く青みがかった肌に、頬はうっすらピンクに色づいている。そして、すべてのパーツが完璧な配置で収まっている顔立ち。

 目の前の少女は、夏目もびっくりするほどの美しさを持っていた。だけど、ちっとも嬉しくない。顔が全てと学んだ私だけど、この顔は遠慮したい!


 なぜなら、エリースという名前とこの顔は、signの主人公だから。


 ……だけど、ゲームと違うところが一つだけある。それは、瞳の色。ゲームのエリースは普通の青い瞳だったが、鏡に映る瞳は青い部分と黄色、オレンジがまざった複数色をしている。まるで「海と陸」を表しているようなそんな色。そして、その瞳は光の当たり方によっては見える色が変わる。光の加減で青と黄色に見えたり、緑とオレンジに見えたりする。

 でも、この瞳の色を表現にするのは難しいから青一色にしたのかも。主人公の瞳の色なんて誰も気にしないし、私にとっても瞳の色なんて何色でもいい。


 問題なのは、なんで主人公に転生したのかってこと。


 どうして、よくあるのは悪役令嬢とかじゃないの? 攻略対象者でもなく、モブでもなく……どうして、主人公なのよ。しかも、総愛されキャラの主人公。一目見ただけで、次々と愛を語ってくるキャラクターを相手にするなんて、絶対に嫌っ!! 

 どうせ異世界に転生するなら、乙女ゲームじゃなくて胸躍るRPGゲームの世界がよかった。冒険者ギルトがあって、好きな職業を選べて、冒険の旅に出……そうよ! このsignの世界も魔法の世界! 胸躍る冒険だって、魔法戦士にだってなれるはず!! 別に乙女ゲームに転生したからといって、恋愛をしなきゃいけないわけじゃない。だって、今のエリースの中身は私なんだから。


 ――決めた!

 私は、signの主人公になんてならない! 絶対に!!


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