出会いと終わり
第二話だああああああああああ!
「ええ…ええ…ええ、、、!?」
「うわあ。ガチの人さらいだーやばー。」
「ちょっと黙っててください零様!!あでもうるさい零様も好き。」
「え!?なんでなんで!?」
「起きたらどうするんですか、もうそんな零様も好きですけど。」
「ええ~ちょっと恐怖。」
「がーん。酷いです零様、でも好き。」
「二人とも黙れよ…。」
意識がだんだんと浮上する。すると男の声と女の声がし始めた。一度気になるともう眠りは帰ってこない。少年はパチッと目を開けた。
「!?」
すると視界いっぱいに紅が入ってきた。それは目なのか極限まで見開かれ口がガッポーンと空いてしまっている。
「…起きちゃったじゃん二人のせいで…。」
「え!?嘘ぉ。まじで零様のせいだ。でもそんな零様も好き。」
「はぁん!?俺のせいなの!?俺のせいなわけ!?おかしくない!?」
「零様がうるさいからですよ。うるさい零様も好きだけど。」
「酷すぎー…!!」
「二人のせいだって分からないわけ…?」
「ちょっと白藤ィ!先輩いや年上いや目上の人には敬語喋りなさいよオラ!」
「え、それを零様が言っちゃうんですか…!?」
「心外みたいなその顔何なの!?え!?何!?」
「きゃー零様自覚してないー、でもそんな零様も好きー。」
「ほぼ棒読みやめい!」
「騒がし…。うっさ…。頭がガランゴロン言ってるんだけど…。」
眠る前の静寂とは程遠い騒音が広いホールのような部屋に響く。
少年はまだ横抱きにされていることが分かった。先ほどのお面の人物は、お面を取りその紅い瞳を露にしていた。先ほど頭上から低い男の声がしたあたりからして先ほどのお面の人物—―白藤は男なのだろう。
「…動くな。まだ俺の腕ン中いるんだ。」
「うわあー白藤ってもしかして男色とかだったりする?」
「え!?そうだったの!?そうなの白藤!?はっ、まさか零様を狙ってたりとか…。」
「え!?そうなの!?俺狙われてたの!?うきゃあー!!」
「エー嫌ですよおー零様が…白藤に…ぶふっ…!!!!」
「笑うなお前やめてくれ気色悪い!!!」
「ええーいーじゃないですかあ笑笑」
「棒読みやめて怖い!!もしかしてお前俺の寝床に白藤を…!?」
「嫌ですよ!零様の初夜這い体験はなーながもらいますんで!!未来永劫零様の寝床や夜這いはなーなだけです!!」
「え!?きっしょ!!悪寒しかしないんだけど!!!」
「はい!?今きっしょって言いました!?酷くないですか酷くないですか!!」
「酷くねえよ!!なーなが勝手に気色悪い事言ってんじゃねえか!!」
「うわあ―人のせいにするんですか零様鬼として最低ですよ!!」
「いや鬼として最低ってなんだよ!お前は鬼として色々おわってんじゃねえんですかああ!??」
「きゃあ零様ってばこわあい!!!誰か―誰か―!!あいやでも待ってこんな零様他の人に見せたら嫉妬で死んじゃううう!!」
「うっせー!きっしょ!!きっっっっっっっしょ!!!」
「はあーーー!?なあに言ってんですか!!乙女心も20歳後半のくせに理解できないんですかあーーーー!!??」
「ってんめえ…!」
「きゃあ―零様が怒ったあ!でもそんなところも好きー!!」
「うっわー流石にひくぅー。」
「そんな顔して大人げないですねえ零様ぁー?」
お互いがお互いを挑発しあう中、靴音が部屋に響いた。それはコツコツと音を立ててぴたりと止まり、威厳のあるゆったりとした声で言った。
「お黙り。」
その一言で、場は静まり返った。そして片膝を地につき、その人物に向かって頭を垂れた。
もちろん白藤も、ではなかった。白藤は少年を横抱きにしたまま突っ立ていた。
「【ボス】、今回ここに来たのはこの少年を俺の弟子にするというホウコク。じゃ。」
そう言って白藤が言うとクワッと目を見開いて白藤の横で跪いていた男――【零】と女――【なーな】が白藤を見た。
「白藤が弟子を…!?!?!?!?!?」
「$%&’&%$%&’&%&’&%$#$%&’!!!!!!!!!!」
「うわーほんとだ黒いほうが少年君の耳に!!!!」
「ぎゃー明日は槍が!雷が!あられが!」
なーなと零が交互に喋っていく。二人は話し出すと止まらないようで【ボス】が止めるまでずっとしゃべり続けていた。
「本当に愉快だねお前たちは。」
「え!本当ですか!キャー嬉しいですー!」
「愉快だってさーえー照れるー」
「…ギャーピーギャーピーしてるの間違いでは…」
【ボス】が手をバチン、と叩いた。すると三人は黙りこんだ。【ボス】は一つ頷いてから白藤のほうに顔を向ける。その顔は、笑みを浮かべている。ぞっとしてしまうような、笑みを。
「それで白藤。なんでいきなり人間を弟子にとるなんてことを?」
「決めたんで。」
「理由は?」
「俺が決めたから。」
「具体的に。」
「ピコーンみたいな。」
「お前は馬鹿か?」
「馬鹿じゃない。」
「人間は我々にとって食料だが。」
「喰わなければいい。」
「人間を前に理性を保てる空腹な鬼がどこにいる?」
「ここに。」
「他。」
「俺が言えば何とかなる。」
「ならなかった場合は?」
「大丈夫だ。」
「大丈夫じゃなかった場合は?」
「…鬼は、恩は決して忘れない。」
そう白藤が言うとその場が静まり返った。【ボス】も白藤の目を見つめたまま微動だにしない。
そんな沈黙を破ったのは少年だった。
「僕は喰われるのですか。」
そう、淡々と言った。
何かにおびえるわけでも震えるわけでもなくそう言った。少年は自身の死について無頓着だった。
「僕を、喰いたいですか。」
まるで挨拶をするように言う。息をするように言う。
「怖くないのかい、死が。」
「死?僕は特に何も怖くはありません。」
少年は今まで変えなかった表情を初めて変えていった。
「だって、生に縋るのは滑稽でしょう?」
途端、ピキッ…と空気が張り詰めたものに変わった。
息のしづらい泥沼にはまったような感覚。誰も何も言わなければ窒息してしまうかのよう。
しかし白藤はさらっと言った。爆弾を。
「…ということだから。俺の弟子で。コードネームは、…【葵】。」
「なっ…!白藤!あんた!」
なーなが何かに気づいたように立ち上がる。しかし白藤はスタスタと後ろを見ずに歩き、重そうな扉を軽々と開けた。そしてふと何か思いついたように言った。
「葵は、鬼門院に入学させるので。」
完全にギギギ…という扉を閉じ、外に出ると冷たい風が二人を襲ってきた。上のほうでは月が悠々と地を照らしている。
葵がふと下をみた。そこは…。
「葵。ここは鬼が住む場。お前ら人間の言う『山の洞窟の中』だ。」
鬼の世界が、広がっていた。
〈服装紹介〉
白藤→ワイシャツに黒いネクタイ、その上にフ―ディー。ベルト、ズボン。
なーな→ワイシャツの上にニットセーター、ベルト、スカート。黒いネクタイをハチマキみたいに頭に巻いている。
零→ワイシャツ、ジャケットを肩掛けしてる。ハチマキを首に巻いている。ベルト、ズボン。