出会いと思い出
初めてのお使いならぬ初めての連載します。長くなるかもです。
それは、ある夜の事だった。
大きな満月が地上を照らし、町を明るくしているのが窓から見えていた。
今日の夜は特に星がよく見えていた。
風が吹きカーテンを揺らす。窓を開けたまま夜を迎えるのことがどれだけ命知らずなことかこの部屋の主が知らないはずはなかった。
暗闇の中月明りだけで夜風に当たりながらさらさらと机に向かいペンを走らせるのはまだあどけなさを残す少年だ。
まだ入浴を済ませていないのか外出着を着ている。
傍には内心ハラハラしているであろう侍女兼乳母が控えていた。
しびれを切らした乳母は恐る恐るこの部屋の主である少年に声をかけた。
「あの、そろそろお眠りに…。」
その乳母の声に少年が顔を上げ、口を開きかけたその時だった。
窓がガシャンと大きな音を立てて粉々に砕け散ちり、静かだった部屋に風が一気に部屋の中に入り込みビュウウウ…という音、続いてトッという音が部屋の中に響き、乳母は風で煽られるスカートを抑え、窓辺に人外じゃないようなバランス力で立っているそれに目を向け、恐怖のあまり絶叫した。
「い、いやああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
その乳母の声を聞き、少年は乳母の視線の先を見ると一人の人物が少年の視界に映り込んできた。
「…不用心だな。」
月明りに照らされて移ったのは、白銀の髪だった。
長い髪を一つに結び、顔の二分の一が黒い、夜に紛れ込んだお面で覆われ、目元が見えない。パーカーを服の上に羽織り、ポケットの中に手を突っ込み両足で窓辺約5センチほどの厚さのところにのっかっていた。
そのお面の人物はくるりと顔を少年のほうへ向けた。それと同時に人間の耳の形をしたそのお面の人物の耳についているピアスが揺れ、お面についている植物もファサ、と揺れた。
表情こそ目が隠れていて分からなかったがお面の人物の口は半開きになっていた。
お面の人物を見てもピクリともしない少年とは違い乳母は震え、叫びだした。
「じ、人外の色…!!!だ、誰か!!助けぇ…!!!!」
乳母の金切り声はすぐに消えた。というより、出なくなった。お面の人物が、乳母に一瞬にして近づき手を振り上げ何かを乳母の腹に刺したからだ。
血が乳母の腹から静かに血がしたたり落ちた。一瞬の出来事に乳母も呆然とし、現状を分かり切れていなかった。
「ぐ、げほっ…!」
乳母は口から血を噴き出しバタ…と倒れた。そこでやっと自分の現状に気づいたのか驚愕に満ちた顔をして息絶えた。外傷はお面の人物が刺した一点のみ。
乳母は静かになったが初めの乳母の絶叫で使用人が起きたのか、下の階が騒がしくなり始める。
「チッ。」
お面の人物は舌打ちをした後、少年に視線を戻す。
その視線を受けてもなお少年は表情一つ変えなかった。
興味がないのか恐怖がないのか。お面の人物は乳母の体を足で潰し、出た血液を舐めた。
それはまるで見世物であるかのようにゆっくりと舌で血をすくった指を舐める。
「…鬼、ですよね?」
少年が口を開き、お面の人物の血の付いた口元を見つめた。少年の言葉にお面の人物は待ってましたと言わんばかりにわずかに口角を上げ言った。
「…お前。俺と一緒に来ないか。」
一歩踏み出したと思うとすぐ目の前にお面の人物は来ていた。乳母のところから少年のところまで最低でも6歩歩くほどの距離がある。それでも少年は下からお面の人物を見上げた。
お面の人物はお面をかぶっているせいで表情がわからない。だが、差し出された手を少年が見、ふとお面の人物を見るとお面の中で紅い瞳がじっと少年を見ているのがわかった。
ついでに言うとお面の人物の差し出した手はブルブルと震え、足はガクガクしている。
口元はヒクヒクしモニョモニョしている。
このお面の人物は人外。それは人間の髪色ではない白銀の髪色と口の中の犬歯が鋭いのを見ればわかる。普通なら恐怖で腰を抜かす。だがそれをしないのはこの少年の瞳がこのお面の人物と同じく人外の色だからだろうか。それともこのお面の人物が案外怖くなさそうなぐらい震えているからだろうか。
少年は、差し出された手に己の手を重ねた。
「…今からお前は俺の弟子になるんだ。」
そう言うとお面の人物はつけていた黒と白のピアスのうち黒いほうを少年の耳にブルブルの手でつけた。
穴をあけていない耳朶からは血がにじみ、ピアスの針には多少血が付着した。
それでも少年は表情を変えずにお面の人物を見ていた。
泣き叫ぶわけでも笑うわけでもなく、ただ見つめていた。
お面の人物は少年を横抱きに抱えると窓辺に足をかけ空へと跳んだ。冷気が肌をかすめ、少年の着てる服は風が容赦なく刺さる。だが、夜の町の空は静かで、物音がせず星々に見守られながらお面の人物はトントントンと家の屋根を踏み台に跳んでいく。
「弟子って。お姫様扱いなんですね。」
「ぶふっ…。ん゛ん…いや、違うな。もっと…ゴギャーンって感じだ。」
明らかに語彙力のないお面の人物に少年は何か言うわけでもなくただ風に吹かれ、お面の人物に抱きかかえられて空を跳んでいることに安堵を感じていた。
「…寝るなよ俺の腕ン中で…。折角ちょっとカッコつけたのに…。」
遠くから馬の鳴き声が聞こえてくる。エイレーネ国家精鋭部隊の連中だろう。お面の人物は跳ぶのをやめ、高速で走り出した。
「…今度は、守り切るんだ…。」
お面の人物のつぶやきは誰に聞かせるわけでもなく、また誰にも聞かれることなく夜に溶けていった。
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