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04

港町を発って3日。大して魔物とも出くわすことなく順調に街道を進んでいた昼下がり…———。


「なんであそこでスキルなんか使ったんだよ馬鹿!!なにもしなければやり過ごせたのに!!」

「だっ、だって倒せるかもって思ったから……」

「ちょっと二人とも!あんまり大きな声で喋らないでよ!余計な魔物まで引き寄せちゃうでしょ!」


何故だかわたし達は3人の冒険者らしき少年少女を抱えたまま魔物から逃げるように森の中を走っていた。


「はぁ………」

「このままじゃ埒があかねぇな。確かこの先に開けた場所があったはずだ。そこで魔物どもを迎え撃つぞ」

「了解」


両脇に抱えた少年2人を抱え直し、グラムの口の中に居る少女を気にしながら少し走る速度を上げる。

十数秒程で目の前に大きく開けた場所が現れる。その中程で滑りながら足を止め、両脇の少年を降ろし少女にもグラムの中から出てもらう。

追いかけてきた魔物達は少し距離を置いて足を止める。最初に追いかけてきていたオークの群れだけでなく、いつの間にか狼の魔物や猪の魔物の群れまで増えている。


「こいつぁ丁度良い!手加減の練習にはもってこいだな!」

「数ばっかで弱そうだけど…。まぁやらないよりはマシかぁ」


一度肩を回して前に出る。

レベルやステータスの差はどうしようもないから魔物達に多くは望まないけれど、それ故の力加減の難しさは厄介過ぎる難題だ。はてさて、全部倒すまでにどれくらいの感覚を掴めるようになれるか…。


「お、おい!まさかこの数相手にするつもりか!?」

「さ、流石に騎士様が強くても無理よ…!逃げた方が…!」

「大丈夫。そこ、絶対動かないでね」


指を指して3人に念を押す。

魔物達に向き直ると先程よりも間合いが近くなっていた。少し視線を外している間に距離を詰めていたようだ。


「やる気があるのは結構だけど、力の差もわからず喧嘩を売るのはただの無謀ってものだよ」


一つ溜め息を吐いてから挑発するように手招く。

先頭に居たオークが大きな咆哮を上げて、手に持っている棍棒を振り上げながら襲い掛かってきた。

わたしよりも大きな体の頭上から勢い良く振り下ろされた棍棒を軽くはたく。埃を払うような感覚でやったつもりだったが、思いの外力が入っていたのか棍棒はオークの手首をぶら下げたまま遠くへ飛んでいってしまった。


「あれぇ…?おっかしいなぁ…。海賊達相手の時はもっと上手くできたのに…」


痛みに悲鳴を上げるオークを他所に、手を握ったり開いたりプラプラと軽く振ってみたりする。

人間よりも間違いなく魔物な方が頑丈なはずなのに、どうして魔物の方が悲惨な結果になるんだろうか。


「人間相手だったからじゃねぇの?意識して手加減してた分に加えて無意識で力を制御してたんだろうよ」

「あぁ…そういう…」


アンデットになって感情が鈍くなったとはいえ、元が普通の人間だし人を殴った経験なんてなかったのだから当然といえば当然か。

痛みに悶絶していたオークが歯を食いしばりわたしを睨む。武器らしきものはもう無いし逃げるかと思ったが、口を大きく開きながら襲い掛かってきた。噛み付くつもりらしい。


「そう…。ま、簡単に諦めないところは評価してあげるよ」


迫ってきたオークの鼻先をデコピンで弾く。ほぼ同時にオークの頭が弾け飛び残された胴体は走ってきた勢いを残したまま地面に転がった。

後ろから「ひっ…!」って小さな悲鳴が聞こえた気がしたけど気にしない。


「さぁ、次は誰かな?」


少し怯んだ様子を見せた魔物達だったが、残ったオークが揃って雄叫びを上げると一斉に襲い掛かってきた。




力加減を意識しながら戦うこと数十分———。

途中で戦闘音を聞いたことで魔物が幾らか増えたものの、「練習台が増えただけだ」と笑ったグラムの声を聞きながら殴り続けていたら、最後の2割ぐらいはなんとか形を保ったまま倒せるようにはなっていた。


「ふぅ…。取り敢えず、無駄にならずに済んだかな?」


手を払いながらグルッと周りを見渡すと最早地獄絵図といってもいいぐらいの悲惨な状況が広がっていた。

開けた草原はいつの間にか血溜まりと飛び散った肉片、半壊した死体やまだ形の残る死体の山で埋め尽くされていた。


「…で、これどうしようか…?」

「そのまま放置はできねぇな。魔物は瘴気の塊だ。その死体も言わずもがな。放置してたらこの場所に瘴気溜まりができて周囲が穢れた土地になっちまう」


と、いうことは浄化魔法でも掛ければいいのだろうか。神聖魔法ならいけるかな…?


「わ、わたしにやらせてください!」


突然後ろから大きな声でそう言われ、振り返る。

身の丈程の大きな杖を構えた紺色のボブヘアの少女が少し緊張した面持ちでこちらを見上げていた。


「キミは…」

「わたしはこう見えてクラスが『聖女』なんです!まだまだ見習いだから力は騎士様よりずっと弱いけど…でも、お手伝いはできます!」

「ほぉ!『聖人』系のクラスたぁ珍しい!」


グラム曰く、『聖人』、『聖女』、『聖君』の3つのクラスは聖神の加護の元に与えられる特殊なクラスらしい。

浄化や強化、回復に特化したクラスで、ほぼそれ以外はできないがその分一つ一つの魔法の威力が上がる補正が掛かっている上に常人より高いランクの魔法が使えるようになるらしい。

因みに聖神とは女神に匹敵する、この世界を支える三柱の神の内の1体らしい。


「もう一人は?」

「あぁ。悪神だな。悪つっても立場が複雑でな…」

「わたし以前教会で神官見習いをしていたので神父様から聞いたことがあります!命を生み出すのが女神様であり、その生を正しくお導きになるのが聖神様!そして、命がより強く生きられるよう試練をお与えになるのが悪神様なのだと!」

「お、おぅ…そっかぁ……」


少し興奮した様子で早口に捲し立てた少女の気迫に若干気圧されながらも頷く。


「悪神なんて呼ばれてっから悪い方にイメージされがちだが、本来の立場的には全く違う役割を担ってるからな。おかげで色々勘違いされがちなんだよ」

「なるほど」


神様も色々立場が複雑なんだな。

そこでふと、思い出す。わたし達には女神と神竜の加護はあったけど聖神と悪神の加護はなかった。

命を生み出すのは女神の役割だというのなら女神が自分で加護を付与するのは分かる。ならば神竜は?わたし達を産みだす過程で関わったから加護を付与したのだとしたら、聖神と悪神は関わらなかったのだろうか。

うーん…。うん。考えても分からないことは一旦放っておこう。


「じゃあ、取り敢えずこの場の浄化はキミに任せるよ。疲れたら代わるから、いつでも言って」

「わかりました!」


杖を構えると少女は何かの詠唱を始める。次第に周囲には綿毛のような光の粒のようなものが現れ、ゆっくりと魔物の残骸や地面に降り注いで溶け込んでいく。光を取り込んだ残骸は淡く発光を始めるとゆっくりと灰のようになって崩れていった。

周囲はまるで絨毯のように光に溢れている。幻想的な光景に感心して息を漏らして居ると光の粒が溶け込んだ地面から次々に花が咲き始めた。

いつの間にか地面の血溜まりも消えていて、あっという間に地獄絵図が楽園のような花畑に姿を変えた。


「おぉ…!」


見事な光景に思わず拍手を送る。音に気付くと少女は少し上がった息を整えながら照れ臭そうに微笑んだ。


「浄化ってこんなふうになるんだ」

「お前も一応出来るけど、お前の場合やり過ぎると森になるから、やるなら手加減覚えてからな」


しゃがんで足元の花をつつく。

浄化の魔法は穢れを清めた後穢れの元をマナに分解して自然に還すため、還元されたマナによって大地に生命力が溢れてこんなふうに植物が芽吹いたりなどの現象が起こるらしい。


「過去に大規模な浄化をして枯れた土地を森林地帯に変えたなんて話もある。まぁそのレベルの浄化能力を持つようなヤツ今の地上には居ねぇけどな」


言いながらグラムはクックッと喉を鳴らして笑う。分かっている。わたしを除いて、だろう?

溜め息を吐きながら立ち上がり少しズレたグラムを位置を直す。


「さて…、それじゃあわたしは行くよ。これからはさっきみたいなことが無いように気を付けるんだよ」

「え!?もう行っちゃうんですか!?」


声を上げたのは赤毛の少年。真っ直ぐな深緑の瞳がわたしをジッと見上げてくる。


「いや、一緒に居る理由はないし…」

「首都…いや、近くの街まででもいいので!もう少し一緒に行きませんか!?」

「せ、セオ…?急にどうしたんだよ…?」


少年の提案は他の仲間達にも予想外だったらしくてお互いに顔を見合わせている。

もう一度断ろうかと少年に視線を戻すが、どこか期待を込めたようなキラキラとした視線で真っ直ぐに見上げられる。

一体何がそんなに彼の心を掴んだのだろうか。わたしがやった事といえば目の前にバイオレンスな血の海を作ったぐらいだぞ。そんなに良い印象は無いはずだ。

しかし絶えずキラキラした視線を向けてくる少年の意思は変わらないようで、わたしは仕方無く…仕方無く大きなため息を吐いて彼の提案を受け入れることにした。


「……近くの街までだからね」

「!あ、ありがとうございます…!」


まるで飛び跳ねるような勢いで喜ぶ少年。他の二人も多少困惑しているようだが自分達よりずっと強い存在が旅に同行してくれるという安心感の方が強いのか顔を見合わせて控えめだが笑顔を浮かべている。


「じゃあ改めて自己紹介を!僕はセオ。クラスは『勇者』です!」

「わたしはアンナ。先程も言ったようにクラスは『聖女』です」

「オレはアンドレ!クラスは『守護騎士』だ!」


重そうな身の丈程の大盾を持った金髪の少年がドンと胸を叩く。


「…この世界って勇者が居るんだね」

「一応『魔王』も居るぜ。と言っても、おとぎ話みてぇに使命だとか何か重大な役割があるわけじゃねぇ。簡単に言っちまえば『勇者』も『魔王』も世界のバランスを取るための抑止力みてぇなもんさ」

「ふーん…」


人間が力を持ち過ぎないように『魔王』という抑止力があり、魔物が人間を滅ぼさないように『勇者』という抑止力がある、ということかな。何事も過剰なのは良くないということだな。

グラムの説明に頷いていると熱烈な視線が集まっていることに気付いて自然とため息が溢れる。どうしても面倒だと思ってしまうが、まったく…わたしはいつからこんなに心が狭くなってしまったのだろうか…。


「…わたしはフリュー。クラスは…一応、『聖騎士』だよ」

「俺様はグラム。コイツの相棒で見た目通りの『ミミック』だ」

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