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03

船長らしき男はわたしをジッと見つめてくる。『鑑定』でも使われているかとも思ったが、そんな様子はなくただ見ているだけのようだった。


「なるほど…。ウチの馬鹿共じゃあ歯が立たねぇわけだ…」

「わかるの?」

「あぁ…。『鑑定』なんてスキルに頼らなくても経験がありゃあある程度は推測できるもんさ…」


言いながら船長は足元に置いていた大斧を担いで階段をゆっくりと降りてくる。


「テメェさんは普通じゃあねぇ…。人間の常識で測れるようなステータスをしてぇねぇのは雰囲気でわかる…」


動きも口調もゆっくりだが、対峙した瞬間空気が震える程の強い殺気を向けられる。

部下が雑魚ばっかだったから船長もそんな大したことないのかと思ったが、彼はそこそこ実力があるようだ。

船長の体がゆらりと傾く。バキッと床板が割れるような音がしたかと思えば一瞬で目の前に大斧が迫った。思っていたよりも早いそれに少し驚いたけど、目で追える速度だったので片手で受け止める。

衝撃で周囲の空気が少し震えたが、わたしの体が動くことはなかった。ダメージらしい衝撃も痛みも無いのはレベル差やステータス差なんかもあるんだろう。

微動だにしないわたしに驚いたように目を見開いた。しかしすぐに楽しそうに口角を上げて一旦距離を取るように後ろに飛び退く。


「…ハハッ…!」


絞り出すような笑い声。声色は弾んでいるが顔は若干引き攣っているように見えた。

実力差を肌で感じとっているのか、今度は安易に踏み込んでくることはせずに距離を取ったまま警戒している。


「こんな化け物と戦えるたぁ…、陸も悪かねぇなぁ…」

「それはどうも。…まぁ、長引かせる気はないけど、」


踏み込んで一気に距離を詰める。

思い切り殴ってやろうかと思ったけど、建物を無闇に破壊するのも悪い気がして直前で力を入れ過ぎないようにグッと抑える。


「―――ね!!」


握った拳を船長の腹に打ち込む。

結構力を抑えたつもりだったがそれでもかなりの威力が出たようで、船長の体は簡単にフワリと浮いて勢い良く壁に飛んできぶつかってめり込んだ。

床に倒れた船長は胃液のようなものを吐き出すと暫く咳き込んだ後口元を拭いながらフラフラと起き上がる。しかし結構なダメージが入っているのか、震える膝に上手く力が入らないようですぐに崩れ落ちてしまった。


「今自分達で町を出ていくならサメの餌は勘弁してあげるよ?」

「…はっ!言ってくれる…!」


唾を吐き捨てて大斧を支えに立ち上がった船長の目は、圧倒的な実力差を理解しながらもギラギラと怪しく輝いている。

大斧を振り上げた船長が獣のような雄叫びを上げながら飛びかかってくる。しかしその動きは先程とは打って変わって非常に大雑把だ。筋がメチャクチャだから読みにくくて捌きにくいけれど、力任せな動きは酔っ払いの千鳥足の方がまだマシに見えるレベルだ。


「さっきの一撃でかなりやられてんな。もう決めてやった方が慈悲ってもんだぜ」

「うん。そうだね」


グッと拳に力を入れて眼の前に迫った大斧の刃を受け止める。刃先が拳に触れた瞬間粉々に砕け散ってその光景に船長の目が見開かれる。その顔を見下ろしながら背中に手を伸ばしグラムの鎖を掴むと、それを思い切り引っ張ってグラムの体を船長の頭上から振り下ろす。

破裂音のような爆音が周囲の響き渡り船長が床板を割って更に先の地面に頭からめり込んだ。

暫く痙攣した後、ゆっくりと動きが止まる。それを確認してからグラムを背中に背負い直すと、シン…と静まり返っていた周りから少しずつ歓声が上がっていった。


「う…嘘だろ…。船長が……」

「ぅ、うあああぁぁぁーーーー!!!」

「ばっ、化け物…!!」


悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように建物から飛び出し逃げていく船員達。そのまま放っておいてもいいけれど万が一もう一度この町に来てやり返されるようなことがあっても面倒だ。

建物の外に出て港に走っていく男達の背中を眺める。一人も漏れずに真っ直ぐ港に停泊している船に向かっているようなので、後ろから追いかけて一網打尽にしてしまおう。

…とはいえ、どんな方法が一番効くだろうか。

必死に船へと走っていく海賊達の背中を眺めながらゆっくり歩きながらその後を追いかける。


「んー…。……あっ!そうだ!」


竜魔法を使って海賊達の船の上辺りまで飛び上がる。上から逃げていった船員達が全員乗船し、船が沖の方まで出て行くのを暫く待つ。


「…なるほどなぁ。お前さんもなかなかえげつないこと思い付きやがる」


クックッと喉を鳴らして笑うグラム。改めて指摘されるとなんだか居た堪れないが、これが一番手っ取り早いと思ったんだ。


「嫌な奴だと思う?」

「まさか。俺様はそのくらい派手な方が好みだぜ」

「よかった。キミが嫌じゃないならいいよ」


少し沈んでいた心がスッと軽くなったような気がして小さく息を吐きだす。

船員達が乗り込んだ船がゆっくりと動き出す。それに合わせて空を滑るように移動し、ある程度沖に出たところで港との距離をチラリと確認する。

このくらいの距離なら波が立っても街への被害は殆ど無いはずだ。

ゆっくりと息を吸う。右手を頭上に掲げてイメージを作ると風が唸り声を上げながら集まってくる。数秒程でわたしの体長の5倍ぐらいの直径に膨らんだ風の球体が出来上がった。

それをピンボール玉くらいの大きさに圧縮し、手のひらをひっくり返して海に向かって落とす。

フワフワと風船のような軽い動きで真っ直ぐに海に落ちた球体は、数メートル程沈むと一瞬光を発して周囲の水を巻き込みながら徐々に大きくなっていき、あっと言う間に巨大な渦潮を生み出した。

渦潮に飲まれた海賊船は船体を大きく揺らしながら少しずつ渦の中央に流れていく。船上に居る海賊達も、揺れに耐えられず放り出されている者も何人か居る。

その光景を眺めて居ると不意に渦潮の中に黒く巨体な影が揺らめいた。

それが何か確認しようと覗き込むように少し頭を下げると同時に、渦潮の激しい流れを乗りこなしながら太く巨大な触手が水面を抜き破ってきた。


「あれま」


吸盤の付いた白く細長いそれはゆらゆらと揺れ動きながら渦潮の中の船を逃すまいと一本、また一本と絡みついていく。


「クラーケンの縄張りだったのか」

「…これ、わたしが手を出さなくてもよかったかな?」

「いや。クラーケンは海魔の中じゃ温厚な方だからな。なにもしなかったからアイツらを逃してたかもしれねぇ。ヤツを叩き起こすにはいい刺激だったはずだ」

「ふぅん…。ならいっか」


バキバキと激しい音を立てながら崩れていく船体はあっという間に形を失い、ズルズルと海の中へと引きずり込まれていった。

クラーケンが姿を消すのと同時に渦潮も追い付いていき徐々に静かな海の姿へと戻っていった。

穏やかな波の音を暫く聞いた後、振り返って港に戻る。

港には遠くからでも分かるような人混みができていて、その前に降り立つと人々の視線がこちらを射抜いた。

まるで得体の知れないものを見るようなその目は、先程の光景を目にした結果だろう。

仕方無い。一つ息を吐いて背中からグラムを下ろす。ビクリと震えた町民達を他所にわたしの意図を汲んだグラムがモゴモゴと動かしていた口をバカッと開けた。


「っお母さん!お父さん!」


飛び出してきた二人の子供に町民達から安堵と歓喜の声が上がる。

涙を流しながら抱き合い再会を喜ぶ彼らに、一仕事終えた気分でグラムを背負い無言でソっとその場を離れる。

一網打尽にしてしまった方が楽に対処できると思ってそうしたけれど、一般人の目からは恐ろしいもののように写ったんだろう。それは仕方無い。

アンデットになってやはり何かが欠落してしまっているようだ。あんなことをしても、罪悪感も恐怖心も何も無い。

だが、これだけ強い力を持つんだ。少し欠陥がある方がいいのかもしれない。


「……力加減は、覚えないとなぁ」


歩きながら何度か手を握ったり開いたりする。

記憶にある以前の自分の手より大きいこれは、きっと簡単に色んなモノを握りつぶせるだろう。気を付けないといつかこの手で…―――。


「騎士様ー!」


街の入口のゲートに差し掛かったところで後ろから声が掛けられる。振り返るとあの子供達が一生懸命こちらに走ってくる姿が見えた。

視線を合わせるようにしゃがんで待つと、小さな身体が勢い良く胸に飛び込んできた。


「騎士様、もう行っちゃうの…?」

「うん。旅の途中だし、少しやり過ぎっちゃったみたいだし…」


ほんの少し視線を上げると街の中に不安そうにこちらの様子を伺っている大人達が見えた。わたしが子供達になにか危害を加えないか心配なんだろう。

気持ちは理解できなくないが心外だ。流石にそこまで外道に落ちたつもりはない。

子供達も大人達の感情を敏感に感じ取っているのだろう。お互いに顔を見合わせると泣くのを堪えるような顔で俯いてしまった。


「大丈夫だよ。縁があればどこかでまた会えるさ」

「えん…?」

「人と人とを繋ぐ見えない糸のような繋がりさ。それは死ぬまで切れないって言われているんだ」


だから大丈夫。そう言って二人の頭を撫でてあげると少しだけ顔色が明るくなった。

最後に一回ずつハグをして手を振って別れる。

グラムが言うにはこの長い街道を道なりに歩いていけばいずれ首都に辿り着くそうだ。


「それまでには魔物も出るだろうし、手加減の練習は十分できるだろうよ」

「そうであってほしいな」


なんでか声が上手く出なくて絞り出すような感じになってしまった。だけどグラムは一つため息を吐いただけで特になにも言ってこなかった。それだけでも、なんだかありがたい。

吹き抜ける風がマントを揺らし、グラムの鎖が当たってジャラジャラと音を立てる。

その風に乗ってどこからか「大丈夫だよ」と声が聞こえた気がした―――。

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