二話
スマホからの情報に俺は座りこんでいる。ある程度予想がついていた事だ。現実味が無いからか思ったよりダメージは少ない。ただ、とんでもない物送ってくれたなと言いたい気持ちを抑えて俺は立ち上がる。すると、俺のスマホを呆然と見つめているニーロとセシリアがいた。冬香はスマホを操作している。
「なんで、竜が人を襲っているんだ......?」
ニーロは現状が理解出来ないのか引きっつった顔でそう言った。「もう一回見せてくれ」と言うニーロに俺はまたその動画の再生ボタンを押した。その動画を険しい顔で見つめる二人、それを何度も何度も繰り返した後、二人は目を合わせていた。どうしたんですか?と俺は聞くと何でもないとスマホを返された。俺は動画をダウンロードし、元の世界での情報を探る為、SMSを見て回ろうとした。すると突然電波は消え、アクセスできなくなった。
「電波が......」
何と言う事だ。俺は千載一遇のチャンスを逃してしまった。何度も更新してみるが繋がらない。
「冬香、そっちは何か情報あったか?」
俺は同じくスマホを持っている冬香に問いかける。すると、笑顔でサムズアップしてくれた。
「どんな情報があったのか?」
「ひとまず、世界は無事だよ普通に投稿してる人もいたし。私たちの町だけが被害にあったようだね」
その言葉に安堵する。町が無くなっているのは残念だが、世界が無事なら戻ってもまだ何とかなる。あわよくば何かしら向こうで俺達を探しているという願望を交えつつ次をどうしようか考えているが、こちらに出来る事はない。次のネットが繋がるまで待つしかない。その日は解散し、それぞれの部屋へと戻っていった。
***
そして次の日。俺は久しぶりに大きな声を上げた。上げた対象はニーロだ。
「なんで俺達を依頼に連れってってくれないんだよ!」
「お前たちを守るためだ。昨日の事もあるし、お前が狙われてるかもしれねぇんだ。お前に何かあったら俺は心配だ」
「分かった!んじゃ気を付けて行けよな!」
自分でも驚く程の速さでそう言った。
「お昼ごはんに困ったらこのお金使ってね」
セシリアからお金がたんまり入った袋を受け取る。俺と冬香は二人を見送ると冬香は部屋へ、俺はお金の入った袋から何枚かセシリアから別に貰っているお小遣いが入っている袋に入れ、ポケットにしまうと俺は老婆が居た場所に向かう。そこには昨日と同じように老婆が座っていた。
「おやおや、昨日のボウヤじゃないか。何用で?」
「占ってほしいんです。とういうか、ずっとここに居るんですか?」
「そうじゃなぁ」
不気味に笑い、しゃがれた声で言う老婆に俺は気味悪いと思うが、昨日起こった出来事を伝える。するとまた「そうか、そうか」と不気味に笑い椅子に座るよう言われた。俺は素直に椅子に座ると、老婆は水晶に手を伸ばした。
「何を占うのかい?」
「俺はこれからどうすればいいですか?」
「お悩みのようじゃな」
「まぁ、色々ありまして」
頭を掻く俺に老婆はまた不気味に笑った。そして、水晶に伸ばした手を一定の速さで優しく撫でるように動かす。そして突然老婆が目を大きく見開いた後、静かに目を閉じた。そして不気味に笑いながら目を開く。
「今日はギルドに行けばよい」
「行くとどうなるんですか?」
「それは行ってからのお楽しみじゃ。それとお代は結構じゃよ良い物を見せてもらったからのぉ」
「その良い物を教えてくれたりは?」
「ないのぉ」
「そうですか」
俺はその場所から立ち上がり、言われた通りにギルドへと向かった。ギルドの前へと来ると何やら中が騒がしい。なんの騒ぎだと中へ入ると大男と自分と同じくらいの#学生服__・__#を来た青年が胸倉を掴まれていた。青年の近くにはぶかぶかのパーカーを着た小さな子が体を震わせフードを被り地面に座り込んでいる。俺は咄嗟にその間に割り込んだ。
「どうしました?」
「あぁ!?何だてめぇは!!」
大男は俺を見るや否や大きな口を開け耳の奥まで響く声で怒鳴る。俺は少しだけ恐怖を覚えたが平然を装う。
「いやー外まで声が聞こえてまして、何事かなと」
「こいつがぶつかってきて俺の防具ぶっ壊したんだよ!!」
大男は少女に指を指す。大男のすぐ下には二つに割れたボロボロの胸当てが落ちていた。
「だから僕達は隣は通りましたけど当たってませんって!」
青年は必死に弁解する。その言葉に大男はまた大声で叫んだ。
「あぁ!?何言ってんだ!!防具が勝手に壊れる訳ないだろ!!」
二人の意見が食い違い水掛け論になっている状態のようだ。
「誰かこの人達を見ていた人いませんか?」
俺は周りに居た人たちに問うが反応が返ってこない。だったら物事を穏便に済ますにはこれしかない。
「修繕費、俺が払いましょうか?」
その言葉に大男は青年を離した。青年はバランスを崩しその場で尻もちをつく。大男は俺の体を脳が直接揺れる程激しく揺らす。
「本当か!?いいんだな!?」
少し気分を悪くしながら俺は首を縦に振る。
「えぇ、限度はありますが」
「あぁいいさ!!出してくれるならよぉ!?」
大男が要求してきた金額は銀貨三枚だった。この世界では銅貨、銀貨、金貨が通貨として扱われており、元の世界で言う所、それぞれ銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円と計算出来る。俺は袋から銀貨五枚を渡すと、大男は笑いながらギルドから胸当てを持って出て行った。
「ありがとうございます。お金はいつか返しますので......」
青年は襟を正し、俺に向かって礼を言った。
「いや、大丈夫ですよ。それよりその服って......」
「えーーーあーーー僕結構訳アリで、別の世界から来たっていうか......」
頭を掻き、あたふたと目線を左右に移動させながら青年はそう言った。
「すごい偶然ですね。俺も同じなんですよ」
そういうと青年の顔は目に見えて明るくなった。
「そうなんですか!?僕敬人って言います!」
俺の手を取り上下に勢いよく揺らす敬人、俺も同じ今日境遇の人と出会い何だかほっとした。
「俺は千秋って言います、その子は?」
俺は敬人の足にしがみついている小さな子に目線を向けた。その子は女の子でよく見ると犬耳が付いた獣人だった。しかし汚れまみれで、周りに親もいなさそうだった。
「あぁ、この子はここにくる道中で出会って......ここまで連れてきてくれたのもこの子なんです」
少女は敬人の足元で首を一生懸命に縦に振る。敬人の学生服も所々深く傷が入っており、ここに来るまで楽な道のりではなかったのだという事が分かった。俺はしゃがみその子と目線を合わせる。
「名前は?」
「レイル......」
「レイルちゃんね。ひとまず体を綺麗にしましょうか」
その言葉にレイルは目を輝かせ、首を縦に振ろうとしたが敬人に目を合わせる。敬人はレイルに頷くとレイルは俺に何度も首を縦に振った。俺達は一先ず自宅へと向かった。自宅にはシャワーもあるし冬香もいる。その道中老婆の姿は居なかったが老婆が言っていたのはこの事だろうと納得した。
***
「きゃー!!かわいいーー!!」
冬香がスマホでレイルを撮る。レイルは何が起こっているのか分からないようで、眉毛をハの字にしていた。何枚か撮った後満足したのかスマホをポケットにしまった。
「それで?私にこの子を洗って欲しいと?」
「うん、名前はレイルちゃんね」
「しょーがないなーんじゃレイルちゃん、いこっか。」
レイルは首を縦に振り、冬香についていった。
「敬人さんはまた後でで」
「いやいや僕は別に......いや、お言葉に甘えます」
敬人は頭を掻く。
「それで、ここに来た時の情報何ですけど、どうやって来ました?」
「そうですね......いつもと変わらない通学路でいきなり目の前に魔法陣が現れて取り込まれた感じですかね......カバンもあったんですけどここに来る途中で落としてしまって......そちらは?」
「俺は......よくわからないまま祖母に送られてきたって感じです。色々あって半年ほどここに住まわせて貰ってます」
少し目線を逸らす。あまり思い出したくはない。
「そうなんですね......あっ、というかさっき使ってたのスマホですよね!充電とかできるんですか?」
「あれは色々改造してもらった奴で魔力で充電できるんですよ」
「そうなんですね。電波とかは繋がらないですよね?」
「はい......昨日は一時的に繋がったんですけどね」
「やっぱり......僕も少しの間使えたんですよ。魔法陣がある間だけは」
「そうなんですね」
やはり、昨日電波が繋がったのは敬人が関係していた。魔法陣に取り込まれたというからには何かしらがこの世界に送り込んだ?謎が謎を呼んで頭が痛くなる。
「あのーさっき魔力って言ってましたけど、この世界魔法とかってあるんです?ゲームとかにあるやつ!」
「そうなんですよ。俺は使えないんですけど冬香は......さっきの人は使えます」
「へぇー使ってみたいな~」
その言葉を最後に数秒程ほど沈黙が続いた。すると敬人が「あのー」と沈黙を破った。
「今おいくつですか?」
「俺ですか?今は16ですね」
「あっ!同じです!僕も16!」
「そうなんですね!そしたらタメ語でも......?」
「いいです!全然!」
「あーそしたら......」
俺はコホンと咳ばらいをすると敬人に手を伸ばす。
「俺は千秋、改めてよろしく。敬人」
「うん!よろしく、千秋!」
敬人は俺の手を取り、俺達は握手をした。
「二人とも何してんの?」
レイルの髪を拭きながら出てきた冬香にそう言われた。レイルは見るからに綺麗になり、ぶかぶかのパーカを着ていた。大きな尻尾も綺麗になっており、機嫌がいいのか左右に揺れている。
「服買いに見に行かないと」
俺はそういうと敬人は首を横に振った。
「いやいやそこまでしてもらわなくても大丈夫!お金大事に!」
「大丈夫だって、この世界あんまりお金使う事ないからお小遣い余ってんだ。それに俺もしてもらったから」
「そうなの......?なら絶対返すから!」
敬人は机に乗り出しそういうと俺達四人はキーニャの店へと向かった。
***
扉を開けると「いらっしゃいませー!」と元気のいいキーニャの声が聞こえてきた。キーニャはいつも通りに作業台で作業をしており、上半身だけこちらに向けた。
「お!千秋くんじゃん!どうしたの?おっ?友達?」
「はい。今日はこの二人の服を......」
そうレイルと敬人を紹介しようと目線を二人に合わせる。するとそこにはしゃがみ込み、激しく震えながらフードを深く被ったレイルの姿があった。