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さよなら世界、また来た異世界  作者: 苺の彼方
序章「こんにちは、異世界」
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五話

 俺は動く度にカラカラと車輪の音を鳴らせる馬車の中からぼーっと今まで通ってきた道を見ていた。特に何も変哲もない木々が並んでいる。他三人はもう寝てしまっていて話し相手もいない。俺はスマホを取り出し開いた。勿論、電波なんてつながっているはずが無く、この中に入っているアプリはほとんど使い物にならなかった。俺は向こうの世界の状況がどうなっているのか気になり、メッセージアプリを開いて何か届いてないか確認する。だがそこにあるのは友人からの遊びの誘いと、公式アカウントからのメッセージだけだった。何も来てない事を確認した後、残りの充電も50%を切っていた為、省エネモードにしてからポケットの中にしまった。これからどうなってしまうのかと漠然とした不安と共に馬車は進んでいった。


 やがて王都ジャーニアに着いた。俺達は門を通過し中へと入った。そこは簡単に言えば賑やかだった。数多の建物が規則的に並んでいたり、道も当然舗装されていた。露店だったり見世物だったり馬車だったりと人それぞれがお金を稼ぐ為に人それぞれの役割を果たしている。中には武器を背負っている物もいた。それは冒険者と言われているものらしく、中にはニーロの知り合いもいて、ニーロを見かけると軽く挨拶したりと何かしらのアクションをとっていた。知り合いと話し込んでなかなか戻ってこないニーロの耳を引っ張りながら戻ってきたセシリアもいたりした。その時のセシリアの顔は笑顔だったが周りから禍々しいオーラが放たれていたので、この人はきっと笑顔で怒るタイプだと思った。怖い、怒らせないでおこうとも思った。


 そしてなんやかんやあり、俺達は『ギルド』の前へと来ていた。それは依頼の報告と首飾り、そして『エリー・ルゼルファー』の名前を知っているか聞く為だ。俺はギルドの中へと入ろうとしたが、体がそれを拒む。俺は怖かった。何も情報が無かったら、絵里おばさんと次郎おじさんが命を懸けて託してくれたものが全て無駄だったらと考えたからだ。


「なにしてんだ?行くぞ」


 と、ニーロは俺に呆気ない声で言ってきた。そんな事実にきっと大丈夫と俺は深く息を吸い、頷いた。


 入ったらすぐに目に飛び込んできたのは二つの剣が交差するように描かれた大きな旗だ。そして次はその前にぶら下がった大きな看板に『受付』と読めた文字が書かれており、その隣には『依頼』と読める文字が書かれた紙が壁に大量に貼られていた。受付には四名の同じ衣装を身にまとった女性が等間隔で横一列に立っており、その隣には卓上鏡が置かれていた。その人らは『受付嬢』と呼ぶらしく、俺達は受付嬢の前に向かった。その道中には丸テーブルとそれを囲む椅子がいくつも置かれており、武器と鎧を着た人たちが楽しそうに話しながら座っていた。『何がどうだった』とか『誰がどうした』とか俺にとってはどうでもいい話ばかりだ。受付嬢の前に到着すると、ニーロはギルドに加入している事を示す、固い金属で出来たカードと『投影ボックス』を提出した。そのカードは『ギルドカード』と呼ばれているらしく、ギルドカードにはニーロの写真が埋め込まれていた。要は身分証明書だ。それを受付嬢は笑顔で一言「お疲れさまです」と受け取り、鏡を見るように言った。ニーロは鏡に自分の顔を映し、受付嬢はそれを確認する。そして一言礼を言った後、裏へと入ろうとする。その受付嬢をニーロは呼び止め俺と冬香を指さしながら「ギルドカードを作りたい」と話した。受付嬢は笑顔で返事をすると裏へと入っていった。そして数分たった後、膨らんだ小さな袋とニーロのギルドカードを持って戻ってきた。そしてニーロに報酬金を渡すと、俺と冬香は裏へと続く道に案内された。


 ギルドカード作成はすぐに終わった。部屋に案内され、中に入ると先端に投影キューブがつけられた歯車と鉄で出来た巨大な機械のような物があり、それで写真を撮った。すると、すぐ隣にあった機械から写真のついた鉄のプレートが出てきた。そして名前を聞かれ、一文字ずつ取り外し可能なスタンプに文字を付けそのプレートに押し込んだ。すると名前が刻まれ、それを受け取った。冬香も同じように写真を撮り、文字が刻まれたギルドカードを受け取る。失くしたり、壊れたりしたらギルドに持ってくればいいらしいが、その時は再発行料としていくらかのお金がかかるとのことだった。


「あの」


 俺は部屋の扉を開けようとした受付嬢を呼び止め首飾りを見せる。


「この首飾り、知ってますか?」


 受付嬢は首飾りをまじまじと見つめた。


「ここら辺では見たこと無い物ですね。落とし物ですか?」


「あぁいえ、祖母の形見何でギルドにこれを見せろと言われてまして......では、『エリー・ルゼルファー』という名前は?」


 ***


 結果、俺達の望む答えは出なかった。そのギルドを仕切る長、ギルド長にも聞いて貰ったり、色々と調べて貰ったがそんな人物は知らないという答えが出てきた。俺達はニーロの元へ向かった。ニーロは依頼書をまじまじと見ていて、何枚か受ける気のようだった。裏から出てきたニーロは俺達に気づき、声をかけてきた。


「おいおいどうした千秋、何かあったのか?」


 俺は気持ちが顔に出やすいのかニーロはすぐに異変に気付いた。


「首飾りと『エリー・ルゼルファー』の名前、何の情報もなかったんです」


「そっか。でも大丈夫だって、なんとかなるさ」


 ニーロの軽はずみな言葉に俺は少し腹がたった。お金まで出して貰った恩人にこんな事言うのもなんて頭では分かってた。でも、止まらなかった。


「貴方に......何が分かるんですか......?」


 俺はそう口走ってしまった。少し口調も強くなってたと思う。ニーロはそんな俺を察し、「ごめん、軽率だった」と言ってくれた。そんな大人な対応にも少し苛立った。


「なんで......なんで......」


 俺はそこからの言葉が口から出てこず、それにも何故か苛立ち、勢いよくギルドから飛び出した。


 俺は走った。出来るだけ遠くへ走った。人を掻き分けながら、視界をぼやけさせながらも走った。時には躓きもした。フォームが崩れ、息を切らしながら走った。そうすればこの気持ちが収まると思った。俺は何か期待していたのかもしれない。実はこの首飾りが時間を巻き戻す力を持っていて、ギルドに持っていけば全て解決。二人も死なずにすんだ。ハッピーエンドではい終わり。なんて事はないだろうけれど、この状況が少しでもどうにかなるかと思ってた。でもならなかった。こんな事になるならいつも優しくしてくれてた二人にプレゼントでもすれば良かった。アルバイトでお金も稼いでいた。もう子供じゃない。なのに何でこんなにも出来ない。俺はあの時見てるだけしか出来なかった。何も打開策が思い浮かばなかった。テストの成績は満点近い癖に肝心な時は役立たず。どうすれば良かった?どうすれば二人とも助けられた?どうすればどうすればどうすれば......???


 俺はいつしか暗い路地に入っていた。不思議な事にあの時にいた路地と似ていた。全身の力が抜けた。俺には力がない。涙がぽたぽたと地面に落ちていく。


「何してんだよ。こんなとこでよ」


 ニーロが後ろから声をかけてきた。どうやら後をつけられてたらしい。


「なんの用ですか?」


 俺はそのままの状態で平気なふりしてそう言った。


「あーあれだ。なんか吐き出したい事あったら俺に言えって、全部受け止めてやるからよ」


「何なんですか。何なんですか何でそんなに優しいんですか」


 その言葉に何か言い返してやろうと思った。でも出てきた言葉はそんな変な言葉だった。


「それは言ったろ?お前らが......」


「境遇が似ていた!!#たったそれだけ__・__#でですか!?!?」


 ニーロの言葉を遮り、俺は叫んだ。


「お前にとっちゃ#たったそれだけ__・__#かも知れないかもだけどな。俺にとっちゃ大事な事だ」


 ニーロは近づき、俺の頭を撫でようとする。俺はその手をすかさず弾いた。


「俺はもう子供じゃない!!」


 俺のその言葉にニーロは悲しそうに頷いた。


「そうだな。ごめんな」


「俺は何か出来たはずなんです!きっと何か出来たんです!絶対何か出来たんです!そうすれば二人は......」


「でも#何も出来なかった__・__#だろ?」


 俺は俺の前にしゃがんだニーロを睨みつけようとした。でもすぐに辞めた。出来なかった。ニーロは優しくでも悲しそうに微笑んでくれていたからだ。


「千秋、年はいくつだ?」


「十六です」


「そっか。んじゃ、俺の弟と同じだな」


「弟、居たんですか......?」


「あぁ、もうこの世に居ないけどな。聞いてくれるか?」


 俺はそっぽを向いた。


「俺な、必死に村の中逃げてる途中にセシリアと弟が魔物に捕まってな、こう言われたんだ。助ける方を選べってな。理不尽すぎだよな。二人助けたいってのに力が無かったから選ぶしかなかった」


「それで何が言いたいんですか?」


「まあ、話は最後まで聞けって。悩みに悩んださ、そしたらさ、弟がセシリアの方に指を指したんだ。俺は反射でセシリアを選んだ。そしたらセシリアだけを開放して弟を目の前で潰して何処かに行きやがった」


 ニーロは深呼吸した後、俺に笑ってみせた。


「でもそれはニーロさんは子供の時の話じゃないですか!」


「何言ってんだ。お前だってまだ子供じゃねぇか」


「なっ!?」


「たかだか十六年生きた程度で大人になれるかよ。俺だってまだ分からない事だらけなんだからよ」


 ニーロは俺にデコピンした。俺はあまりにの痛さにその場で悶絶する。


「魔物の血を見て気絶する大人がいるかよ」


「こっちの世界では狩りなんてなかったんですよ!!」


 俺は起き上がり、仕返ししようとニーロの腹を殴ろうとするが簡単に止められた。


「くっ!!」


「あのな、考えてみろ。おばさんからすればお前らだけでも助けられてラッキーだ。助かってよかったじゃねぇか」


「そうかも知れないですけど......でも!!」


 ニーロはため息をつき、人差し指で俺のデコを押さえた。


「いいか、よーく聞いておけ!お前は竜でもなければこの世界を牛耳る神様でもねぇ!ただの一般クソガキだ!少なくともそうなったのはお前のせいじゃねぇ!お前は全てをどうにか出来る訳じゃねぇんだ!自惚れんな!」


「でも......!!」


 ニーロは俺を抱きしめた。ニーロの筋肉は岩のように固く、俺のとは大違いだった。


「あぁ、わかるよ!!だから俺が一人前にするって言ってんだクソガキ!!分かったか!?」


「でもぉ......!!」


「返事は!!」


「はいぃ......!!」


 腑抜けた声が俺の口から出てきた。それと同時に俺の目から大量の涙があふれてきた。この世界に来ての初めての涙だ。親が居ない俺はいつしか強くならなきゃと思った。老いた二人を守らなきゃいけないと思っていた。でも俺はまだ守られてばっかりのクソガキだった。でもいつしか立派な大人になりたいと思ってる。二人が必死に送ってくれたこの世界で。


 目一杯泣いた後、空が眩しく、いつもより色が濃ゆく感じた。時間はまだ昼頃だ。そういえばまだ挨拶してなかった。俺は空を見てこう言った。


「こんにちは、初めまして異世界」

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