二話
温かく優しく照らしてくれる太陽、眩しさを妨げてくれる木々、そして、ちょっと固いがそれでも柔らかく体を支えてくれるこの草と土の。中々のコンディションで俺は大の字で寝転んでいた。ここは小さい頃、偶然見つけた最高な場所。ぼーっとしていると、冬香が「何してるの?」と隣に座り、どうでも良い事を一緒に話す。次第にあまりにもの心地よさに眠くなって、アラームをセットし、二人は少し昼寝をと目を閉じる。そしてその時間は来て、アラームが辺りに鳴り響く。二人は眠い目を擦りながらも他愛もない話をしながら家へと帰っていく。
きっとそのはずなんだ。きっと手に持っている首飾りも目を開ければ別の物になっていて、きっと俺はいつもと変わらない生活が送れるようになる。
俺はその場でゆっくりと目を開けた。
「そんな訳ないか」
俺は上半身だけ起こし、首飾り見る。そして、隣で寝ている冬香の体を名前を呼びながら揺さぶった。一分もしない内に冬香は目を開け、千秋を見つめた後、辺りを見渡した。
「そっか、夢じゃないのか......」
「そうだな」
冬香は立ち上がり、その場で伸びをした。そして、「うん」と声を出し頷いた。
「人はいつか死ぬよね!!」
冬香は大声でそう言い放った。
「それがたまたま今日だっただけで、そう!大丈夫!」
冬香はさらに言葉を続けるが、その声と体は震えていた。
「だいじょう......」
遂に耐えきれなくなったのか、冬香は涙を流す。すると突然、冬香は俺に抱き着いてきた。俺は空を向く。こんな時どういう言葉をかければいいのか分からない。ただ、一人になった冬香を俺が支えてやらなければならない。悲しんではいられない。
「大丈夫だ」
そう、俺は大丈夫だ。
***
冬香が落ち着き、情報の共有をした後、話し合いあった。知らない世界、知らない土地、もしかしたら知らない言語かも知れない。だが、このままでは危険な事は変わりない為、人けのある所を探すことにした。探索して分かったのだが、どうやらここは何処かの森らしい。草を掻き分け進んでいると、広い空間に出た。そこはちょうど木の影が無く、暖かい日の光が直接当たるようになっていた。そして、頭に一つ小さい角が生えたウサギがやトサカが生えたタヌキのような野生だったり、鹿だったりと色んな生き物が合計十五匹程で日向ぼっこをしていた。どうやらここは動物たちのちょっとした人気スポットになっているらしい。その動物達はこちらに気づくとすぐに逃げて行ったが、その中のタヌキのような生物は逃げ遅れていた。タヌキはその場で一周回った後、その場に倒れ、動かなくなった。俗にいう死んだふりだ。
「可愛いね」
冬香は笑う。俺もつられて笑みが浮かぶ。俺達はそのタヌキを横切り、奥へと進む。すると舗装された道に着いた。舗装された道はそこそこ日の光が入り明るい。舗装された道を歩いていると、遠くの方で人影が二つ、こちらに歩いてくる人達が居た。二人は町への場所を聞く為駆け寄る。一人は、とんがり帽子とひらひらと風で揺れそうなマントが特徴的な服装でまるでゲームに出てくる魔法使いのような赤い髪をした女性。もう一人は軽装だが、槍を背負っている水色の髪をした男性が並んで歩いていた。冬香は息を切らしながらも二人に「すみません」と声をかける。
「どうしたんだ?嬢ちゃん何かあったのか?」
槍を持った男性から優しく声をかけられた。
「町への道を聞きたいんですけど......」
槍を持った男性はキョトンとした顔をして、大きく笑った。
「何だそんな事かよ、魔物でも出たのかと思ったぜ。お嬢ちゃんらこの辺初めて来たのか?」
頷くと、魔法使いのような女性が「ここから近い一番近い町なら『アガラシ村』から馬車で四時間程で行けますよ」と俺達が歩いて来た方向を指指した。
「俺達もこれからアガラシ村にいく所なんだ。良かったら一緒にどうだ?」
「いいんですか?」
俺はそういうと、二人でそれを笑顔で肯定してくれた。
***
槍を持った男性は『ニーロ』、魔法使いのような女性は『セシリア』という名前らしい。俺達の名前はここらじゃ聞かない名前らしく、自己紹介をした時に少し驚かれた。少なくとも日本ではないらしい。だが何故だかは分からないが、言語が通じている事に関しては大いに助かった。そして俺は空に出てきた魔法陣、竜の鎧の事、別の世界から別の世界した事、絵里おばさんが最後に言っていた『エリー・リゼルファー』の名前を首飾りを見せて二人に話した。
「それで、元の世界はめちゃくちゃで、魔法陣でこっちの世界に飛ばされたと?俺にはさっぱり分からん」
首を横にふるニーロ、セシリアは少し唸った後首を横に振った。
「ごめんなさい。どれも聞き覚えがないわ。違う世界がある事自体初めて聞いたし......」
「そうですか......」
冬香は下向く。俺が冬香に「大丈夫だって」と言うと冬香は上を向いてくれた。
俺達は二人に礼を言うと、二人は優しく微笑んでくれた。
「他の世界から来たって事は金持ってないだろ?良かったら町までの馬車代払ってやろうか?」
「「そんな悪いですって」」
俺達はほぼ同じタイミングで首を横に振った。それが可笑しかったのか、ニーロ達は小さく笑う。
「遠慮すんなって、俺達、結構報酬のいい討伐依頼の帰りなんだ」
そういうと、ポケットから青い四角い箱を取り出し、二回叩いた。すると、箱は光だし、空間に俺達よりも一回りも二回りも大きい虎のような魔物と一緒に写っている二人が映し出された。
「これってプロジェクターなんですか!?」
冬香は知っている物を見て驚き、声が大きくなっていた。
「あぁ、これは投影ボックスって言ってな。魔力を注ぐと写真が撮れるんだ。もっとデカいのだと何枚も撮れるぜ。そっちの世界にもあったのか?」
「ありますよ!これです!」
冬香は自分のスマホを取り出し、見せた。そしてセシリアと一緒に写真を撮った。「へー」と驚くニーロに、「他にも色んな機能がありますよ」と俺はスマホを取り出して、動画を撮ったり、アラームを鳴らしたり、ライトで照らしてみたりした。一つ一つの動作に二人は驚き、興味を示してくれた為、とても楽しく思えた。
「これでもほんの一部ですから。本来の役割は遠くにいる相手と連絡を取る事なんですけどね!」
冬香は得意げに言う。
「こんな小さなものでか?」
「はい!」
ニーロは「すげぇ!」と笑った。さらに冬香は「それに」と続けてスマホのアプリを起動した。そして内側カメラに切り替えた後セシリアと一緒に画面に入った。
「きゃー!」
画面を見たセシリアの口から叫び声が響き渡る。
「どうした!」
それを聞いたニーロは瞬時にスマホを除いた。その画面をみたニーロもまた叫び声をあげた。
「なんだこれ!獣の耳!?」
俺もスマホの画面を見ると、俺を含めて四人の頭に猫耳がついていた。冬香は「ふっふっふー」と自慢げに笑う。
「このアプリはカメラに色んなフィルターがつけれるんですよ!!」
四人映った所でシャッターを切る冬香。顔はしっかり可愛くなっている所で切っているので、流石現役JKと思った。そして冬香は他にもフィルターを見せ、四人で色んな写真を撮った。その時間はこれまでの出来事を忘れるくらいには楽しかった。冬香もそれは同じようで、本気で心から笑っているようだった。
***
俺達は大いにスマホを楽しんだ後、再び歩き始める。腕を頭の後ろで手を組んでいるニーロがニシシと笑った。
「いやーしかしびっくりだなー。俺達獣人になっちまったよ」
「獣人?」
「あぁ、このこっちの世界にはこれみたいに耳としっぽが生えた獣人ってやつがいるんだよ」
ニーロは頭の上に猫の耳のように三角形を二つ作りそういった。どうやらニーロによれば、この世界には人間の他に、尻尾と耳がついた獣人、耳の長いエルフ、背中にヒレの付いた魚人、小さいが力持ちなドワーフと色んな種族が居るらしい。それにしても......。
「あんな大きな動物を二人でどうやって倒したんですか?」
「そりゃこれよ」
ニーロは背負っている槍に指を指す。俺は戸惑った。何故ならこちらの世界の虎を大体二メートル程にした物をたった槍だけで倒している。そしてさらに尻尾が剣のようだった。それをたった二人で倒すだなんてとても無理だ。ただ事実は倒している。考えられるとしたら......ものすっごい強いのだろう。
「当然俺も強いんだが、セシリアの魔法もすげぇーんだぜ?」
さらにニーロは振り返り、後ろ向きで歩きながらセシリアの方を見た。セシリアは笑いながら「そんなことないですよ」と言った。その言葉に冬香は食いついた。
「えー!セシリアさん魔法使えるんですか!?」
「えぇ、五大魔法は上級まで使えるわ。それにちょっとした便利な魔法もね」
「五大魔法?って良くわかんないですけど、魔法ってあれですよね!火とか出すやつ!」
「そうよ。もしかして冬香ちゃん達の世界では魔法は無かったの?」
「絵本の中とかではありましたよ!」
その言葉を聞いたニーロは驚いた声をあげた。
「絵本の中だけって、そしたらどうやって魔物と戦っていたんだ?」
「僕らの時代にはもう人間の技術が進化しすぎて天敵はほとんどいなかったんですよ。さっきの写真のような動物は俺らの世界にはいません」
「いねぇのか!?マジでか!?」
ニーロはまた驚いた。今回はセシリアも驚いているようだ。
「世界は人間の住みやすいように人間の手で変えたんです。今では世界中どんな所でも行こうと思えば行けますよ」
「なんか、千秋の世界って楽しそうだな!」
ニーロは笑いながらそう言った。俺と冬香を目を合わせ頷いた。目の前にはこの森の終わりを示すかのように光が差し込んでいた。森を出ると、目の前にはそれはもう大きな草原が広がっており、舗装された道が長く続いていた。暖かく優しい風と見たことのないその景色、俺は思わず心を弾ませた。
舗装された道を十分程歩くと村に着いた。村にはその広大な地形を利用して畑が大きないくつもの作られており、人も明らかに異物な俺達を快く受け入れてくれた。ニーロ達が簡単に事情を話すと、服を提供してくれたりした。村を歩いていると、ニーロは「良かったな!」と俺達に笑う。
「本当に、なんとお礼したらいいのか......」
その言葉にニーロはさらに笑った。
「そんなの別にいいよ。その代わり、今後千秋達のような奴見かけたら見捨てんなよ?」
俺の頭を激しく撫でるニーロの手のひらは、何処か次郎おじさんに似ているような気がした。
「千秋くん、せっかくだから魔法使ってみる?私がレッスンしたいだけだけど」
そんな俺達にセシリアはそう言葉をかけた。すぐ後ろにいた冬香は目を輝かせていた。
「俺にも使えますかね?」
セシリアは目を細め、俺を見つめる。
「私が見た感じだと、千秋くんは魔力もそこそこあるし、中級までなら訓練すれば使えると思うわ。それに初級なら簡単だし」
ニーロはそれを聞き驚いた。そんな俺達に冬香が「私は!?」と割って入ってきた。セシリアは冬香も見つめると、声をあげて驚いた。
「冬香ちゃん、魔力すごいわね。これなら上級魔法も扱えそうよ!鍛えがいがあるわねぇ......」
セシリアはまじまじと冬香を見つめている。その顔はにへらと少し変な顔になっていた。冬香はそんなセシリアをお構いなしに、その場で飛び跳ね声をあげて喜んだ。セシリアによると、魔法を使うための魔力をどれくらい持っているかは生まれた時から決まっているそうだ。そして、『初級魔法』を扱える程の魔力は皆持っているが、『中級魔法』からは珍しく、冬香のような『上級魔法』を扱える程もっているのはもっと珍しいらしい。セシリアが言うには、そういう専門的な学校でも一人いるかいないからしい。どうやら少し、ほんの少しだけだがわくわくしている自分がいる。
村に被害が届かない距離まで移動した後、ついに魔法のレッスンが始まった。