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名前だけの人生相談部に学年1の美少女が人生相談に来てしまった。  作者: 時雨白
第4章 必要なのは広い視野と冒険させられること
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完璧美少女が誰にも悟らせなかった仮面

 とんでもない間違いをしていたことに気が付いた僕には、今までないほどの怒りの感情が襲うが。僕はそれを一瞬で納める。


 今は間違えたことに怒る時ではない。


 今すべきことは、早急に自身の間違いを受け止めて、これ以上悪化しないように全力を尽くすことだ。


 そうして、平常心を取り戻した僕は、桜木の手は震えていることに気が付く。


 僕はそっとその手を握る。


 今の僕に出来るのは、恐怖から少しでも安心させることだ。


 桜木は一瞬驚いた表情をするが、すぐに落ち着いた表情に戻って話を続ける。


 僕はそれを黙って聞く。無責任に背中を押してしまった者として、桜木葵が抱える重りを受け止めなければならない。


「実はですね、今回ようなことは初めてではないんです。」


 桜木は自分の罪を告白するように辛そうな表情をしながら言った。


「私は、小学校に入るまで、親とほとんど会っていないんです。」


 小学校まで親と殆どあっていないと言う言葉に驚愕する。

  

「ですが、それ自体は仕方がない事だったんです。私が生まれた時、細かい事情は伏せますが、会社は未曾有の危機に陥っていました。その危機から脱するため、両親は必死に色んなことをしていました。生まれたばかりの私の事を見れる状況ではなかった。」


 桜木は諦観したように言った。それが自分の運命だと言わんばかりに。


「危機を脱した後も、幼い時から才覚を見せ始め注目を浴びていた兄さんの小学校の入学などもあり、結果的に6年のあいだ、私は一人でした」


 6年もの間、一人であった、その事実だけでも非常に重いというのに、それがあった時期が最悪だ。人生において、心身ともに著しく成長するときであり、その時の環境が、人生に最も影響を与えると言われている幼児期である。


 その事実が、どれほど桜木にとって最悪のことか、多少そのことに詳しい僕はハッキリと分かってしまう。


 通常であれば内気になったり、感情が希薄になるなど大きな問題を抱えるはずだ。しかしながら、桜木が完璧美少女と言われている、正直言って奇跡といっても過言ではない。


「6年間、家族とはほとんど会えませんでしたが、代わりに家政婦の人が私を育ててくれました。そのおかげで、家族関係のこと以外では、大きな問題もなく育つことができました。家政婦さんには感謝しかありません」 


 今にも壊れそうな顔をしながらも、笑顔で感謝を伝える姿に、僕の心はギュッと苦しめられる。


「そうして、私が6歳の時、私は自分の家族に会いました。そして、知りました。自分が父や母、兄と比べて酷く劣っていることを」

「・・・・・・」


 僕は何もいえなかった。念願の家族にあって、最初に出た言葉が自分の劣等感であることに。


「私は事あるごとに兄と比べられました。才能があるが兄に比べると見劣りする。それが大人や両親の私への評価でした。」


 激動の6年間を過ごした次に待っていたのは、優秀すぎる兄と比べられ、劣ると言われる日々、桜木が何かしたのかと言わんばかりの仕打ちだ。


「わたしは、そんな日々に耐えられなかった。だから、がんばって努力して、兄と同じぐらいすごくなって、認めてもらえるよう頑張りました。その結果、10歳の時にその努力が認められて、お母様が直々に見てもらえることになりました。」


 4年もの間、桜木は1人苦境の中、頑張ったのだろう。


 一体どれほどの努力が行われたか、少なくとも今回の比ではなかったのは確実だ。


「その時はとても嬉しかったんです。まさに今日みたいに、ようやく私を見てくれた!そう思っていました。そこから母の指導が始まりました。母の指導はとても厳しかったですが、私は認められたいが一心に頑張りました。」


 状況は今と変わらなかった。違うのはそこまでを1人で辿り着いたことだ。


「ですが、私は兄よりも劣っていた。どれほど頑張っても後一歩、届かなかった」


 その声は静かで悲痛なものだった。


「5年・・・・・・私は頑張りました。そして、見捨てられました。そうですよね。5年で結果を出せないのだから・・・・・・見捨てられるのは・・・・・・とう・・・・・・ぜん・・・・・・でした」


 桜木は涙を流し、一つ一つがんばって吐き出すように言った。


 生まれてから15年、ひたすらに努力したことは一切報われることがなかった。


 その事実は、桜木葵という存在にトドメを刺すには十分すぎた。


「わたしは・・・・・・あの時の絶望が忘れられない!あの時は1人だった。だけど、今は違う!駿人君、鮎莉ちゃん、大友君、多くの人が私を支えてくれた!だから怖い・・・・・・みんなの期待を裏切ることが・・・・・・みんなの顔が悲しむことが・・・・・・」


 桜木はこちらに縋るように抱きついて言った。


「ねぇ、わたしはどうすればいいかな?」


 その表情はどんなことがあっても決して折れず、強い目をしたものではなかった。


 何もかも信じられず、深淵すら飲み込まんとする深い闇が支配している弱々しく完全に壊れた表情がそこにあった。


 これが完璧美少女が誰にも悟らせることがなかった仮面の裏にあった素顔だった。

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