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名前だけの人生相談部に学年1の美少女が人生相談に来てしまった。  作者: 時雨白
第4章 必要なのは広い視野と冒険させられること
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一つの結果

「私は、悩みたいです。」


 桜木は、ハッキリとした意志の元、強い声で言った。


 その姿は、少し前に見た希望を光を見て進もうとしていたものと違い、しっかりと現実を見据え、自分のするべきことのために進もうとしている。


「私は自分が無いをしたいのかも分からない未熟者です。」


 桜木は今の自分を再確認するかのように言葉を漏らす。


 僕達は黙って聞く。


「だけど、私は諦めることができないのです。どうして諦めることができるのか、分かりません。」


 何も分からないが諦めることが出来ないなんてめちゃくちゃだな。


 桜木の言葉に苦笑いしながら聞く。


「ただ、諦めてはダメだということだけが分かります。」


 桜木は綾子さんのことを正面から見据える。


 綾子さんと会ってから、初めての行動だった。


「私は知りたいです。この気持ちがどんなものなのか、知りたいのです。だから、これからも未熟な私が迷惑を掛けてしまいます。それでもお母さんに私を見て欲しいです。そうすれば、きっとお母さんに誇れる私になれるような気がするのです。こんな我儘を聞いてくれますか?」


 桜木は自分の気持ちを一切隠さず、思ったことをそのまま言った。


  今までの桜木なら絶対にしなかったことだろう。


「とんだ問題児ね」


 綾子さんは呆れるように言った。


 桜木は言い返すことはせず下に向く。


 その姿を見て、綾子さんは仕方がないと言わんばかりの態度をする。


「自分のしたいようにしなさい。しっかりと見てあげるから」


「お母さん!」


 綾子さんの言葉を聞いて桜木は綾子さんに抱きつく。


 綾子さんはそれを軽くあしらう。


「全てをやり切ってから、しなさい」


「はい・・・・・・」


 呆れたようにいう綾子さんに少し落ち込む桜木。


「期限は夏休みが始まる初日までよ」


「分かりました」


 今から大体2週間ぐらいか、やるかやらないかの答えを出すには十分な時間があるな。


 そんな風に考えていると、綾子さんはこちらの方を向くので、僕も綾子さんの方を向く。


「隅風くん、今後も娘をよろしく頼むわ」


「はい、私なりに頑張りたいと思います」


 綾子さんのお願いに僕は疲れを隠すように頬を上げて答える。


 その言葉を聞いて、安心したような表情をして、綾子さんは車に乗る。


「葵、頑張りなさいよ」


「はい!お母さん!私、精一杯頑張ります」


 最後にそのように言葉を交わし、綾子さんの車は出発した。


 そして、完全に見えなくなるのを確認すると一気に肩の力が抜ける。


 一生分の気力を使い果たしたと断言できほど疲れた。


 できることなら一生休んでおきたいという考えが僕を支配する。


 そんな風に考えていると、袖を引かれる。


 そちらを見ると、桜木が下を向いて申し訳なさそうな感じでいた。


「桜木、どうしたの?」


 どういうことなのよく分からなかったので、質問する。


「あの、その」


 桜木はオドオドと炊いたが、意を決したように言った。


「色んなことがあり過ぎて、ぐちゃぐちゃなんです。だから、その、もう少しだけ一緒にいてくれませんか?」


 子供がものをおねだりするような可愛い声と表情でお願いしてくる。


「いいですよ」


「ありがとうございます」


 流石に断ることもできず、僕は承諾をする。


 確かに、時間としては10分程度だったが、体感では数時間に感じるほどの濃厚な時間だった。


 すぐに整理することなんてとても出来ないのだから、落ち着くまで一緒にいるべきだろう。


「ただ、ここだと落ち着かないから、どこか他の場所に行きませんか?」


 今は人がいないからいいが、こんな状況を他人に見られるのは非常に不味いので、そう提案する。


「だったら、私の部屋に来ませんか?」


「・・・・・・そうだね。そうしようか」


 桜木のことを考えるなら、最も落ち着くのは自分の部屋だろうし、元々桜木の家の目の前だ。


 それが合理的だと判断して、僕は賛成する。


 どうやらもう少し気を張らないといけないらしい。








山田留美視点



 煌びやかに輝く夜景を見ながら私たちは車を運転しながら、最終報告をするために会社の方へと向かっていた。


 後ろでは、葵ちゃん達とのやり取りで、色々やらかした綾子がバックミラー越しでも分かるほど落ち込んでいる。



 その様子は、女傑として活躍している姿を知っている人とは決して思えないもので、親に見捨てられた子犬のような感じだ。


 このままで会社にたどり着いてしまったら、今まで一生懸命に築き上げてきた頼れる存在といった印象は砕け散るだろう。


 それだと、色々面倒なので私は綾子に声を掛ける。


「久しぶりに大失敗しましたね」


「う、うるさいわね!誰だって失敗はあるもんでしょ!」


 痛い所を突かれたのか、子供みたいな言い訳をする綾子。


 先程までのしっかりした感じは微塵もない。


 それも同然だ、本当の綾子はしっかり者という言葉からほど遠い人物なのだから。


「ふふ、そうですね。綾子も昔から多くの失敗をしてきたもんね。あの頃は大変だったわ」


「うう」


 このまま拗ねていても困るので、手っ取り早く綾子の中の黒歴史の所にふれ、綾子の反抗心をへし折る。


 綾子とは幼馴染であり幼稚園の頃からの付き合いの為、綾子については何でも知っている。


 そのため、綾子の扱いには世界一である。


 怒られた子供みたいに顔を下に向ける綾子。


「綾子はいつも極端なんですから、馬鹿なのに一度決めたら何があっても最後までやり切るところ、それは長所だけど、他人はそういう訳じゃない。何度も言ったでしょ」


「おっしゃる通りです」


 今回の失敗の原因はしっかりと分かっているので、特に反抗することなく素直に認めた。


 綾子は、今でこそ、みんなから頼りにされるほどの実力を身についているが、綾子自身は馬鹿であるため、幼い頃は少しでも放っておくと様々な問題を起こしていた。


 その度に私がどうにかしてきているので、綾子は私に頭が上がらない。


 それも影響して、役職上は綾子の方が上だが、立場は完全にこちらが上である。

 

「前から言ってたでしょう。手伝うのはいいけどやりすぎはダメだって。」


「だって」


「だってじゃありません」


「はい」


 昔みたいに弱音を吐く綾子を、厳しく躾ける。


 綾子は努力の人であり、最初から何でもできる訳ではない。寧ろ失敗する方が多い。


 それは子育ても例外ではない。


「もっと葵ちゃんの事を見なさいと言ってたでしょう。竜馬君も大切だけど、葵ちゃんもあなたの娘でしょ。高校生にそのことを指摘されるなんて、どれ程深刻なことか分かったでしょう」


「はい……」


 次の失敗は許されないため、私はかなりきつく言う。


 竜馬君の方は、彼自身が優秀だったことや、仕事の方も余裕もあり、他にも実ちゃんの存在もあり、多少の問題はあったが問題なく育てることはできた。


 しかしながら、葵ちゃんの方は優秀ではあるが、兄と比べるとどうしても見劣りしてしまう。その為、幼い頃からよく兄と比べられる環境になっており、仕事も現社長に変わるなど子供の世話をする余裕もなく。


 また、竜馬君の受験に重なるなど、親からの愛を受ける機会もほとんどなく、実ちゃんのような存在もいなかった。


 まるで、竜馬君の方で楽した分のツケを払わされるように葵ちゃんの方の子育ては失敗が続き、多くの問題を抱えてしまっている。


 もっと早くに行動するべきだったが、それを阻むように様々事が邪魔をした。


 私たち大人のせいで葵ちゃんには多くの苦労を掛けている。


 これ以上、葵ちゃんには負担をかけてはいけないと思い、行動をしたのだが、今回は綾子の悪い癖が影響して大失敗。


 隅風君の存在がなければ、詰んでいただろう。


「今回は、隅風君のお陰で、首の皮一枚繋がりましたが、次はないです。会社で戻ったら方向をした後は反省会です。いいですね」


「勿論だわ。今回の失敗をしっかりと活かして、次は必ずうまくやるわ」


 綾子は次は失敗しまいという気持ちからすぐに立ち直る。


 綾子は不器用でよく失敗するが、決してあきらめることはないし、逃げない。しっかりと自分の失敗を受け止めて前に進むことができる。だからこそ、見捨てられないのだ。


 相手を思う気持ちは誰よりも強い。ただ、そのやり方を間違えることが多いだけ。


「だけど、隅風君と娘はどういう関係なのかしら」


 綾子さんも母親である。娘の近くにいる異性に関して興味が湧くのは当然だ。


「竜馬君の調査からでは友達らしいですよ」


「そうなの?その割には距離感が近いように感じたけど」


「確かに近いように感じます。多分ですがお互いに奥手だからではないでしょうか?」


 最初に楽しそうに話していた時、隅風君に話になったら口角がわずかに上がっていた。少なくとも友達以上の関係の可能性は高い。


 だが、互いに目に見えるようなことはしていないため、奥手だからではないかと考えた。


「確かに、隅風君は誠実そうだし、娘もこういう事には疎そうだし、そうかもしれませんね。するといざとなったら、アドバイスをするのもありかもしれないわね」


「それは隆二さんとよく相談してからしてください。少なくとも一人ではしてはいけません。葵ちゃんと隅風君に苦労をかけさせてはいけません」


「そこまで言う必要あるかしら?」


「はい、あります」


 少なくとも当時の隆二さんや私たちは綾子に相当に振り回されている。


 あれは綾子だから許されたものだ。


 そんなこんなで会話をしていると、会社にたどり着く。


「それでは綾子様、報告をしに行きますよ」


「ええ、そうしましょう」


 空気とを一瞬で切り替えて、私たちは隆二様に報告をして、反省会をしたのであった。

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