点数勝負
「いや、やっぱりやればできるんだよな!」
「それは良かったな」
僕はめちゃくちゃ上機嫌な住吉の相手をしながら、部室へと向かっていた。
なんで、住吉がこんなにも上機嫌か、それはテストの結果が返ってきたからだ。
麦野の件から約2週間が経ち、テストも無事に終了。
今日その結果が返された。
「これで俺も上位勢の仲間入りだぜ」
「浮かれすぎるなよ」
一カ月の勉強と今まで勉強をあまりしてこなかったこともあってか、住吉は今回のテストで大幅な順位アップを達成している。
「ここまで数字が上がるとめちゃくちゃ気持ちいいな!」
「そりゃそうだろうな」
住吉の全教科平均は87点、12教科あるから、合計点数は1044点になる。
いつもの住吉は全教科平均72か3ぐらいであり、73で計算しても876点となる。
つまり、住吉は今回のテストだけで、168点も上がった事になる。
それだけの変化があれば、順位も大幅に変わっているのは当たり前であり、順位は240人中40位と大体70ぐらい順位を上げている。
一応、ここは周辺でも最上位の方の高校であり、一カ月頑張ったところで、ここまで上がることは中々ない。
その事実が意味するところは、住吉にそれだけのポテンシャルがあったと言う事に他ならない。
もしも、この調子で勉強を続けるのであれば、学年最後のテストでは、10位台ぐらいまではいけるはずだ。
「桜木たちはどうだったんだろうな?」
「さあな?何も教えてくれないから分からん」
「そうだったな」
テストの点数自体は早々に返されるため、知っていればある程度の予測はすることができるのだが、桜木達は一切自分の点数を教えようとはしなかった。
隣で散々自分の成績のことに関して話している住吉も、順位が出るまでは一切教えてはくれなかった。
桜木達曰く、お楽しみにらしい。
そう言うわけで、僕は結果がどうなったかのかはわからない。
堀川先生の話ではトップ争いは今までにないぐらいの接戦であり、教師をやってきて初めて見るような点数だったらしい。
一体どんな結果だったのか、非常に楽しみである。
そんな話をしていると部室へと辿り着く。
部室の鍵は開けられており、すでに桜木達が中にいるのだろう。
僕は部室のドアを開けて、作業スペースへと向かうと、そこには楽しそうに話す、桜木と鮎莉の姿が見える。
「やっと来たー!待ちくたびれたよ」
「そんなに時間だったねえだろ」
鮎莉のボケにすかさずツッコミを入れる住吉。
「それで、例のあれは忘れたないよね?」
「当たり前だ」
「例のあれ?」
住吉と鮎莉は互いにふてきな笑を浮かべる。
なんのことだか僕には分からない。
チラリも桜木の方を見ると、心当たりがあるのか楽しそうにそのやりとりを見ている。
「さあ勝負といこう。点数が低かった方が、相手の要求してきたものを一つ用意する。引くなら今のうちだぜ?」
「それはこっちのセリフ」
互いに絶対に勝てると自信が見て取れる。
最後の模擬テストの結果は確か、鮎莉が84点、住吉が83点だったはず。
そして、住吉は今回、平均87点と、4点も上げてきている。
この差は大きいと住吉はこれまでの頑張りから理解している。
だからこそ、あそこまで自信があるのだろう。
しかしながら、負けたら相手の望むものを一つ挙げるとは中々に攻めたものだ。
普段の住吉のことを考えるとそんな賭け事は中々しないはずなのだが、僕がいなかった間に住吉も変わったのだろう。
僕は椅子に座り、2人の勝負の行方を見守る。
「なら、見て絶望するといい」
住吉は、自分の成績を鮎莉に見せる。
それを見た鮎莉は目を見開く。
その様子を見ていた住吉は自分の勝ちを確信する。
流石にきつかったかと思おうとした時だった。鮎莉はふてきな笑みを浮かべる。
「私の勝ち」
鮎莉は静かに勝利を宣言し、住吉に成績を見せる。
住吉はそれを受け取り、食い入るように見る。
「僅か7点差だと・・・・・・」
住吉はそう言って崩れ落ちる。
僕は鮎莉の許可をもらい点数を見る。
住吉の合計点数が1044点に対して、鮎莉の合計点数は1051点。
本当にギリギリのところで鮎莉は住吉に勝った。
「住吉くーん?負けたらどうするんだったけ?」
鮎莉はこれ以上にないほど素敵な笑顔で言った。
住吉はそう苦虫を潰したような表情をする。
一体、僕がいない間にどんなことがあったのか気になるが、ここまで追い込まれている住吉を久しぶりに見ることができたのでよしとしよう。
「もう覚悟はできている。早く要求を言うんだ」
断腸の思いの如く、中々の覚悟を感じさせるように言う住吉。
住吉は一体どんな要求をされると考えているのだろうか。
普通に2〜3千円ぐらいのものを要求されるかと考えていたので、住吉の態度に少し驚く。
「うーん?どんなことにしようかな?」
鮎莉はわざとらしく悩むふりをする。
完全に弄ばれている住吉。
僕はその光景を楽しそうに見る。
普段はあちら側の方が多いのだが、今回はする側だ。
やられるのは嫌だが、やっている側はとても楽しい。
「うん、決めた」
鮎莉の言葉に先ほどまで下を向いていた住吉が顔を上げて鮎莉の方を見る。
「まだ使わないー、とっておく!」
「は?」
鮎莉の言葉に驚愕する住吉。
「そんなん話にないぞ!」
「すぐに要求しないといけない決めてもないよね?」
せめてもの抵抗をした住吉だが、鮎莉の鋭い反撃で沈黙する。
「ああー!楽しかった」
「勝負しなければよかった」
満面の笑みの鮎莉と激しく後悔する住吉。
あれが敗者の姿か。
一種の闇を感じさせるような結果で終わった勝負だった。
鮎莉と住吉がある程度落ち着くのを待ったあと、今回のメインであり、今後を左右することになる、桜木の順位についての話になる。




