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名前だけの人生相談部に学年1の美少女が人生相談に来てしまった。  作者: 時雨白
第4章 必要なのは広い視野と冒険させられること
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あの時に教えれなかった選択肢

「うんー!」


「ようやく、起きましたか」


「!!」


 僕の声を聞いて、起きたばかりの麦野は目を見開いて驚く。


「隅風、どうしてここいるの?」


 麦野はこちらを睨め付けて聞いてくる。


「本を返しにきたら、寝ている麦野を見つけた、起こすのも申し訳ないと思って、起きるまで待っていた。」


 僕は淡々と誤魔化すことなく、事実を述べる。


 こう言う時は、慌てるのではなく、落ち着いて堂々としていたほうがいい。


「待つ必要はなかった」


「こんなところで寝ている人を放置する理由もない」


 僕は当たり前だと言わんばかりにいった。


 麦野もこちらが引く気がないことを悟ってか押し黙った。


「変態」


 麦野はせめてもの抵抗のように、こちらを蔑むような目を向けながらいった。


「あはは」


 僕はそれに対して軽く笑って返す。


 自分をよく見せようとしても、絶対にどこかでボロが出る。だからこそ、僕は自分を取り繕うと思っていない。


 だからこそ、率直に変態だと言われても、素直にその言葉を受け止める他ない。


「私、帰るから」


 麦野は最後の抵抗も対して意味をなさなかったことが分かったのか、荷物を片付け始める。


「帰る前に聞きたいことがいくつかある」


 僕はそう麦野に言い放つ。


「聞くと思う?」


 帰りの準備をしていた麦野はこちらに振り向いて冷たくいった。


「聞いてほしいとは思っているよ」


 麦野はなんも返事をしないで、一度こちらをチラリと見た後に、ゆっくりと荷物を片付け始める。


 それを聞いてもいいといいと解釈して、僕は質問する。


「一つ目に、あまり寝てないよね?授業中とかは眠気防止薬でなんとかしている。あってるかな?」


「それで何か問題があるわけ?」


 麦野はこちらを牽制するように言い放つ。


 言い方はキツかったが、否定はしなかった為、僕が考えていた悪いパターンが的中したと言うことだ。


 冷静にその事実を受け止めて、返事をする。


「いや、問題があるわけではない。ただ知りたかっただけだ」


 ここで注意しても麦野は聞く耳を持たないだろう。


 それにここで注意しても手遅れだ。


「ふんー、それで満足?」


 注意されるのかと思っていたのか、麦野は肩透かしを食らったのか、先ほどまで強かった口調が一瞬緩む。


「いいや、もう一つ質問させてほしい」


「なに?」


「今回のテストで一位が取れなかった場合、麦野はどうするんだ?」


 それを聞いた瞬間、麦野から殺さんと言わんばかりの敵意が僕に向けられる。


 麦野の絶対に超えてはならないラインを僕は踏み越えたのだ。


 この反応も当然だろう。


「どこまで知ってる?」


 その声は低く、鋭さのあるものだった。


 返答次第では、麦野から敵対者としての対応をされる可能性がある。


 麦野からものすごい圧がかかるが、僕は何事もないかのように振る舞う。


 この程度の圧はいくらでも経験している為、かなり慣れている。


「僕が知っているのは麦野が異常と言えるまで一位にこだわっていること、ただその一つだけだよ」


 麦野と初めて話した時から、今に至るまで常に麦野は勉強を最優先している。


 友達と喋らず、休憩時間でも休むことなく麦野は勉強している。


 それだけを見れば、大学の為、今後のために勉強していると捉えることができるかもしれないが、麦野は違う。


 もしも、それが目的なら今、体を壊す勢いで勉強をする理由がないのだ。


 合理的に考えれば、短期的な追い込みよりも長期的な取り組みの方が効果が出るのは必然。


 麦野がそれを理解できていない訳がない。


 将来の関わるようなことが迫っていて、時間がないなら、まだ理解はできるが、僕たちは2年生、より上を目指すならゆっくりとはしてられないかもしれないが、体を壊すほど頑張るときでもない。


 総合的な観点で見ても、今回のテストの価値は決して高くはない。


 だから、おかしいのだ。


 そこまで頑張る価値がないテストに、麦野は体を壊す寸前、これに全てを賭けているかの勢いで勉強することがおかしいのだ。


 明らかに非合理的な行動であり、麦野が異様に一位をこだわっている方が分かる。


「本当にそれだけ?」


「それだけですよ。」


 普段の麦野を見ていて分かることはこれだけであり、それ以上はないため、僕は堂々とした態度で答える。


 麦野はしばらくこちらを見て怪しむが、僕の堂々とした態度から本当にこれだけだなと思ったのか、こちらから視線をそらす。


「隅風は私が一位を取らないと考えているわけ?」


「可能性はあると考えてるよ?この世に絶対はないからね」


 僕は客観的な事実を述べる。


 今回は大成長を遂げた桜木がいる。身を滅ぼすギリギリまで頑張ったからといっても一位を獲得するのは困難なはずだ。


 僕の返答に麦野はイラついているように見える。


「取れなかった時のことは考えていない」


 麦野は自分に言い聞かせるかの如く、強く言い切る。


 麦野の考え方は、間違ってはいない。


 やる前から失敗した後のことを考えるのは不毛である。


 そんなことを考える暇があるならどうすれば成功出来るのかを考えるべきだ。


 麦野視点からではそれが最適解だ。


「つまりは取れなかった時にどうなるかは分からないと」


「何が言いたいの」


 僕は麦野のが見ようと、考えようとしなかったところを言う。


 麦野は見たくないところを見させられて、機嫌がすこぶる悪い。


「僕は麦野が一位を取れなかった時にどうなるかが心配です」


「何それ?」


 意味がわからないと言わんばかりに言う。


 しかしながら、僕に取ってはそれなりに重要なことだ。


「僕は心配なんですよ。一位を取れなかった時、どうにもならないような事にならないかと」


 麦野視点では失敗は考えなくてもいい。しかしながら、他の人は別だ。


 これほどまでにこだわっている一位が取れなかった場合、どうなるかはある程度想像ができる。


 僕が心配しているのは、その時に何もできなくて、問題が解決されない場合だ。


「余計なお世話、私にそんな心配はいらない」


「そうでしょうね」


 麦野は迷惑だとはっきりと答える。


 それに僕は同意する。


 自分のことは自分で決めるものであり、必要以上に介入は嫌がるものだ。


 しかしながら、何もしなくてもいいわけではない。


「僕は後悔していることがあるんですよ」


 僕は暗くなりつつある空を見ながら、できるだけ軽くことだったかのように少しだけ自分語りをする。


「自分の問題と戦おうとしている人を目の前にして、失敗しても1人でなんとかするかもしれないと考えて、何もしなかったことがあるんですよ」


 麦野は黙って、僕の話を聞く。


「その結果、その人は失敗をして、自分1人ではどうにもできなくて、1人どこかに逃げてしまった。」


 あの時のことを思い出しながら語る。


「それを聞いた時、僕は自分を許せなかった。そうなる可能性を予想しながらも、何も手を打つこともせず、結果危機を招いてしまった。」


 あれは僕が問題から逃げた事によって起きた事。


「その時は、運が良かったのとその人が強かったからこそどうにかなりましたが、その時に考えたんです。次はそうなる前に手を打つべきだと」


「それで、私が失敗した時は隅風がどうにかしてくれると?バカじゃないの?」


「そこまで自惚れてはいないよ」


 僕は苦笑いする。


 自分1人でどうにかできるとは1ミリも考えていない。


「なら何が言いたいの?」


「失敗して、どうしようもなかった時、相談になります。これでも一応人生相談部の部長なんです。」


 僕は少しだけ自信を持って言う。


「麦野がどんな問題を抱えているかは分かりません。僕では対応できないものかもしれません。でも、どうにかしてくれる人を探してこれるかもしれないし、麦野にとって心強い味方を用意できるかもしれない。」


 自分で言ってなんだが、他力本願すぎないかと思いながら、僕は堂々と言う。


「僕は頼らないかもしれなせんけど、頼りになりそうな人なら呼べます。だから困った時は相談してください」


 あまりにも情けがないことだ。


 だけど、それが現実なのだから、素直に受け入れて堂々と言うしかない。


 あまりにも情けがない宣言だったのか、先ほどまで険悪な雰囲気を漂わせていた麦野は今では呆れたような表情をしている。


「やっぱりバカだよ」


「あはは・・・・・・」


 麦野の言葉に返せる言葉もなく、僕は苦笑いする。


「まあ、私は失敗した時なんて考えないけど、その言葉だけは覚えておく」


「ありがとう」


 一応は覚えてくれるようだ。


「覚えるだけであって、頼るわけじゃないから!勘違いしないで」


「分かってるよ。」


 そんなことぐらい分かっている。


 自分のことを決めるのは自分だ。


 ただ、その決定を考える時にこのような選択肢があることを知っていてほしい。


 前回は、その選択肢を教えてあげれなかったから、迷い、苦しんで逃げてしまったのだから。


 こうして、テスト前日は過ぎ去っていった。


 あとは、ここ一カ月の結果を待つだけであった。

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