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名前だけの人生相談部に学年1の美少女が人生相談に来てしまった。  作者: 時雨白
第1章 人生相談部初めての相談
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お見舞い

「ここが駿人兄さんの部屋です。私はやることがあるので下に戻るので、後はご自由にどうぞ」

「ありがとう、優香ちゃん」


 優香はえらく丁寧に言うと、その場を去る。絶対にこの場面を楽しんでいる。そして、桜木がいなくなったら散々質問攻めにされるだろう。そう考える、頭が痛い。


 それに対して、桜木さんは礼儀正しく、受け答えをする。


 そして部屋には僕と桜木さんの二人になる。


 何とも言えない空気がそこには流れる。桜木の訪問は僕にとっても予想外の事だ。いや、普通来るとは思わないだろう。


 さて、ここからどうしたものかと考えていると、桜木さんが口を開く。


「昨日はありがとうございます。あと借りていたタオルです。」


 そういって、桜木はこちらにふかふかで、いい匂いが漂ってくるタオルを渡す。


「あ、ありがとう」


 僕はそのタオルを受け取る。


 昨日は色々あって、タオルの事を完全に忘れていた僕は、反応が少し遅れる。


「あと昨日の授業と、今日の授業の内容を簡単にまとめたものです、このノートは使い捨てなので返す必要はありません」


 そういって、桜木は綺麗にまとめられた授業ノートを渡してくれる。どうしようか、迷っていた所だったので非常に助かる。しかし、疑問が残る。


「ありがとう、だけど桜木さんと僕のクラスは違うよね?」


 そう、桜木さんとはクラスが違うので、こちらが今どこをしているのかなどは知っていないはずだが、僕の問いに桜木さんはすぐに答える。


「大友くんに頼んで、見せてもらい、まとめました」


 桜木さん、淡々と答える。


 自分は、まとめてもらったノートを見る。そのまま写したらなまだしもこれは綺麗にまとめられている。そのことから分かることは、桜木は、大友に頼んでノート見せてもらい、それを新しいノートにわざわざ、僕が分かりやすいようにまとめ直して、僕に渡してくれたと言うことだ。


 ここまでしなくてもよかったのにな。


「ここまでしてくれて、ありがとう。このお礼は近いうちに必ずするよ」


 僕は感謝を伝える。ここまでしてくるとは本当にうれしい。それと同時に返されすぎなので後日何か返さないといけない。


「お礼はいりません、隅風君が私にしてくれたことを考えると寧ろ少なすぎるほどです」


 桜木の含みがあるいいかに違和感を感じる。僕はここまでの事をして貰えるほどの事をした記憶がない。確かに、授業を休んだり、歩き回ったりしていたが、そのことを僕は桜木に伝えていない。


 桜木からすれば、僕はたまたま出会って、いい感じのアドバイスをしただけに過ぎない。


 いや、待てよ。


 僕は違和感の正体に気が付くと同時に桜木さんの方を向いて聞く。


「もしかして、僕が昨日早退したこと知ってる?」

「はい、もちろん」


 僕の質問にたいして、桜木さんは当然といった感じで答える。


 僕が昨日の授業を休んだこと、その理由は大友ぐらいしか知っていないはずだ。僕は桜木と会うために色んな所を探していたので、桜木さんを見つけた時は学校が終わってから来ても間に合う時間だ。


 僕と桜木さんの関係はたった2回の人生相談ぐらいのもの。それで僕が、学校を休んでまで行動するとは考えないはずだ。


 つまりは、住吉の奴が教えたということだ。


 そのことを理解すると、桜木が少し呆れたような表情で言ってくる。


「言っておきますけど、それを聞いたとき私とても驚いていたんですから。私の為に学校を休んで探すなんて、一回相談しただけの私なんかにそこまでするなんて、異常者ですよ」

「仰るとおりです」


 僕は深く頭を下げる。


「頭を上げてください、別にそのことに関してはそこまで怒っていませんから」


 桜木がそう言ったので僕は頭を上げる。


「ただ分からないのです。どうして私の為にそこまでしてくれるのですか?」

「桜木さんが辛そうにしていただけではダメですか?」

「・・・・・・」


 僕の解答に桜木さんは沈黙する。


「僕も昔、辛いなと思うときがあったんです。だから分かるんです。誰かに助けてほしいと切望することに、誰でもいい、助けてほしいと。だから僕は自分に何が出来るか分かりませんが、助けようと行動するんですよ。とても辛い事でも支えてくれる人がいるなら、大分救われると思うんです」


 そう、僕は昔助けを求めていた。誰かに助けてほしいと切望していた。それを知っているからこそ、僕は同じような立場にいる人を見つけると、見捨てることができない。なによりも優先的に助けたいと思ってしまう。


 それに想像してしまうのだ、昔、絶望の中助けを求めて、もがいていた自分の姿を。


 桜木さんを探した時も同じだ。僕は思っていしまったのだ。桜木さんが助けを求めているのではないかと、そう考えてしまった時点で動いていた。授業何てどうでもよかったのだ。


 ある意味で呪いだ。そこに助けを求めている人がいるならば、助けたいと思ってしまう。


「優しいのですね」


 桜木はそう言ってくれる。しかし、それを僕は優しさとは思わない。ただ、僕は安心したいだけなのだ。これは決して、他人のために自分を犠牲にしている訳ではない。


 自分が何かを出来るなどと思いあがってはいけないのだ。そう思わないためにも僕はこの甘い言葉を心の中では拒絶する。


「なるほど、これで少しは隅風君の事が分かった気がします。」

「それは良かったですね」

「その顔あまり信じてませんね!」


 適当に返事をしたら睨まれてしまった。仕方ないだろう、他人がどんなことを考えているなんて分かるはずがない。それに内容も内容だ、はっきりと喜ぶわけがないだろう。


「そう言えば、友達件はどうなっていますか?」


 昨日、僕が帰った後、友達と一緒に家に帰ったと思うが、桜木さんの状況が状況だ。何も起こらないと言うことは有り得ない。何かしらの進捗があると思う。それが、先程まで考えていた良い方向になっていたら、うれしいと思い聞いた。


「あの後散々怒られました。なんであんなことをしたのと。何かあるなら相談ぐらいしなさい。心配するでしょ。と私は本当にいい友人を持つことができました。」

「いい友人ですね」

「はい、本当に」


 とてもうれしそうに彼女は答える。


 これで安心だ。桜木はもう一人ではない。


 その後は、友人の事などでしばらく雑談をした後、時間となったので解散した。


 特に接点がなかった僕が、学校一の美少女とこんな会話をすることができるとは、人生何があるか分からないと思う。


 桜木さんが出ていくと、すぐに優香が入ってきた。


「駿人兄さんも隅にはおけませんねー!」

「絶対に何か勘違いしているだろ」


 まあ、予想していた通り、いい感じに勘違いしている妹に散々いじられながら今日を過ごすのであった。






 最後の洗濯物を片付けた私は、ダイニングへと向かう。そこには休憩している綾斗兄さんの姿があった。


 時間としては午後10時であり、両親はそろそろ帰ってくる時間だ。駿人兄さんは明日のために早めに自分の部屋で寝ている。


「綾斗兄さんは、今回の事どう思う。」


 今回の事は駿人兄さんのことだ。駿人兄さんは今まで家に友達などを連れてくる、もしくは訪れるということは一度もなかった。


「どうでもいいだろ。そんなことを考えても無駄だよ。小6に出来る事なんてほぼないしな」

「それはあんたもだろ」


 お前ごときが考えるなよと、言われ頭にきた私は兄さんと呼ぶのを忘れ、言い返す。


 元々、私は兄さんたちの事は、お前とか、駿人など呼び捨てをしていた。駿人兄さんはそれに関しては一切気にせず、綾斗兄さんんは礼儀が足りないと怒る。両親からも流石に失礼だろと言われ、今は直すように努力している。


 それに、よく兄さんたちもなんだかんだ、兄として動いてくれている。


「この程度で怒るなら、無理だぞ」


 そう言われて、私は押し黙る。正論だからだ。


「余計の心配しても無駄だ。少なくとも俺たちに兄をどうにか出来る訳ではない。」

「そうだけど」


 綾斗兄さんの冷静な判断に私は何とも言えない気持ちになる。


 私たちは兄妹だからこそ、互いの事をよく知っている。駿人兄さんがどういうものを背負い、生きているのかを知っている。


「お前の考えていることは分かる。しかし、兄のスタンスは変わっていない。こちらがどう援護を入れても最後は拒絶されて終了だ。」


 綾斗兄さんに事実を突き付けられて何も言えなくなる。


「そんなことよりも、年相応な事でもしたほうがいい。」


 これでこの話はお終いと言った感じで、テレビの方を見る。私もこれ以上どうにかできるものではないので会話をやめる。


「兄が言っていたが、焦らず、待っていれば機会は必ず訪れる。そこまで待てるかどうかが鍵らしい」


 そういって、綾斗兄さんは自分の部屋へと向かう。


 なんだかんだ言っても、綾斗兄さんも兄ということらしい。

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