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名前だけの人生相談部に学年1の美少女が人生相談に来てしまった。  作者: 時雨白
第4章 必要なのは広い視野と冒険させられること
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上手くはいかない

「明日からテストだからしっかり休んで受けるように。それでは解散」


 堀川先生の生徒たちは一斉に動き出す。


 桜木の相談以降、特にこれといったことは起きることなく、テスト前日になっていた。


 明日からはいよいよテスト本日であり、この一ヶ月近くの努力が実る時である。


 多くの生徒が明日に向けてすぐに帰っていく。


 隣の麦野の荷物をまとめて早々に教室から出て行った。


 しばらくすると教室には僕と堀川先生しかいなくなる。


 周囲に誰もいなくなったことを確認した後、僕はカバンから複数の本を取り出す。


「これ、頼まれていた本です。」


「流石は隅風だ。」


 堀川先生は嬉しそうに本を受け取る。


「俺が探しても全然見つけられなかったのにな。よく用意できたな」


「先生が毎回毎回希少性が高くて困ります。今回も見つけるの大変だったんですよ?」


 堀川先生に提示した報酬とは、先生が探している本を見つけてきて用意することだった。


 堀川先生は国語の教師だけあって様々な本を持っている。


 どれだけ持っているかというと、本人曰くそこら辺にある本屋と同等な数あるらしい。


 身近で手に入る本は大体持っていることもあり、堀川先生の欲している本は数量限定とかで入手が困難なものばかりだ。


 ネットなどで購入しようにも、そういったものは数万円といった高額な値段でしか売っておらず、それ以外にも新しく出た新刊などを買うためにもお金が必要であり、買うことができずに困っていた。


 そんな先生に、色々と伝手がある僕が、先生からある程度の予算をもらい、安く買える時に買って堀川先生に渡すということをしている。


「外国の本とか要求するのは次からやめてくださいね。あれ、運搬費とか色々費用がかかりますし、伝手があったとしても探すのにメチャクチャに大変でしたから」


 今回、堀川先生が要求した本の一つは外国の有名な作家が初めて書いた小説があった。


 この小説は完結まで一応出ているが、あまり人気ではないかつ昔のこともあって、出版数が非常に少ないものであった。


 一体どこでこんな本の存在を知ったのか、感心するぐらい知名度がないこともあり、探すのは難航を極めた。


 諦めようと思った時、僕の知り合いの友達の友達の友達が、そういった本を扱う人を知っていることが分かり、その人との交渉の上で何とか手に入れた品だ。


 これに関しては完全に運が良かったとしか言いようがない。


 これを見つけるのにかかった費用だけ考えるなら、今回の件に差し引いてもお釣りが返ってくる程度には色々大変だった。


 まあ、用意できなくとも堀川先生のことなので、見つかるまで気長に待ってくれたとは思うので大丈夫だ。


「ごめんごめん、どうしても読みたかったんだ。次からはできるだけしないようにするから」


 そう言いながらも、早速僕から受け取った本を読んでいる堀川先生。


 その姿を見て本気でそう思っているのか、疑いたくなる。


「これ、今回かかった費用です。外国の本もあっていつもよりかは高くなりました」


 僕は今回の本を揃えるのにかかった金額などをまとめた紙を渡す。


「高くなったな。まあ、本来ならこの数倍は高くなっていたと考えるなら大分得をしたな」


 堀川先生も高い出費になったが、本来のことも考えると大分得をしているので納得のいく結果になった。


 そうして、しばらくはその本のことで堀川先生と雑談をした。


「そういえば、桜木の件はうまく行ったのか?」


「うまくいったと思いますよ。桜木が自信満々の顔をして、一位を取るといったので、後は結果を待つだけです」


「それは楽しみだな」


 そう言うと持っていた本を持って明日から立つ堀川先生。


「まだ仕事があるからな、職員室に向かうが、隅風はどうする」


 気がつけば1時間程度経っていた。


 そろそろ教室の方は戸締りをする時間なので、僕も荷物をまとめて出ていく準備をする。


「借りていた本があるので、図書室の方へ向かうつもりです」


 今回の桜木の問題などを作る際に、図書室から使えそうな本を借りていたので、荷物が少ない今日に持ってきて返すつもりだった。


「そうか、今回は色々ありがとうな。」


「こちらこそ、助けていただきありがとうございます。」


 そういった僕たちは教室から出て、それぞれの所へと向かった。


 それから数分後に図書室にたどり着く。


 この時間帯は図書委員会などがいないため、図書室は誰かが使わない限り鍵がかけられている。


 なので返却口は外にあり、僕は、そこへ持ってきた本を置く。


 借りた本を全て返して、立ち去ろうとした時だった。


 ドアが微妙に空いていることに気がつく。よく見れば電気も付いていることもわかる。


 テストの前日に図書室に残って勉強する人いるのだろうか。


 少しだけ興味が出たので、図書室のドアを開けて中を見ることにした。


 図書室の中には、腕を枕にして、寝ている女子生徒を見つける。


 その付近には勉強道具などが置かれている。


 その状況を見て、面倒なことになったなと思った。


 このまま放置した場合、彼女はここのチェックをしにきた人に起こされるだろう。


 どう言う経緯で寝ているのかは分からないが、彼女にとって不都合な結果になる可能性はある。


 どうしようかなと悩んだ時、あることに気がつく。


「もしかして、麦野か」


 遠目で見ていた為、気がつくのに遅れてしまったが、寝ているのは麦野だった。


 何をしているのかと思いながらも、麦野の所へと向かう。


「起きろー」


そういって起こそうとした時だった。あるものが僕の目に止まる。


 僕が見つけたのは、居眠り運転などを防止するための眠気防止の薬だった。


「やってるなー」


 それを見て僕は呆れるようにいった。


 麦野は僕の忠告を素直に聞いたわけではなかった可能性があることに気がついたからだ。


 麦野は、眠気を薬で誤魔化すことで、学校にいる間はしっかりと起きて、周りから心配されないようにした可能性がある。


 何故こんなことをと考えれば、いくつかの可能性が出てくる。


 一番可能性がありそうなのは、麦野にとってテストまで体が持てば、後はどうでも良かったと考えていて、ただ、授業の合間に寝るなどの行為が、勉強の効率を下げていると考えた。


 だから眠気だけを解決しようとした。


 そう考えると、僕の注意は全部受け入れられたように見えて、全く受け入れられていなかったことになる。


 そう考えると悲しくなるが、世の中そう言うものなので仕方ないだろう。


 しかし、もしそれをするとしたなら逆に勉強の効率は下がる。


 追い込めるのはいいが、追い込めすぎても不味いのだ。


 もし、先程考えたことが事実なら、どこかでボロの一つや2つぐらいは見せている可能性がある筈だ。


 なかったとしては多少なりとも影響は出ていた筈。


 僕はそれを見逃していた可能性がある。いや、見逃していたのだろう。


 これは反省すべき点だ。


 だが、今はこんなことを考えている時間ではない。


 とにかく、この状態の麦野は放置できない。


 どうしようかと考えた時だった。


「私!」


 突然、麦野が喋った。


 僕は驚いて、麦野を見る。


「寝言かー」


 麦野はぐっすりと眠っていた。


 色々と悪い可能性が出てきてどうするか、考えた時のだったので余計に心臓に悪い。


 そんな感じで驚いている、僕を差し置いて、麦野の寝言は終わらなかった。


「私、一位を取ったんだよ。なのにどうして、どうして、そんな冷たい顔をするの・・・・・・」


 嘆くように発せられる寝言。


 麦野の目からは涙が溢れている。


「もうちょい気楽に過ごさせてもいいんじゃないかな」


 こういったことが身近にいくつもりある事に、僕はそう嘆くのであった。




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