隅風駿人の戦場
「だが、隅風が確証もない、こんな中途半端な考えを述べるのは初めてだな」
「別に今回が初めてではありませんよ?今までは必要がなかったからしなかっただけです」
こんなあやふやな考えを聞くことに驚く堀川先生だが、僕的には普通のことだ。
昔からそうだった。いくら自分で考えても答えが出てこないことなんていくらでもあった。
その度にいろんなことを試した。
「まあ、聞く限りでは絶望に感じるが、そこまで追い詰められた様子はないな。もしかして何か考えでもあるのか。」
「いえ、何もありませんよ?普通に絶望中ですね!」
僕はハキハキと自分の現状を伝える。
「言動があっていないぞー!」
堀川先生は呆れたようにいった。
「まあ、これぐらいの絶望はいつものことなので。」
「どういう人生を歩んできたんだよ」
堀川先生は少し引くようにいった。
仕方ないだろう、僕だって絶望になれるほど体験することなんてしたくなかった。
しかしながら、現実はとても厳しい。
どれだけ頑張っても次の絶望が待っているのだ。嫌になる。
「それに絶望だからといって顔を下に向けて足を止めて何になるんですか?それでは何も解決しない。どうにかしたいなら、ただ頑張るしかない。」
「隅風から精神論を聞けるとは驚きだな」
「バカな僕にはそれぐらいしか思いつきませんから。それに絶望を乗り越えてきた人たちは最後まで諦めなかった人ですよ?どうすればいいかなんて歴史が教えてくれてます」
特に優れた才能が僕には、これぐらいのことしかできない。
それがいくらバカにされようが僕は構わない。自分の弱さをしっかりと認めることも大切なことだ。
その上で僕はその理不尽に負けないように進む。
そうすれば見えなかった希望が見つかるかも知れないから。
「それはごく少数だけで、実際はどうにもならない方が多いのは知っているだろう?」
「ダメだったら、それまでの話ですよ。実力がなかったそれだけの話です。まあ、何もしないで負ける事はしませんが」
ダメだった時はしょうがないと僕は考えている。
この世の中どうにもならないことなんて幾らでもある。
ただ、僕はそれに絶望するよりも、前を見て進んだ方が気が楽だからするのだ。
それに、この世の中で無駄な事はない。どんなことでも何処かで役に立っているものだ。
ただ、それに気がつかないだけのことである。
「はあ、まあ間違っている訳ではないからな」
堀川先生の中でも諦めたように納得する。
「そういうことなんで、今は一番可能性があるところから試してみるところです」
「それがダメだったらどうするだ」
「次の方法を考えて、試すだけですよ」
ここまでこれば複雑なことを考える必要はない。
初心に戻って、一つ一つ簡単なことから考えるだけだ。
「はあ、たまに思うけど、隅風は急に変わることあるよな」
「はは、よく言われます」
まあ、人には色々あるので気にする事はない。
「それでどうにか出来そうですか?」
「そう言われてもなー?」
堀川先生は腕を抱えて深く考え込む。
「やれることがない訳でもないが、保証は無理だな」
「何かあるなら、お願いします。」
僕は先生に頼み込む。
今の僕にはこれぐらいしか出来ない。
「はあ、分かったやってやるよ」
「ありがとうございます」
堀川先生は渋々といった感じで答える。
それに対して僕は深々と頭を下げてお礼をいう。
「ただし、それによって問題が解決する訳でもないし、問題が悪化するかも知れない。そこまでは責任取れないからな?」
「分かってます。その時の準備は整っています」
今回の作戦で、きっとここが一番の山場になるだろう。
いつ動くのかも、どうするのかも堀川先生に全て任せている為分からない。
何がどうなるか何もかもが予想がつかない。
ただ、僕ができる事はその混沌から生み出された希望を逃さないために、準備をしてただ待つ事。
真っ黒な絶望の中、投下される変化という混沌、その混沌を制することがこの絶望を乗り越えることができる。
ここが、僕にとっての戦場だ。
誰も知ることがない、隅風駿人の奇跡を掴み取るための戦いはひっそりと始まったのであった。




