みたいもの
「そういう訳で、これ連絡先」
「ありがとうございます」
僕は竜馬さんから連絡先が書かれた紙をもらう。
「何か手伝って欲しいことがあったら連絡してくれ、私ができる範囲なら協力する」
「分かりました。それと一つ質問があるのですがいいですか?」
「どんなことでもどうぞ」
「この協力は桜木家の代表としてですか?それとも竜馬さん一個人としてですか?」
「個人としてだ。このことについては、このことについては家族は知っていない。知っているのは私と私が信頼している者だけだ」
僕の質問に対して、竜馬さんは即答をする。
監視の件は桜木家としての行動だが、僕との個人的な協力という点では、竜馬さんの意思で動いているということだ。
そのような状況を考えるに、竜馬さんも竜馬さんで中々に複雑な立ち位置にいるということだ。
「ありがとうございます。僕の質問は以上です」
「それだけでいいのかい?もう協力者なんだ。問題解決のためなら何でも教えてあげるよ?葵と家族の過去とかね」
竜馬さんは遠慮せずに聞いてくれと言ってくれる。確かに、桜木の過去などを具体的に知ることができれば、よりいい対策ができるかも知れない。
「そういうことは本人から聞くので大丈夫ですよ」
「知ればより良い方法を取れるかも知れないのに?」
「確かにそうかも知れませんが、僕は必要以上に関わるつもりはありません。それに、そういった事は本人が知ってもらいたいと思う時に知らないと意味がありません」
「だが、相手は本当は教えたいのにそれをついつい隠してしまうかもしれないし、本人ですら伝えるべきか伝えないべきか、分からないで伝えてないかもしれない。その結果、悲惨なことになるかもしれない。慎重なのもいいが、時には強引にいくことも必要だということを忘れないで欲しい」
竜馬さんの考え方に僕も同意する。時と場合によってはこちらが強引に進む必要がある時がある。
それが、本人の気持ちにそぐわない場合でも嫌われる覚悟を持って挑戦する時が必ずあるだろう。
誰も正しい正解を知っているわけではないのだから、本人の気持ちが正解だとは限らない。
臆病者の僕にとっては辛い事実だ。
「少し言い過ぎてしまったね。ただ、後悔のない選択をして欲しいんだ」
竜馬さんは実際にその経験をしたことがあるかのように言う。
竜馬さんの立場からして、そのような経験をしている可能性は高い。
言いたい事は分かるが、高校生の僕には少々荷が重すぎる。
この歳ならもっと将来に関して何も考えていないとか、希望を持っているとか、楽しむべき時期だ。
家族や将来のことで決断を迫られるような時ではない。
そう考えると、それを小さいことから背負わされていた葵はどれだけ凄いのかよく分かる。
今までのことを考えると、葵は少しぐらい休んでいいはずだ。
そう思うのであれば頑張らないといけない。
高校生の僕が背負うには少々荷が重すぎるかもしれないが、出来ないわけではない。
それに思うのだ。
もし、桜木葵という人物が家族や将来といった重荷から解放されて、普通の高校生らしい生活をすることができたら、一体どんなふうになるのか。
その時にどのような景色を見せてくれるのか、気になるのだ。
僕みたいな人で死ぬ気で頑張れば、完璧美少女に少しばかりの休暇は作れる。
やることが明確になれば、あとは簡単だ。
重いことを言って、少々気まずい雰囲気を無視して、自信を持って言った。
「もし、その時に僕がいたならば、踏み込みますよ。必ず」
それを聞いた竜馬さんは嬉しそうな表情をする。
「ただ、その後にどうなるかは責任が持てませんよ?その時のサポートは期待しますから。」
「かっこいいことを言ってるけど、随分と保険を張るんだね。」
「当たり前ですよ!僕にはうまくやる自信が全くないんです。何か保証がないとできませんよ」
僕は一生懸命に訴える。
僕はこう言った冒険には自信がないし、ここである程度の保険を手に入れることができるなら最悪の事態は避けれる可能性は上がる。
才能が無い僕には使えるては何でも使う。
「勿論とも、その時は私も動くことを約束しよう」
「ありがとうございます」
これで、僕だけでは手が負えない問題が発生した場合に取れる手段が大分増えた。
「早速ですが、一つお願い事をしていいですか?」
「どうぞ」
「葵さんが通っている塾の過去問題などを教えて欲しいです」
僕が問題を作成する上で困っているのは塾の方の問題だ。葵からある程度のもらっているのだが、過去一年分ぐらいしかなく、十分な問題などを作成できていない。
問題を得ようとするにも、塾の問題なのでそう簡単には手に入らなく、困っていた。
「それぐらいならお安い御用だよ。今日の夜にでも送っておく」
「ありがとうございます」
竜馬さんはそんなことでいいのかと言った感じで返事をしてくれる。
流石は次期社長として呼ばれているほどの人物である、そう簡単に過去問などは手に入らないと考えていたが、簡単に手に入るらしい。
そんなこんなで、僕たちは必要なことを確認した後、竜馬さんが学校での葵の様子などを聞いてきたので、自分が知る限りのことを伝えた。
「そうなのか、教えてくれてありがとう。これからも定期的に教えてくれないか?」
「はい、また時間があったら」
竜馬さんは普段は知らない妹のことを知ることができたことが相当嬉しいのか上機嫌だった。
僕は定期的に連絡することを約束して、席を立つ。
「今回はありがとうございました。また、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼むよ」
そう言って、僕は純喫茶から出て行くのであった。




