協力への問い
「それでいつから知っていたんだ?」
「竜馬さんが担当していると分かったのはレジャー施設の時です。ただ、監視がある事はそれより前に気がついてました」
「監視のことについてはいつ気付いたんだい?一応それなりのものを選んだつもりだったんだが」
「それに関しては詳しい事は言えませんね。対策されたら困りますからね。ただ、複数人の同時監視をするならもっと連携を意識した方がいいかもしれませんね」
「なるほどね」
葵の兄ということもあり、出来るだけ悪い印象を与えたくないが、こう言った監視系の対策は、汎用的なものが少なく無闇矢鱈に教える事はできない。
なので今回は一番悪かったところだけを伝えた。
もう少し何か聞かれると思ったが、竜馬さんは何かを察したようで、納得した表情をする。
「それでは次に聞きたいことだが、君はなぜ早めに帰っているんだ。」
次の質問は僕だけが単独で動いていることへの疑問だ。
この質問に対して即答をしないで考え込むような表情をする。
ここでの問題はどこまで把握し、そのことに関してどう思っているかだ。
それ次第で答え方が変わってくる。
「葵からはある程度のことを聞いている。私から見て、葵に対しての勉強方法についてはかなり面白いものだ。実際に成績も上がっている。ある程度のことなら信用できるほどの実績を出していると考えているよ」
こちらの考えていることを察してか、素早く対応してくれる。
先程葵たちのことについて聞こうとしたことや、知っていることから考えて、書類的な報告か、独自による調査で知ったことだろう。
つまりはこちらがどんな雰囲気でしているかなど内情は知らないことになる。
そして、ある程度のことなら信用できるという言葉から、明確にやばいことではない限り見逃してくれるとのことだ。
「一番の目的は竜馬さんとの接触を円滑に行えるようにするためです。毎日同じことをすれば、違和感なく接触する事は簡単になると思いまして」
「気遣いありがとう」
監視がある時点で、葵について桜木家がどのようなことを考えているか、ある程度のことが分かる。
その中でも、分かって一番大きかったのは葵のことを何とも思っていない、いなくてもいい人だと考えてはいないことだ。
立場なども考慮すると、家族の情などが一切ない場合なども考えられたので、最悪な状況になっていないことを知れて良かった。
そこから分かることから、今後のために桜木家側の人との接点が必要だと思った。
葵側視点だけでは、正確な情報を知ることができない。これはある意味で致命的だ。
葵の問題の根本は成績云々ではなく、長い時間によって歪になった家族関係などになってくる。
その問題を解決するための手段として、影から直接手助けできる存在であり、全ての状況を冷静に理解している人物である葵の兄の存在はあまりにも大きい。
そして、僕の考えが合っているなら、それは相手も同じ考えをしているはず。
だからこそ、接触しやすい環境にすれば必ず動くと考えていた。
「このことについては後で話そう。それ以外では何をしているんだ」
竜馬さんは、どのように協力するかなどは後にして、それ以外の時間で何をしているか聞いてくる。
つまるところ、情報不足だから、まだ協力するかなどの話はできないということだ。
「基本的には問題と解答作成の時間に費やしています。ギリギリまで問題を改善して、成長に繋げれるようにしています。」
問題を一つ作るにもそれなりに時間がかかる。一応、準備期間中に全て仕上げたが、満足いくものではない。
そのため、ギリギリまで改善をしている。
「そうか、分かった。葵のためにそこまで尽力してくれてありがとう」
竜馬さんは一瞬何か考えた後、納得したのか礼を言われる。
「いえいえ、僕のできる範囲のことをしているだけですよ。それで、僕は合格ですか?」
「最後に聞きたい質問が一つある。どうしてそこまでするんだ?」
竜馬さんはこちらを試すような口調で聞いてくる。
今までにないほどの圧を感じる。きっとこれが一番重要な質問なのだろう。
だからこそ、僕は率直な気持ちを話した。
相手に都合のいい言葉を使うことも考えたが、今後色々と協力する可能性があるし、何よりも自分の理由が間違っているとは思っていなかった。
僕の話を聞いた、竜馬さんは最後まで黙った後、大笑いする。
「あはは!なるほど。そういうのか、それなら私からは何も言えないな」
「合格ですか?」
「合格だとも、これからよろしく」
そう言って竜馬さんはこちらに手を伸ばして握手を求めてきたので、僕も手を出して握手する。
色々合ったが、こうして僕は葵の兄と協力関係を結べることに成功する。




