1週間ぶり
「1週間振りだね」
「そうだな」
ドアを開けた先にいた、桜木とあいさつをする。その表情は1週間と違い、頼もしいと思えるものになっていた。
「隅風くん、久しぶりー!」
「そんなに時間は経っていないと思うけど」
「いやいや、私たちにとってはこの1週間は濃密な時間だったからね。感覚的には一ヶ月ぐらい経っている気がするよ」
「それは順調に進んでいるそうでとても良かったよ」
鮎莉の言葉に僕は喜びの言葉を伝える。
それにしても、今の鮎莉達は1週間前より、活気に満ちているように感じる。やる気に満ち溢れていると言ってもいいかもしれない。
たった1週間でここまで変化が現れるとは僕の予想以上の成長に正直驚いている。
これなら、次のテストはうまくいくかもしれない。
「それで、隅風くんは今日は何しにきたの?いつも通り麦野さんとよろしくやってくるんじゃないの?」
「今日は確認テストで・・・・・・うん?」
今、鮎莉は何を言ったんだ。
僕は何か致命的な言葉に口が止まる。
「何か、とてつもない勘違いが起きているような気がするんだがからは気のせいか?」
「それを決めるのは駿人だぞ」
住吉の言葉によって大体のことは理解した。つまるところは今回の問題の元凶は住吉であると、大方、ここ数日の麦野とのやりとりなどを面白いおかしく、着色して伝えたのだろう。
これが、色々といい感じに仕上がっていると言う言葉の意味か、全く面倒なことをしてくれやがって。
だがな、詰めが甘いぞ住吉。
元々僕の交友関係の価値はゼロに等しい。そんなものに興味を抱くわけがない。よって、そんなものを使おうが影響は微々たるものだ。
何やよりも、住吉は真実を誇張しているに過ぎない、正しい真実を伝えれば自然と誤解が解けると言うものだ。
「それで隅風は何か弁明はあるんですか?」
桜木は割と真剣そうな表情と声で聞いてくる。
あれれ、もしかして僕の想像以上に価値があるパターンなのか。
いや、ここで動揺するのは悪手、冷静になるんだ。
桜木の態度から僕の予想が違う可能性が出てきたので、一瞬動揺するが、すぐさま冷静さを取り戻す。
例え価値があったとしてもやることは変わらない。
僕は事実を並べて、誤解を解くのみだ。
「言葉に踊らされすぎだよ、僕はただ授業中に分からないところがあったら教えてもらったり、逆に困ったことがあったら助かるぐらいしかしてないよ。」
「住吉は随分と仲良くやっていたと言っていたよ」
「学友の範囲内でね」
「本当かな?」
極めて冷静に発言するが、疑いは晴れない。
仕方ないので、禁止手を使わせてもらおう。
「僕が住吉みたいな事をできる奴に見えるか?」
住吉はプライドが高い。なのでそれを煽るような言い方をすれば、住吉は引き下がる。
「見えないが、人とは分からないからな!実はそう言う奴かもしれん」
「おい、口が完全に笑っているぞ」
無理矢理でも弄りたいのか、強引に引っ張ってくるが、口元が笑っている。
「この茶番はもういいか?」
「ボロは出さなかったか」
「ボロ出なかったねー」
「元々攻められるような事をした覚えはないからな、ボロも何もあるかよ」
全く、無駄な体力を使わされた。そんなことを思いながら、僕はテストの準備をし始める。
ちなみに、桜木は少し安心したような表情をしている。
一体どこに安心する要素があったのか僕には分からない。まあ、桜木のコンディションに大きな問題がないのでよかった。
そんなこんなで僕たちは雑談をしながら、テストの準備を進めていく。
桜木葵視点
隅風は黙々とテストへの準備をする。
これは私がこの1週間でどれだけ頑張れていたのかを教えることのできる機会である。
ここ1週間でどれだけ隅風が準備していたかを色々と知ることができた。
一番驚いたのは、助っ人を堀川先生以外にも複数人頼んでいたことだ。
出来るだけその科目の先生に頼んでくれており、いない科目は堀川先生が代理でするような形だった。
それぞれの先生にも隅風は交渉しており、それをやる時間を考えると私たちが休んでいる時に裏で色々としていてくれたのだろう。
そして、今も隅風は裏で色々としてくれているはず、感謝の気持ちを伝えたいが、そんな言葉よりも結果で答えた方がいいと思った。
それが隅風にとっての1番の恩返しになってくると信じているから。
私はやる気に満ちている。ここでいい点数を取るとそして、隅風の努力を無駄にしない。
そんなふうな心持ちでいると鮎莉がこちらに来る。
「やる気だね」
「うん、みんなには本当に助けてもらったから、しっかりと恩返しをしたいから」
鮎莉の質問に私は静かな決意を秘めて答える。
「とっくに恩返しはできてるよ」
「鮎莉、何か言った?」
「うんうん、何にも」
鮎莉が何か小声で言ったように聞こえたが、どうやら聞き間違いだったらしい。
「それよりもさっきの質問で安心してくれた?」
「うん?なんのこと」
鮎莉の質問の意味がわからずついつい聞き直してしまう。
「隅風くんと麦野さんのこと、あの話聞いてから少しだけ元気がなかったように思ったから」
「・・・・・・!」
鮎莉が言わんとすることを理解した私は一瞬顔を赤らめる。
「鮎莉、茶化すのはやめてよ。別に隅風のことはそんなふうに考えてない。ただ感謝するべき人ぐらいにしか」
「そうなの?なら、私の早とちりだね。ごめんね」
私はすぐに弁明はするが、意外にも鮎莉は簡単に引き下がった。
「今は目の前のことに集中しよ?まだ時間は多くあるから焦らず行こ」
「うん、わかった」
鮎莉の言葉がどう言う意味で言っているか、断言はしからないが、今はこの確認テストに集中することが最優先なのだ。
そして、私たちは確認テストを受けるのであった。




