助っ人
桜木葵視点
私はみんなよりも一足早く、部室に入り、今日の授業の準備に取り掛かる。
今日は国語の授業であり、隅風が呼んでくれたスペシャルな助っ人も来てくれる予定になっている。
助っ人は毎日は来れないらしく、そのため数少ないチャンスを無駄にはできない。
私はこの為に念入りに準備をする。それと同時に、まだ一日しか経っていないが、この勉強方法は効果が出始めていた。
今までは、自分が理解したら次に向かっていたが、今回は多くの量をスムーズに教えるために、大切なポイントをしっかりと見つけ、それを線に繋げるように分かりやすくまとめなければいけない。
その作業をするだけで、今まで気づかなかったことに気がつくことが多くあった。
一番大きかったのは、今まで問題には関係ないところの役割を知ることができたところだろうか。
教えることにおいて、順序を決める事は大切だ。そして、その順序を考える際に重要になってくるのは、メインの存在ではなく、そこまでの橋渡しをする普段注目されない、物語りでいう脇役だ。
5W1Hという視点で考えるとわかりやすかった。主人公だけに目がいきがち、だがその状況を構成しているのは主人公ではなく脇役や環境の影響が大きい。
それをしっかりと押さえることで、自然の流れで教えることが出来る。
ただ、勉強をしていただけでは、このような考え方をする事は私は出来なかったのだろう。
それと同時に思うのだ、隅風はこれによってどのような景色を見ているのか。
この勉強法は隅風が提案したもの、言うなればこれを極めれば彼の考えていることがわかるかもしれない。私はそれを知りたいと思っている。
そんなことを考えながら準備をしていると、部室に誰かが入ってくる。
「今日はよろしくお願いします!葵先生!」
「よろしくー」
「鮎莉、そこまでの意気込まなくていいよ」
入ってきたのは、鮎莉と大友くんだった。
「駿人は先に帰るだとよ」
「分かったわ。教えてくれてありがとう」
大友くんの連絡にお礼を言う。
隅風のことだ、裏で色々してくれているのだろう。私もその働きに応えられるように頑張らなくては。
「葵先生ー!いつから始めるんですか?」
二人が来て授業を受ける準備が終わったごろだろうか。鮎莉から質問が飛んできた。
「予定通りなら助っ人が来るらしいから、その助っ人が来てから始めようと思う」
隅風が用意してくれた助っ人であり、それを抜きにして進めるのは色々問題があるため、待つことにする。
「駿人いう助っ人かー。誰だと思う?」
「私、隅風くんの事は全く知らないから見当もつかないよ、駿人の方が分かるんじゃないの?」
「いや、交流関係についてはある程度は知っているが、予想がつかないな。ここ最近の変化というと、席が隣になった麦野という女子と仲良くなっているぐらいか?」
「なにそれ!超気になることじゃん!」
「あの、その麦野さんて誰ですか?」
助っ人が来るまで暇だったので、誰が来るのかを話していたら気になる情報が出てきた。
「桜木が知らないのは意外だな。麦野は現在テスト順位が1位のやつだよ。」
「まさか、その人が助っ人!?」
「それはないだろ。仲がいいと言っても軽い会話をするぐらいだし、それに関係ができたのも昨日の席替えからだ。駿人の性格上、そんなグイグイいくようなやつではないしな」
「だよねー。それにこれから勝つ必要がある人に教えてほしいなんて言っても断るし、例え大丈夫でもやりづらいからな」
「そ、そうですか」
私はその話を聞いてほんの少しだけモヤモヤする感情を抱く。
隅風の今までを見たところから、きっと困っていて助けて話すようになったのだろう。そうに違いない。
私はこの分からない感情を押し込めるように、自分に言い訳をする。
その時だった。
部室のドアが開いた音がした。
この部室に入ってくる人は滅多にいないというか、見たことがない。つまり、隅風が呼んでくれた助っ人だろう。
隅風が呼んでくれたであろう助っ人はそのまま作業スペースの扉を何の躊躇いもなく開ける。
そして、そこから一人の人物が現れる。
「堀川先生!」
「マジかー」
「この人が助っ人?」
そこに現れたのは国語の担当教師である堀川先生だった。
その姿を見た大友くんは、目に手を当てて面倒そうな表情をしており、鮎莉は少し意外だったのか驚いている。
「おいおい、一応先生だからな?それに一応ここの顧問でもあるんだから、もっと敬意を持った反応をしろよ。」
先生に対しての反応ではなかったことが嫌だったのか、少々拗ねたように注意する堀川先生。
「堀川先生が助っ人ということでいいですか?」
「それであっている。俺の可愛い生徒である隅風から頼まれてな。桜木、お前の授業を見て、アドバイスをしてほしいとな」
隅風が呼んだ助っ人はまさかの本職の人物である堀川先生であった。
「それじゃ、桜木の授業を見せてもらおうか?」
私たちの授業の邪魔にならないところに座った堀川先生は楽しそうな表情をしないがそういうのであった。




