流れだけでは誤魔化せない
「大体のことは理解できた?」
「理解したよー」
「俺もだ」
「私も大丈夫です」
僕の考えた勉強法についての有用性は理解してもらえたようだ。
「それでは具体的にどうしていくかを話していく」
僕はカバンから別の資料を取り出し、渡していく。
その資料に書かれているのは、今回勉強すべき範囲と、テスト当日までの勉強スケジュール、主な勉強方法とその説明に例など合計10ページ近くあるものになっている。
「おおー、マジかー」
その資料に住吉は少し引いた感じで言った。
「細かい内容については、後で説明するが、その前に確認したいことがある。鮎莉、住吉には桜木の生徒として一緒に勉強してほしい。ただ、それだと部活中まで勉強の時間になってしまう。自由な時間を過ごしたい二人からしたら苦痛の時間になる。それにこの役割は桜木の成長に大きな影響を及ぼす。引くなら早めに引いたほうがいい」
この勉強方法は教えてもらう側もそれなりに重要だ。教える側が真剣でも教えてもらう側がやる気がなければいけない。
このやり方において、成長の鍵を握るのは教えてもらう側の分からないである。それを積極的に質問し、聞く事で教える側は、自分の甘い所を知れる。
もし、それがないのであれば質問はなく、教える側も自分の欠点に気がつかない。
この勉強法は双方のやる気があって初めて本当の効果を出すのだ。
「お願いします!出来るだけ負担のかけないように努力して、早く成長して頑張ります。」
桜木も頭を下げてお願いする。
「なに言ってるの?最初から協力する気満々だよー!可愛い葵ちゃんが頑張ってるんだよ!これはもう親友として恋人として頑張るしかないでしょ!」
「え、俺普通にー!」
勉強が好きではない住吉が何か言おうとした瞬間、鮎莉から強烈な一撃が住吉へと打ち込まれる。
「何か言った?住吉も勿論協力してくれるよね?」
「ハイ、モチロンデス」
鮎莉からただならないオーラが放たれ、それを直で感じた住吉は体を震えながら答える。
「ふ、二人ともありがとう」
その惨状に、桜木も若干の苦笑いをして、お礼を言う。
少々予定とは違ったが、無事二人も協力してもらえることになった。
「二人ともありがとう、次に大まかなやる事を伝える。桜木には基本的に、2つの形式で教えてほしい。一つは授業形式、ここでは全体的な内容を教える感じだ、また一つは対策形式、これは授業形式でやった内容でテストに必要だと思う所集中的にやる事だ。やり方や理由などに関しては資料に書いてあるからまた別で見てくれ」
「一つ質問いい?」
「どうぞ」
「この定期的に入っている、テストや反省はなんですか?」
桜木から資料に書かれている、スケジュールに関して質問がとんでくる。
「先にテストのことから話そう。具体的なことは資料に書いてあるが、簡単に言えば実力のチェックだ。テストの種類は2種類、一つは桜木が作成したテスト。それと僕が用意したテスト。前者は鮎莉と住吉にしてもらう。後者は桜木も含めた3人でしてもらう」
教えているだけではどれぐらい実力がついたのかは分からない。定期的にテストという形で、数値化をして現状把握をすることは大切だ。
それと同時に桜木にテストを作らせることによって作成側視点を知ってほしいという狙いもある。
「本格的だね」
「やるなら徹底的にが僕だからね」
まあ、高校生がすることの範疇を少々超えているので、この反応も仕方がない。
「次に反省だか、その言葉通りだ。教え方に関して、振り返ってどうするべきか話してほしい。それと僕達だけでは、考え方が広がらないかもしれないから、スペシャルな助っ人を一人用意してある。」
「スペシャルな助っ人?」
「ああ、それが誰なのかは会ってからのお楽しみとしてくれ」
今回の為に色々と手を回しておいた。色々とやるべきことが多くて大変だ。
「その日にやる内容は一応書いておいたが、全然変えて構わない。スケジュールも余裕を持って作られている。自分のペースで進めても大丈夫だ。紙以外にも、サイトでも確認できるようにした。今送ったのがサイトのURL」
「すごいね」
「駿人はITの方の技術力はすごいからな。裏で色々やっているようだし」
「できる事が増えるからね」
取り敢えず、説明する事はあらかた説明する事ができたので、これで対策会議は終わりと言った流れだ。
後の時間は、明日から始まる勉強会などの準備の時間になる筈だ。
そう思って、対策会議を終わらせようとした時だった。
「一つだけ質問いいですか?」
「うん?何か不備でもあった?」
桜木がこちらを真剣な目で見てくる。
何かおかしい事はしていない筈なんだがな。
「隅風はどうするんですか?」
「あーーー、忘れてたな」
自分のことだから、すっかり忘れていた。確かに、誰がなにをするかは知っておいた方がいい。
「今回は裏方をしているよ。スケジュールの調節にテスト結果の分析とか、他には情報収集とかね。だから今回は割とこの部活にいない時の方が多くなるかもね」
「本当ですか?」
僕の言葉に桜木は疑いの目を向けてくる。
予想外の自体で若干焦る。桜木がなにを疑ってあるか予想がつかない。
別に僕は真実しか言っていない。ただ、全てを言っていないだけ。
返す言葉が見つからず、僕達はしばらく見つめ合う。そのあと、先に口を動かしたのは、桜木だった。
「別に疑っているわけじゃないんです。ただ、隅風は一人で抱え込むというか、知らない間に一人で何でもしようもするから、心配なんです。頼ってしまっている側ですが、私は助けてくれる人が辛い思いをするのは嫌です。」
「・・・・・・」
的を当ていすぎるので、何も言い返せなかった。後ろの二人もうんうんと頷いている。
あまり気付かれないように、工夫していたがバレてしまっている。まあ、少し振り返ればわかる事なので、そこまで気にはしていない。
さてどう返すべきか。というか働きすぎるから心配されるなんて初めての事だ。
桜木を見るが、力強い目をして、生半可なことでは引く気はないようだ。これでは適当な誤魔化しは逆効果になる可能性がある。
どうするか悩んでいると、桜木は更なる追撃をしてきた。
「それに言ってくれたじゃありませんか。我儘が許されるのが友達だって。私はあなたの我儘をいくらでも受け入れる準備はできてますよ?」
桜木さん!満面な笑みでそんなこと言わないでくれ。聞く人が聞けば、勘違いしそうな言葉である。
事実、後ろの二人はニヤニヤしている。
限度があると言いたいところだが、それを言ってしまってはあの時の言葉は嘘になる。
だが、全てを言うのはまだ早い。ならば後にするか。
僕は両手を上げて降参の合図をする。
「負けだ、負けだ。確かに他にも色々やる事はあるけど、今は言えない。言えるようになったら、手伝ってくれ。」
「はい!その時は任せてください」
こうして、対策会議は終わった。




