プロローグ2
麦野明里視点
日曜日の夜、私は明日の授業の予習を終わらせ、今は参考書の問題を解いていた。
「明里、勉強をすることはいいことだけど、明日は学校だから早く寝なさい。」
「母さん、ありがとう。キリのいいところまでやれたら寝るよ」
「もー、前回でテストでやっと一位を取れたんでしょ?少しは休んだらどうなのよ?最近の明里、いつもに増して勉強ばかりするから心配。」
「心配をかけてごめんね、私は大丈夫だから!今は私のやりたいことをやらせて?」
「辛いことがあるならいつでも相談になるからね」
「ありがとう、母さん」
そうして母さんは部屋から出て行く。
私はその後も問題を解き続ける。
私は頭がいい。小学校、中学校でも常に一番であった。
みんなが私を凄いと言ってくれた、みんなが私を頼ってくれた。
両親も私のことを褒めてくれ、多くの愛情を私にくれた。
それは嬉しいことで、私が一番であろうとした理由の一つだった。
ただ、私が一番頑張ろうとしたのは、私のことをライバルとして張り合っていた親友がいたから。
その親友と勝負するのが楽しかった。
その親友と一緒に過ごすのが楽しかった。
その親友と遊ぶことが楽しかった。
その親友と常に一位二位争いをしていた。他を寄せ付けない二人だけの勝負をしていた。それは高校でもそうなると考えていた。
だが、そうはならなかった。
「桜木葵」
学校1の容姿を持ち、大企業の令嬢としての気品も持ち、文武両道である彼女は、私たちだけの勝負だったところ、奪い去り、一位として一人君臨した。
最初は彼女を親友と共に超えて、一番になろうと頑張った。だけど、そう簡単には超えられなくて、苦戦する日々が続いた。
そんなことをしていたからだろうか、いつしか、親友は私のことをライバルと言わなくなった。
そこから、一緒に遊ぶ時間も、喋る時間も少なくなり、いつしか私達は喋るかとすらしなくなっていた。
それが私にはどうしようもなく辛くて、あの時を取り戻すために必死に努力をして、一位になろうとした。
そんな努力が実ってか、2年生の中間テストでは見事、一位になることができた。
これで全てが戻ると考えたのに、現実は何も変わらなかった。
一位を取ったと親友に伝えた。しかし、返ってきた言葉はこうだった。
「良かったね」
その一言だけだった。そのあとすぐに親友はどこかに行ってしまった。
そのことで私は悟った。親友は私との勝負はどうでもいいのだと、楽しかったあの頃はもう戻って来ないのだと。
私は途轍もない喪失感に襲われた。その頃だった、二位に落ち、私同様、一番を失ったはずの桜木葵が変わったと聞いたのは。
前まで、人形のようなどこか冷たい印象があった桜木葵がとても嬉しそうに笑って、明るくなったのだと。
どうしてと思わずにはいられない。
同じようなものを失ったにも関わらず、私とは逆のことが起きている。
もう訳が分からなくなっていた。
何もかもなくなった私は、最後に残ったこの一番に縋り守るため、今必死に勉強をするのだ。
これすらもなくなれば、私には何も残らないから。




