友達
「大丈夫か!」
なにが起きたのかを理解した住吉たちがこちらによってくる。桜木はギリギリ助けることができたので、傷はなく。こちらも不意打ちであったが、特に怪我はなく、少し痛いぐらいで終わった。
「大丈夫だ」
「いや、お前のことじゃないから」
「おい!」
こいつ、僕のことを友達だと思っているのだろうか。
「隅風くん!早く!私の葵ちゃんを離して!」
「あ、はい。すいません」
鮎莉の危機迫った表情と声で、自分が桜木を抱いていることに気が付き、迅速かつ丁寧に解放する。それと謝罪もしておく。
「葵ちゃん!怪我はなかった?とても心配したよ!」
「あ、うん。大丈夫だよ」
解放された桜木に飛びつく鮎莉。急な事態の連続でどうなっているのか把握できていない桜木は目を色んなところに泳がせながら、力無く返事する。
「お客さま!大丈夫ですか」
「す、すいません」
そんなこんなしている間に、ここのスタッフとこの原因を作り出した、サッカーエリアで遊んでいたグループの代表らしき人が来る。
さて、誰が対応するのかと思ったが、桜木鮎莉は今だにくっついている。住吉は早く行けと言わんばかりの視線を向けて来る。
いや、この中で一番事情に詳しい人物だし、唯一の被害者である事も分かるんだけど、もう少し優しくしてほしいなと思うが、現実は非情である。
まあ、この程度でどうこう言うほど不満があるわけではないので僕が対応する。
それから30分ぐらい拘束されるのは予想外だった。
「ようやく解放された」
僕は応接室から解放される。
内容としてはこちらの不備として危険な目に遭わせてしまいごめんなさい。この件についてお詫びします。後は蹴り上げた人からはルールを破りすいませんとのことだった。
僕的にはこんな事で大事にしたくなかったので、その気持ちだけで大丈夫として終わらせた。
ちなみに、スタッフの対応がかなり早かったと思ったら、優しいお兄さんがサッカールームで危険な行為があるから注意した方がいいと教えてもらい、確認しに来ていたらしい。
今回はギリギリ対応できたのでよかったが出来ていなかったら、大変なことになっていたと言う事で、一応その人にも感謝していて欲しいと伝えた。内容はお会いすることがあったら是非お礼をさせてほしいです。と頼んだ。
そうして解放された僕は桜木達を探す。ごく当然のように待っていてはくれなかった。
どうしようかなと思った時、メールが来ていたことに気が付く。送り主は桜木だった。
先程はありがとうございました。すぐにお礼を言えなくてごめんなさい。私たちは現在フードコートで待っています。席は確保して、ご飯もまだなので焦らず、ゆっくり来てください。
桜木の優しさに心が暖まる。他の誰かにこんなに優しくされたのは久しぶりかもしれない。
僕の周辺は「お前ならなんとかなるよ!だからよろしく。」「お前の役割だ、やれ」など散々な事を言う奴が多い。
まあ、ギブアンドテイクと言った面があるので気にしていないが、人に優しくされると言うことはやはり嬉しいなと思いながら僕はフードコートで待っていた。
フードコートは、ピークの時間を超えたのか、殆ど人はいなかった。
だから、桜木達を見つけるのも早かった。
僕は、4人席に座る桜木達を確認する。そちらに向かうと、桜木が僕の存在に気が付き、席を立ってこちらまで駆け寄ってくる。
「私を守ってくれてありがとうございます。すぐにお礼を言えなくてごめんなさい。その上、庇ってくれたのにその後の対応までさせてしまい本当にごめんない。怪我とか痛いところはありませんか?」
「僕は大丈夫だし、特に気にしてないから落ち着いて。」
大企業の娘としての教養からか、先程の対応の酷さを強く実感しているようで、凄い勢いで感謝と謝罪をされる。
そんな桜木をいったん落ち着かせる。その行為から反省しているということはとても伝わるが、本来なら相手の事を考えて、相手が落ち着いて聞けるような状況などで、謝罪したほうがいい。
それぐらいの教養は完璧美少女と言われている桜木なら当然身につけているもので、今の行為はそういったことを徹底的に身につけさせられているはずの人がするようなことではない。
そのことから、かなり混乱していると分かる。理由はいくつか考えつくが、一番は友達との遊びと言う事で気を許しすぎていたことが原因だろう。
普段なら必ずしないといけないことを出来なかったというギャップ差を人よりも大きく受けてしまった。
気を許して、心の底から楽しんでくれていること自体、とてもいい傾向なのだが、その悪い面が今回は出てしまった感じだ。
真面目な人ほど、緩んでいるときにやらかしたミスを責めるものだ。折角楽しんでもらいたいのに、このままでは桜木は先程のことに引っ張られ続けるだろう。
それは僕達の望むところではない。だからこそ、うまくカバーをしないといけない。そして、今回その役割が出来るのは庇った僕だけだ。
「すいません。わたし、動揺しちゃって」
「謝る必要はないよ、寧ろいい傾向だよ。それだけ僕達に気を許してくれたということでしょ?ならそれに応えたいと思うのが友達だよ。」
「そういうものなのですか?」
僕の言葉を聞いて少々不安そうに聞き直してくる。きっと怖いのだろう。気を許すことが、それは自分の弱みを相手に見せ、迷惑をかけるというものだから。
常に完璧を求められて来た桜木には最も許し難いことであり、怖いことで間違いがない。よく見ると桜木の手が震えている。
僕はその手を優しく取り、出来るだけ安心して貰うように言う。
「そう言うものなんだよ、弱さを一人で抱えて震えている君を助けたいと思うと同時に僕が困っている時に助けてほしいと思ってもいい関係だからね」
「なんですかそれ、とてもわがままではないですか」
桜木はなんだか呆れたように言った。
「それが許されるからね。友達ていいでしょ?」
「そうですね」
桜木の手はもう震えてはいない。僕はそっと手を離す。
「一つ、聞いていいですか?」
「どうぞ?」
「隅風は私が困っていたら助けたいと思っているんですか?」
「もちろん!笑っていてくれた方がいいに決まっているからね」
「隅風は困っていたら私に助けてほしいと思うんですか?」
「もちろん、特に英語とかは助けてほしいかな?全く覚えられないから」
「なら、助けてあげないといけませんね!」
「学年1に教えてもらえるなんて、これはラッキーだな」
そうして僕達は笑い合う。
「桜木、駿人は友達としてはかなりいい方の部類だぞー!困っていたらなんだって助けてくれる。やり方は回りくどいがな。それにあいつ自身、運が悪すぎて、並大抵のことなら困りごとにはならん。だから、殆ど助けない方もいい。いや、最高だよ!」
「ああいうのは、友達のダメな例だから、決して真似しないでね!」
「お前よりマシだから」
「おい、どの口が言ってんだよ?何かあればすぐにこちらに任せる。できることもしない。今すぐ今までして来たことを返してほしいわ」
「俺は必要最低限で返す男だ。そして、俺はお前がしてくれた分に釣り合うほどのことをしている」
「へー、なら今までにして来たことされて来たこと並べていこうじゃないか?本当に釣り合っているか確かめないとな?」
「ふん、雑魚がおれを恩恵を過小評価しすぎている。」
「葵ちゃんと私はあんな醜い争いをするような関係じゃないからね」
僕達が言い合いをしていると鮎莉が真似てはダメよと言った感じで、さりげなく馬鹿にする。
これに関しては真の男女平等主義を貫いている僕達には聞き流せない言葉である。
「おいおい、桜木のことになったら盲目になるやつが何か言ってるぞ」
「本当だな、さっきだって桜木にくっつくからこんな事になったのにな」
僕達は即座に言い合いをやめて、鮎莉に集中攻撃する。
「私たちを護るのが、あなた達の仕事でしょ?」
「しっかり護っていますよ?」
「護る対象が邪魔してくらなら不可能に決まってる。それとも止めた方がよかったか?」
「あら、どうやらどちらが上か一度教えてあげないといけないのかしら?」
鮎莉は女性の特権を使うが、真の男女平等主義を貫いている僕達には一切無意味なもの、華麗にかわし、痛烈な反撃をする。
そのことに鮎莉も対抗し、こちらを叩き潰そうと鋭い目つきでこちらを睨んでくる。
もはや、一触即発だ。先程までのいい流れはなんだったのか、目の前では醜い争いが始まろうとしていた。
「ふふふ、あははは」
そんな醜い争うを見て、桜木は楽しそうに笑う。
学校1の美少女に外見だけいいやつ、性格腹黒女子に住吉が言う黒幕みたいなやつとなかなかに個性的なメンバーだが、信頼できる友達であると言えるほど、仲良くなれた気がする。




