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勝敗の行方

駿人視点


 このまま行けば勝てる。そのような確信めいたものを感じ始めるが。それは足をすくわれる原因の元なのでさらに警戒を上げる。


 こちらの作戦は順調に進んでいる。根本的に僕は住吉も鮎莉の全力攻撃になんの対策なしでは対応できない。だからこそ、最初の方に鮎莉に全力を誘い、それをインパクトある形でカウンターをする。


 そうすれば、全力攻撃は致命的な隙を作るだけだと誤認させることができる。ただ、カウンターするだけでは怪しかったのでダメ押しとして、分かりやすく解説することで決定的なものにする。


 だが、それでも住吉なら一か八かでもう一度試しくるに違いない。それは長年の経験で予測できたこと。だからこそ、その時が最大の正念場だった。


 住吉の反撃はスマッシュではなければ、返すことは出来るが、それ以上のことは出来ない。もしその事実を早々に分かれば、間違いなくこちらが劣勢になる。だからこそ、強烈な一撃が必要だった。


 そこで考えついたのが、住吉が仕掛けた時に桜木に強烈なカウンターをして貰う事だった。住吉の性格的に間違いなくこちらに向けて鋭い攻撃をしてくる。それは障害を真正面から打ち砕かんと言わんばかりに、だからこそ返しやすい。


 桜木にはこちらがラケットを一周させたときに、僕の頭を打つ感じで来てくれと頼んだ。最初は動揺していたが、すぐに信じてくれた。


 こんな無茶苦茶なことを信じてくれる桜木には感謝が尽きない。そして、無事作戦はうまくいき。完全にこちらがペースを握る。


 このまま、何事もなければいいなと思っていた時だった。諦めかけていた住吉の瞳に力が戻る。僕はそれを素早く察知する。


 もしかして、僕の作戦が見破られたのか、そんな馬鹿な。住吉では性格上ドツボに嵌って抜け出せないはずだ。ワンチャンあるとしたら鮎莉だが、鮎莉はもう半分以上諦めている。


 僕の分析上は見破れないと考えていたが、今の住吉はこちらを喰らわんとするほど鋭く、力がこもった瞳をしている。


 これはバレたと想定して動いた方がいいかも知れない。


 分析上はバレないと思ったんだが、どうやら自分の分析はまだまだらしい、それか僕の想像以上に住吉が強かったかもしれない。


 一応対策をしてきたので、点差も考えればギリギリで勝てるはず。


 そして、僕はサーブを打つ前にラケットを2回回す。これは、桜木に返しを対応してくれという合図である。


 住吉が何かに気がついた以上、少しでも点差をつけないといけない。それと同時に住吉に反撃の機会を減らさないといけない。


 ならば、僕が返すよりも、桜木がやる方がいい。


 そうして、奥へとサーブする。鮎莉はまだ悩んでいることもあり、適当な返ししかできていない。


 今回は僕か桜木がどっちも対応できような位置に打ってくる。それを合図通りに桜木が返す。


 桜木も住吉の異変に気がついていたのか、返しは住吉の方ではなく鮎莉の方へと返す。


 ここで住吉が驚きの行為に出る。本来なら鮎莉が打つであろうシャトルを体力面とかを無視して、強引に取りに行った。


 鮎莉と桜木はその行動に驚いているが、僕はその行為がこちらの作戦がバレているからこその動きだと分かり、舌打ちをしたくなる気分になる。


 そしてこちらの予想通り、住吉はこちらに向けて鋭い反撃をしてくる。かなり無茶な体勢のはずだが、僕を狙い打てばいいと確信しているため、迷いなく自身の才能を最大限活用して打ってくる。


 その攻撃に対して僕はギリギリで対応するが、方向まで意識できない僕は自分の正面に返してしまう。


 それを住吉は驚異的な身体能力を駆使して、かなり無理な体勢になっているが、再びこちらに鋭い攻撃をしてくる。


 それも何とか対応するが、対応できただけであり、ふんわりとした返しになってしまう。


「返しが甘いぞ!駿人!」


 それを今回の試合で最もキレのいい動きをして、最も強いスマッシュを放つ住吉。


 それを僕は反応することも出来ず、シャトルは地面に突き刺さる。


「予想通りだぜ。駿人、そこそこ強い攻撃でも返すのがギリギリなんだろ?」

「見破るのが早過ぎない?」

「ありがたい助言を思い出したからな!」

「なにそれ」


 何が何だか、よく分からないが、今ので住吉は自分の考えが間違えていないと確信に至ったのであろう。そして鮎莉も全てとは言わなくとも、なにをすればいいのか気がついた感じだ。


 たった一撃で僕の作戦は完全に効力を失った。もうあの2人は一切の迷いなく僕を狙い続けるのだろう。


「桜木、プランBでいく」

「わかった!」


 僕と桜木はより連携ができるように上下ではなく左右に配置を変える。


「なにを企んでいるかは分からないがやることは変わらない!」


 住吉はこちらに向けて一切の迷いなくサーブを打つ。それに対して、桜木が瞬時にこちらに来る、僕は邪魔にならないように斜め後ろに避けるように、退避して桜木が返す。


 桜木の返しに対して、面倒なと言った表情をしながら桜木が移動したことによって空いたエリアへと打ち返す。


「動きが単調になってるぞ」


 その動きを読んでいた僕が、即座に反撃する。


「私もいること忘れないでね!」


 住吉の油断を突いた攻撃は、それを察知した鮎莉によって塞がれる。


「鮎莉こそ私がいることを忘れてませんか」


 鮎莉のそこそこ強い返しをジャンピングスマッシュで返す。


 その強烈な一撃に2人は対応できず、こちらが得点する。


 プランBとは自分の得意な予測を活用した桜木との連携プレイと不意打ちを活用して、点数をもぎ取るというもの。


 簡単に言えば正面からの殴り合いだ。


 総合的なポテンシャルは住吉チームの方が高いので、最後ぐらいにしか使えないものだ。


「慣れる前に叩きのめす!」

「させねえよ!」


 そこからは熾烈な戦いが始まる。


 互いに一歩を譲らない、しかしながら、総合的なポテンシャルでは住吉チームの方が上であり、点差は縮まっていく。


 それでも先にリーチをかけたのは僕たちだった。


 20対19、本当にギリギリだった。


 ここで決めなければ負けは必須、だがこのために僕は隠し玉を用意していた。


 桜木がサーブをする。それは鮎莉によって返される。シャトルは僕の方へと飛んでくるのだが、すぐに桜木がカバーする。


 駿人はそれを桜木とは反対方向の少し後ろぐらいに打つ。僕はそのカバーへと行く。


 ここまでは先程までと同じ流れだ。こうしておけば有効的な攻撃手段を持ち合わせていない僕は無難に返すしかない。


 そう、駿人たちは考えている。ここで僕は、今回の試合で初めてスマッシュを放つ。


 桜木や住吉ほど鋭いわけではないが、スマッシュを打たないと思っている相手がいきなり打つものとしては、十分な威力はある。


 住吉もこれは予想していなかったのか、驚き一瞬動きが止まるが、それでもギリギリ対応はしてくる。


 だが、その返しは甘い。これが最後のチャンス。


 僕は全神経を集中させ、次の一打で確実に決めるため、より多くの情報を拾おうとする。


 住吉の動き、鮎莉のカバーの動き、ほんの少し吹く風。極限まで集中した僕は、頭の中に入ってくる情報を自分でも訳が分からなくなるぐらい早く処理をする。


 そして、見つける。2人が絶対にカバーできないところを、僕はそこに打ち込まんと駆けようとした時だった。


 極限まで集中していた僕は、より多くの情報を取集、処理をしていた。だからこそだろうか「あ、」と、とても小さい声であったが、なにかをやってしまったと言わんばかりの声を聞く。


 その瞬間、僕は咄嗟にその声の方向へと視線を向ける。勝負の行方を左右する時に、別方向を見るのはあまりにも愚行であるが、滅多に働かない僕の直感が振り向けと囁いた。


 その直感に従い、僕は声の方向、サッカーエリアを見る。そこには上を見上げて、口を開けている人たちが見える。そのまま、僕も上を見上げると、そこには高さ20メートル以上もあるネットを超えて、こちらへと落ちてくるサッカーボールを視認する。


 その瞬間、考えるよりも早く身体が動いていた。前に向かおうとしていた力を完璧に利用して、見たことのない速度でUターンする。そして次の踏み出しで、体のバネなどをフル活用して0から100へと一瞬で加速する。


 風の如く速さで桜木の方へと駆ける。見えているのは桜木の動揺する姿と、その頭上から落ちてくるボールだけ。


 極限を超えた集中がもたらした世界はゆっくりと動く。人生の中で最も早く、素早く動いているが僕自身がボールを防ぐにはまだ足りない。


 桜木はサッカーボールの存在に気がついていない。よって本人による回避は期待できない。


 このままではボールを防ぐことは不可能。ならばこうするしかない。


 ギリギリで桜木の手を取れる位置までに移動できた僕は、そのまま強引に手を取りこちらへと抱き寄せる。


「す、す、隅風!」


 急に手を取られ、抱き寄せられた桜木は顔を赤くしながら驚くが、僕の視線はサッカーボールの方へ注がれる。


 サッカーボールは先程まで桜木がいた所に綺麗に落ちていく。本当にギリギリだった。コンマ一秒を争うほどギリギリであった。


 桜木にサッカーボールが当たらないことを確認した僕は、安堵するがその直後だった。


 バウンドしたサッカーボールは僕の顔面へと飛んできて、直撃する。


「ごへ」


 安心していたのでモロで喰らう。


 最後でしっかりとやらかす、格好がつかねー、と思う僕であった。

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