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名前だけの人生相談部に学年1の美少女が人生相談に来てしまった。  作者: 時雨白
第1章 人生相談部初めての相談
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初めての人生相談

 桜木の訪問により、一瞬焦るがすぐに冷静になる。


「人生相談に来たと言うことであってますか」

「はい。人生相談をしたと思い、来ました」


 聞き間違えではないかと考え聞いたが、その可能性はすぐさま切り捨てられる。どうして桜木さんがこんなところに人生相談をなどと疑問は多くあるが、それを押し殺して冷静に対応する。


「そちらに椅子があると思います。そちらに座って少し待っていただけますか?」

「わかりました」


 桜木は端的に答えて、用意してあった椅子に座る。


 そして僕はすぐさま、桜木から見えない所へと移動する。


 (危なかったーーーーー!対策しておいてよかったーーーーー!)


 と僕は心の中で全力で思う。


 この教室を部室にする際、もしもここに来た時を考え、3つのスペースに分けていた。一つはこの教室の入り口に面する所、そこは万が一、人生相談をする人が来たら対応する場所。


 次に、簡易的な壁の後ろに報告書などを部活に関することをする作業スペース。


 そして、窓など外部から見られないように作った。僕たちの遊びスペース。


 イメージ的には

ー教室の入り口ーーーー


人生相談スペース


ーーーーーーーーーーー

作業スペース


ーーーーーーーーーーー

遊びスペース


ーーーーーーーーーーー


と言った感じになっている。僕たちはこの部活をする上でサボっていることをバレないように様々な対策をしてきた。


 最近では、これも無駄ではないかと思い始めていたが、その有用性は今、証明された。一年前の自分グッジョブ。


 などと思いながら、僕は作業スペースにいち早く非難した住吉を見る。


 住吉は何のことだか言った感じの態度を取っていた。


「よかったな!初めての相談者だ、しかも学校一の美少女である桜木さんだ。行ってこい住吉」


 相手は女子、ならば扱いが慣れている住吉をいかせるべきだろう。そう考えた僕は、住吉が少しでもいく気持ちが高くなるようにいったが・・・・・・


「嫌だ、駿人がいけ」


 住吉はそれを一刀両断した。


「それはどうしてだ?お前の方がどう見ても合理的だ」


 すぐさま反論する。

 

 僕はあまり人との会話が得意ではない。なのでそれが得意な住吉が行くべきだ。僕はあくまで考える事しかできない。


「駿人のそう言った客観的な考え方と、誠実さが求められていると俺は思う」


 住吉は多くを語らず、簡潔に述べた。


 住吉は分かっている、僕にどういえばいいのか。長い付き合いなので当然といえば当然だが。


 住吉が言いたいことは、相手に合わせて都合のいいようなことを言っても桜木葵という完璧と言われている美少女には意味がない所が、逆効果になる。ならば僕のような客観して物事を考えている僕の方がいいと。


 つまるところ、考え方が変な僕の方がいいといっているのだ。


 僕は少し考える。元々はここは平穏に暮らしたと考えている場所だ。ならばここで無理矢理、住吉に行かせれば桜木は失望するかもしれないが、安全ではある。桜木の性格上、このことで変なことを言う可能性はないと思う。


 やはり、住吉に行かせるべきだろう。しかし、住吉見る。あいつはすでに自分はどうでもいいとでも考えているのか漫画を読み始めていた。


(あのやろーーーーーーー!)


 何とも言えない怒りが沸き上がるが、今はそれどころではないので冷静になる。


「分かった、いってくる」

「お前の諦めの良さはいいと思ってるぞ」

「はいはい」


 そう言って僕は、桜木さんの所へと向かう。


 人生相談スペースに入る、これから桜木葵の人生相談をする。はっきり言って不安で仕方ないというか、なぜこうなったのだろうかという気持ちしかわかない。


 いや、まあ、自分のせいだというの分かっている。


 そして、今回の相談相手である桜木さんの座っているところを見る。


 なんというか、美しい姿勢だった。特に代わり映えのない普通の所のはずなのに、桜木葵という存在がいるだけで一枚の絵になるなと、感心する。


 そう思いながら、僕は桜木さんと対面する形で椅子に座る。


「人生相談部へようそこ!どのようなことを相談しにきましたか」


 取り敢えずそれっぽいことを言ってみる。今回が初めての人生相談なのでどうすればいいのか全く分からない。もうどうにかなれ精神だ。


「本当に人生相談をしてくれるんですね」


 桜木さんは微笑みながらそう答える。そんな動作さえ美しく、見惚れてしまいそうだ。だが、今の僕は胃がとても痛いのでそんな場合ではない。


 だって、あなたが初めての人生相談する人で元々そんなことする予定もなかったなんて言える訳がなかった。


「一応、そう言った目的で活動していますから」


 桜木さんのその答えに僕は持ち前のポーカーフェイスを活かしながら、苦笑いしながら答える。


「ふふ、そうでしたね」


 少し納得したような表情をして桜木は言った。


 いや、心が痛いです。顔には出さないが、小心者の僕には騙しているようでとても辛い。それでも僕は人生相談部の役目を全うするために口を動かす。


「それで今回はどのようなことを相談しにきましたか?」


 そうすると、桜木はゆっくりと瞼を閉じて、深呼吸をすると意を決したように言うのだ。


「私は分からないのです」

「分からない?」


 みんなが言う完璧美少女である桜木が分からないこと。それを僕は分かることができるか。


 うーん無理だな。心が痛い。


 そんなことを思いながら桜木は言葉を紡ぐ。


「はい、私は分からないのです。今、自分がしていることがあっているのか」


 桜木は悲痛そうに声でいう。


 出来ればもう少し軽い相談事を期待していたが、これはかなり重い相談事らしい。


「自分のしていることがあっているか分からない?」


 取り敢えず、詳しいことを知るために再度聞く。


「私は、優秀であるように育てられました。みんなが私に期待して、私はそれに応えられるように頑張りました。最初の方は期待に応えれることがうれしかった。しかし、頑張れば頑張るほど分からなくなってくるのです。みんなの期待が大きくなる一方、段々私自身の限界に気づき始めてしまう、このまま頑張っていってもみんなの期待に応えられるのかと、私は幸せになれるのかと」


 桜木は最初の方は淡々と言っていたが、段々と不安と恐怖に塗りつぶされたような声の喋っていた。


「そして思うのです。クラスの周囲を見て友達と楽しく喋って笑い合う姿を見ると、あっちの方が幸せではないかと。だけど、みんなが言うんです。私は凄いと、褒めて、私のような人になれるように頑張るという人がいるんです。」


 桜木は何が正しいのか分かんないといった表情をしている。


 そりゃそうだ、自分は大変な思いをしながら頑張っている。そして、周囲はそれを正しいと認め、褒める。そして目指してくれる。しかし、桜木自身はそのこと自体が間違っているのではないかと思ってる。


「私は分かりません、何が正しくて、何が間違っているのか。そしてどうすればいいのか、分からないのです。」


 心の底からの声と言った感じだ。そして、こちらに向ける瞳には切実に()()()()()()()と思っている。


 取り敢えず大体の事情は分かった。


 彼女は今二つの事実に押しつぶされそうになっている。


 一つは、努力し、優秀であり続け、いい所の大学にいって、いい所に就職する。


 もう一つは、今の苦しみから解放され、何もかも忘れ自由に笑い過ごす。


 どっちの方が幸せだろうかと。


 僕から見ればどっちもどっちだろう。


 努力をやめ、今の苦しみから逃げて自由に暮らす。それはそれで幸せだろう、そして大半はその苦しみから逃げるために、この道を選んでいる。


 だが、賢い彼女には見えているのだろ。もしも、自分が努力から逃げたことによって苦しいことがあったのなら、この選択をした自分を一生許せないのだと。そして、合理的に考えるなら、努力をし、安定した生活を送って方が少なくとも大きな後悔をする可能性が低いということ。


 つまるところ、将来か、今かどちらを取るかの話である。


 どちらを取ったらいいのか、桜木葵という人物は答えを欲している。自分の納得いく答えを欲しているのだ。


 なるほど、確かに難しい問題だ。少なくともその結果を知らない僕には答えられない問題だ。


 将来のために努力することが大切なのか、今を楽しむために将来の事を捨てるのか。


 これは重い選択、みんなは大抵は努力出来ないとかの理由で後者を選ぶだろう。だがしかし、目の前の彼女は違う、必死に抗っている。


 さて、どのように答えたものか。僕は悩む。


 どちらかの選択をして言うのは簡単だ。しかし、それでは人生相談の意味はあるのだろうか。そんなことをするなら住吉に任せても変わらない。


 そしてふと、住吉が言っていたことを思い出す。


「駿人のそう言った客観的な考え方と、誠実さが求められていると俺は思う」


 客観的な考え方と誠実さか、それが住吉が言っていた求められていること。そう思い、僕は一つの決断をする。


 そして思うのだ、なんだかんだ、あいつは人の事をよく見ていると。


 僕は桜木に一つの解答をする。


 それは桜木が欲していた答えではないが、桜木が納得する提案。


()()()()()()()()()()()()()


 簡単な話だ、今ここで答えを見つける必要な一切ないのだから。


 こうして始まった、人生相談部の初めての活動であり、最も長い活動が。

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