家族会議
私は必要な資料などをまとめ、バッグのなかに入れる。そして髪を整えて、ドアにカギを閉めて、マンションから出ていく。
マンションから出ると、目の前に車が止まっていた。
「葵、迎えに来たぞ」
「兄さん、ありがとうございます」
私の兄である、桜木竜馬が迎えに来てくれた。容姿は父に似ていて、容姿が整っており、大人びているイメージを受ける。それでいて、父が持つ、カリスマや穏やかな性格はしっかりと受け継いでおり、才能にかまけずに努力を積み重ね、若いながらも確かな実績も出しており、次期社長として、周囲から期待されている。
不出来な私とは違い、みんなから期待されている。私と比べて遠い存在だ。
その事実に私は強い劣等感を感じてしまう。私は兄さんにはなれない。私は兄さんのように認められないのだ。
会うたびにその事実を突き付けられいつも自信を無くす。だけど、今日は、今日だけはそうはいかない。
私は、今日戦うのだ。私の望みのために。
決意を固め、私は車に乗る。
「葵、最近何かあったのか?」
「す、少しだけありました」
家に向かって運転している最中、兄さんが質問してくる。
いつもは声が変えられないので、突然の出来事に私は驚きながらも答える。
兄さんは「そうか」だけ述べただけで、そこで私たちの会話は終了する。
そのまま、私たちは目的地へと着いたのだった。
私たちは来るから降りて、父と母がいるであろう所まで向かう。
コンコンコンと兄さんがノックをして「竜馬です、今来ました」といい、ドアを開ける。
そこにはクリームシチューやパンなどと言った様々な料理が置かれており、奥には、優しげな男性が座っており、その横の席には、凛とした表情で座っている女性がいる。その姿は気高さを感じる。
「竜馬、葵! よく来てくれた。料理はもうできている。席は決まっているか座ったら食べ始めるとしよう。」
奥にいた男性、桜木隆二、私たちのお父さんは嬉しそうに言ってくる。
その言葉に私たちは頷いて、自分たちの席へと座る。
私たちが座ったのを確認して、私たちは食事を始める。
「やっぱり綾子の料理は美味しいな」
「そう言ってくれると、頑張って料理したかいがあります。」
お父さんはクリームシチュー食べて、本当に美味しそう表情を浮かべながら言う。それに横の席にいた女性、桜木綾子、お母さんが、嬉しそうに返す。
みんなで食べる料理は全て母の手作りだ。
家族みんなで食べる料理なのだから、母が作るのは当然といい、毎回一から料理をしている。
家族での食事も週一と言うことで、どの料理も念入りに作られており、その腕は高級レストランにも劣らないほどだ。
私も幼い頃から料理の練習はしているが、ここまでのものは作れない。
「竜馬が担当していた企画が無事成功したらしいな、よくやった」
「私だけでは成功できませんでした。私を支えてくれる人がいたからこその成功です」
「今は家族として過ごす時間だ。そんなかしこまらなくてもいいよ」
「そうでした、お父さんに任せられた仕事を無事に出来て僕も良かったです」
兄さんは任された仕事を上手くこなすことができたらしい。そのことに、お父さんは大変うれしそうに褒める。兄さんもしっかりと会社で活躍している。
そんな感じでお父さんは私たちがこの一週間の事で会話を続ける。普段の立場があることから、少し硬い会話になってしまうが、それでも一生懸命に私たちと会話しようとするところは、お父さんはお父さんで頑張っているのだと思う。
しかし、今回の会話で私の話題は一切ない。普段なら、学校の事などを聞かれるのだが、今回はこの後に私の成績の話があるので、それに関連する話題には触れずらいのだろう。
そのまま、家族での食事は終了した。
「さて、今日は葵について話があるらしい、いつもの場所に移動しようか」
「はい」
お父さんの声に従って私たちは会議室へと移動する。
会議室に入ると、お父さんの秘書である安里陸さんと、お母さんの秘書である山田留美さんがいる。二人はこちらに一礼をして、私たちはそれぞれの席へと移動した。
「さてと」
お父さんが席に座り、こちらを見た瞬間、今まで穏やかな雰囲気は消え去り、重苦しい空気へと変わる。そこには社長としての姿である、お父さんがいた。
「今回は、葵の成績が下がった件に対してどうするかであっているね?」
お父さんから感じる圧に私は押しつぶされそうになる。
その時、彼の言葉を思い出す。
「いいですか?交渉において必要なのは対等でいる事です。交渉では両方に得があるようにしなければなりませんが、少しでも自分たちに有利な条件にしようとします。もし、弱い姿や、自身の姿をさらすと、そこに付け込まれ不利の条件を押し付けられたり、こちらへの信頼、つまり価値を下げ、より多くの要求をされるでしょう。それに相手だって、自分達より弱い人の話を聞きたいとは思いません。だからこそ、僕たちは堂々とした姿でいて、対等であると示さないといけません、あなたにとって私が価値がある存在だと示さなければなりません」
そう、私の言葉には信じるに足るものだと相手に思わせないといけない。そうでなくては、どれだけいい条件を用意しても相手にされない。
「はい、あっています」
私は、はっきりと強く、返事をする。
お父さんは一瞬こちらに鋭い視線を向けるが、私は堂々とした態度で受け流す。
「ならば、最初に私の考えを述べよう。私は成績が下がったことに関してはどうこう言うつもりはない。過ぎ去ってしまったことは変えれないからな。大切なのは次にどう対応するかだ。今回、成績が下がったことに関して、どうするつもりだ」
少しの間を置いた後、お父さんは今回の件についてどうするのかと聞いた来る。
お父さんは私の態度から、私が交渉相手に足ると認めてくれたのだ。
これでやっとスタートラインに立ったのだ。
ここからが本番だ。




