ウしノクび
「誕生日おめでとう、咲那」
「わあっ、ありがとう!」
私の部屋を訪れた和幸が食卓の上に置いたプレゼントは、開けて見るまでもなく、一目で何かわかった。
「素敵な牛の首! 大事にするね」
ピンク色のリボンが巻かれた牛の首を、私は手で撫でた。見事な毛並みだった。眼球は固まって、立派なカタツムリのようにぎょろりとしている。
切断面はまだ乾いてなくて、テーブルの上に赤っぽい脂が漏れ出してたから、きっといい感じに新鮮なのだろう。
「これ、和幸だと思って大事にするから」
あたしは最高の笑顔で、牛の首の頬を舐めてみせた。ウィンクもピースサインも忘れなかった。
それが和幸からの最後のプレゼントになった。
誕生日の翌日、和幸は急に音信不通になった。
心配して彼の会社に電話してみると、ちゃんと出社しているという。仕事中なので出られないとのことだった。
彼のスマホにかけてもいつも出なかった。
LINEでメッセージを送っても、すべて未読のまま。
どうしちゃったんだろう……。
独りの部屋に、淋しさが積もっていった。
ぽろんとギターを鳴らしても白けた音色で、メジャーコードを弾いても悲しい音になった。
私は毎日、牛の首を舐めた。
それを和幸の愛だと思って、毎日千回以上、舐めた。
甘くて酸っぱい、涙の味がした。
一ヶ月と十日経っても和幸からの連絡はなく、電話はなぜか着信拒否にされていた。
私は牛の首を舐めた。
毎日、毎日、二千回以上は舐めた。
牛の皮膚を食い破って蛆虫が顔を覗かせていたけれど、私はそんなことは信じなかった。
これは和幸からのプレゼント。私と和幸との愛の証なのだ。
腐るわけがない。腐ってしまうわけがないのだ。