誰が歌うの?
もうすこしで100万PVに到達しそうです!
「そういえばさ、結局誰が歌うんだ?」
歌詞や曲、演奏も大切だけれど、そこに乗せる歌声も重要だ。ちょうど四人集まっていたからその話を繰り出したのだけど。
「あー……そういえばどうしましょうか」
「歌かぁ……私はボーカルするつもりはなかったなぁ」
「私も遠慮させてくれ……歌ったりなんかしたら、声を保てない」
愛花の言うものは、つまり歌声が今のハスキーなものじゃなくて、素の可愛い声になってしまうからか。それなら無理を言って歌ってもらう必要もないか。
「じゃあアタシか楓太さん?」
「うーん……あんまり自信はないなぁ。アキラは歌うこと自体は好きか?」
「ていうかアキ姉ぇは歌すごーく上手いから、迷うことはないんだよね」
「そうなのか?」
「いやまぁ、上手いかどうかは知らんすけど……周りはそう言うすね」
謙虚なのか、それとも本当に自覚がないのかアキラは控えめに肯定した。
すごーく上手いから、か……そう聞かさせると俺も気になってくる。思えばこの家に来てそろそろ一年が経つのに、カラオケとかは一緒に行ったことなかったな。
「よし、今週の休みにでもカラオケ行かないか? 練習も兼ねてさ」
俺の提案に3人とも頷いた。
ここのところは叶の受験やらなんやらで、四人で遊びに行くこともあまりなかったから、久しぶりに建てた遊びの計画だった。
★★★
「──おぉ、結構広めだな」
約束していた今週の休みになり、俺たちは最近できたばかりのカラオケ店にやってきた。
室内は四人の部屋としては中々広く、まだ新しいから床もマイクもピカピカだった。
練習と言ったが、久しぶりの娯楽の時間に俺も少し気分が上がっていた。
……いや、というよりも。俺、カラオケは小町としか行ったことがないから、すこしソワソワしてる。
これは楽しみと、歌うこと自体も久しぶりで緊張しているのかもしれない。
「アキ姉ぇ〜、先いれて〜」
「おーし、歌うぜ〜」
アキラが最初の一曲に選んだのは、爆発的に流行ったあの歌。
ほら、あれ。
うっせぇやつ。
「ん……」
一瞬の咳払いのあと、スイッチが切り替わったかのように歌い出す。
歌声となると、喋り声とはがらりと変わる。
本家とよく似たがなりの効いた歌い方。真似、というよりもアキラの癖なのだろう。すごく自然に歌っていて、聴き惚れてしまう。
アキラの服装や赤い髪の影響か、堂々と歌うその姿はアーティストそのものだった。
「いや本当に上手いな。ちょっとびっくりした」
「へへっ」
照れ隠しのそんな笑い声がマイクで反響する。
アキラは歌い終わると、次に曲を入れていた叶にマイクを手渡した。
叶の歌声は、結構想像と変わらなかった。見た目通りの幼い声色だけれど、華麗にアイドルソングを歌い上げていく。
練習して覚えたのか、振り付けも真似て踊りながら歌っていて、ずいぶんと器用なことをしていた。
叶なら本物のアイドルにも引けを取らないと思うが。
「はい! 次、愛花姉ぇだよ」
「あ、あぁ……」
選曲に悩んでいた愛花がようやく決めたのを確認すると、叶はすぐにマイクを渡した。
マイクをおそるおそる受け取り、両手で握りしめて声を入れる。
きっと、よそ見をしていたら誰が歌い出しのかわからなかっただろう。それだけじゃない、あまりの声の可愛らしさにたぶんドキリとしていた。
今は身構えていたから良かったものの、それでも十分な破壊力だった。
(これ、かなり注目を集めるんじゃないか?)
いや、でも愛花はちょっと嫌がってたしな。余計なことを考えるのはやめておこう。
しかし本当にいい声だと、俺は何度も胸の内で思った。
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