もうこれはラブレターなのよ。
「と、言うわけで今から3人で歌詞書いてみて、楓太さんにどれがいいか決めてもらうぞ」
愛花と叶に、家に帰ってくるまでに話したことをそのまま伝える。3人とも何やら詞にして歌にのせたいものがあるらしく、それぞれ譲れないものがあるようだ。
それにしても、一体どんな歌詞を書くのだろうか。青春を歌うのか、ラブソングか、それとも世間に対する不満とか。
最後のやつはなさそうだけれど。
「よし! できた!」
真っ先に仕上げてきたのは叶。可愛らしい文字で書かれた歌詞に目を通す。
俺個人の感じ取ったものになるが、どうやらこれは、可愛くなりたいけれど自分に自身が持てない女の子が変わっていく……そんな物語のように感じた。
独特な言葉回しはなく、分かりやすい言葉で同じような境遇の女の子たちに響きそうだと思った。
「叶らしいかもな。いいじゃないか、なんだかメロディも聞こえてくるぞ」
「ほんとー? 私ので決定?」
「それは愛花とアキラのを見てからな」
俺としては、選ぶとかじゃなくて皆のものを採用したいのだけど、学園祭で披露できるものは一曲だけのようで、今回ばかりは1つに絞らなければならない。
「私もできたぞ」
丁寧な文字に書かれた丁寧な歌詞。
まるで純文学のような歌詞だった。読めばそのまま、短編小説のようだと、それどころか実際これを黙って見せれば何人かはそうだと信じそうだ。
バンド、というよりピアノでの弾き語りや、アコースティックギターとの相性が良さそう。
これはバンド形式でやるのなら、最近流行りのシンガーソングライターのような感じか。それから、愛花が歌っているところを見てみたいなぁ。
「これもすごく良いな……これは決めるのは大変そうだ。アキラはどうだ?」
「えー……これ、っす」
少しもじもじしながら、最後に渡してきた歌詞を読んだ。
……少し読んだだけでわかった、どうしてアキラが俺の様子を気にしているのかが。
だって、これは、どう考えたって。
(俺とアキラのこと……)
歌詞に出てくるヒロインの想いは、つまりはアキラの想い。それだけじゃなくて、これからどうしたいか、どんな事をしたいか……もはや妄想の一部を見せられているようだった。
いや、これはもはや……。
(もうこれはラブレターなのよ、アキラ……)
俺も少し脇あたりが暑くなってきていた。そして愛花と叶のように感想を言わない俺に叶が、歌詞を覗き見しようとしたけれど、なんだかそれも少し可哀想かと、思わず隠してしまった。
「えー、なんで隠すの〜!」
「い、いやなんというか……名誉を守るためというか……」
……結局、その日はどれにするかは決められなかった。
もちろん、甲乙つけがたいという理由だけれど……こっそりとアキラには「もっと曖昧な内容にして」と伝えておいた。
あれを世に流したら、それはそれは盛大な公開告白のようなものだから。
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