僕もそうだったから。
「へー、少年。センスあるじゃん、私が始めた頃より飲み込み早いよ」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます」
心優さんの教え方が上手いのもあるのだろう、俺は自分が想定していたよりもスムーズにギターを覚えていった。
「確かにいいね。心優が素直に褒めるってことは、自信持っていいよ」
信吾さんも休憩にと暖かいお茶を持ってきてくれたので、それを受け取って頂いた。
「ところで、楓太くんはアキラちゃんの先輩とか?」
「あ、えーと、俺は……」
「あー、そんなところっす! 仲良くさせてもらってて……」
アキラの助け舟がありがたかった。無難に俺たちの関係姓はそうであるとしておいたほうが、変に気も使わせないだろう。
「先輩後輩でバンドか。なんだか僕らみたいだね」
「おいおい。歳は違っても、私ら同級生だったろー?」
心優さんは高校生の時に一度留年しているらしく、実際は信吾さんよりも一つ歳上らしい。
二人の出会いは同じ部活動だったということ、それからお互いの趣味が噛み合って次第に仲良くなって……。
「なんか、いいですね。高校生で出会って、その後結婚って」
「羨ましいか少年? アキラ〜、お前が嫁にいってやれよー」
「へえっ!? いやっ、アタシは〜……」
心優さんのいじりにアキラはしどろもどろに戸惑う。
というよりも、なんだ。満更でもないという顔をして、締まりのないゆるっとした笑みで身をよじらせていた。それをみて「なんか気色悪いな」と心優さんは少し引いていた。
アキラの内情を知っている身としては、そんな反応を見るとこちらも頬の内がくすぐったくなる。
「ちょっと休憩しようか。コンビニでお菓子でも買ってくるよ」
「俺も行きます」
ありがとうの言葉を受け取り、俺と信吾さんは最寄りのコンビニに向かう。その道すがらで、様々な話をした。
アキラとの馴れ初めや、普段はどんな音楽を聴いているとか。
その会話の中で、信吾さんの人の良さが鮮明に現れていた。話し上手、聞き上手。
そして普段からしている癖からなのだろうか、自然と車道側を歩いていた。
「心優はああ見えてさ、結構純粋なんだ。見た目はちょっと派手だけどね」
「それに関しては……アキラの影響か、抵抗とかはないですね。気は強いですけど」
「あはは、お互い強気な女性を彼女にしちゃったね」
「あ、いや……俺とアキラ、付き合ってはないです」
「……え、そうなの?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする信吾さん。そんなに俺たち二人が付き合っているように見えたのだろうか。
「いやぁ、だってね。さっきの嫁に〜って心優が言ったときの反応とか、それを見て戸惑わない楓太くんを見たら、そう思っちゃったよ」
「あ〜……」
確かにアキラは俺の事を好きで居てくれている。
……そうだ。いつか、御剣にも相談したこと。
それを、恋愛を重ねて結婚まで行き着いた信吾さんにも、聞いてみることにした。
「信吾さん、あの……実はいま、アキラと……もう一人の女の子に告白されてるんです」
「わあ……モテモテだね。……でも、そっか。二人って事なら、簡単な話じゃないよね」
信吾さんは俺が何で悩んでいるのかをすぐに察してくれた。
「つまり、どちらかを選ぶ事が、出来ない……ってことだよね?」
「はい……でも、早く決心しないと、二人の気持ちを弄んでいるみたいで、俺も嫌で……」
「楓太くんは良い子だね。その子達も、そういうところに惹かれたのかもね」
そうだとしたら俺も嬉しいけれど、その気持ちもいつまで続くかもわからない。
それに、俺自身の気持ちは……。
「今まで、誰かを好きになったことがなくて……どういう気持ちがそうなのか、わからないんです」
「どういう気持ちかわからない……か。その気持ちはよくわかるよ。僕もそうだったからね」
「……心優さんとの事ですか?」
「そうだよ。僕は最初、心優の事が苦手だったんだ。歳上の同級生ってだけでちょっと触れにくいのに、あの頃から髪も染めてピアスしてたからね……正直、結婚、それどころか好きになるとも思ってはいなかったよ」
でもね、と信吾さんは答えのようで、でも結局は論理的に解決することは無理なんだよと、言ったような気がした。
「どんな事から、相手を好きになるなんて、その時にならないと分からない。楓太くんにとっての、運命の相手っていうのはね」
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