バンドしようぜ!
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留年した別にタイプじゃない先輩と、だんだん仲良くなるだけの話。という作品の主人公たちが登場します。よろしければこちらもぜひ!
「楓太さん、バンドしようぜ!」
春の風が裾に流れ込む日に、アキラは突然そんなことを言い出した。
バンド、というとやはりあれでいいんだよな。ボーカルがきて、ギターにベース、ドラム……の、バンド。
「最近急にギターの練習をしていたと思ったら、そういうことだったのか」
「そーいうことっす。どうです?」
「うーん、どうですって言われてもな……俺楽器なんて弾いたこともないしな……」
アキラの誘いなら出来る限りは乗りたいところだけれど、音楽なんてまったくの未経験。
興味自体はあるのだけれど。
「それなら大丈夫っすよ、アタシの先輩っていうか、友達っていうか。めちゃめちゃギター上手い人がいるんすよ」
つまりはその人から教わればいい、ということか。
そういうことなら、一度やってみてもいいかもしれない。
「叶と愛花はもう色々できるから、あとは楓太さんだけなんすよ〜」
「そうか……でもアキラ、どうしてまた急にバンドしたいって思ったんだ?」
「かっけーからです」
なるほどな。
それは最高にシンプルで、納得のできる理由だった。
★★★
そんな流れで俺たちはそのアキラの先輩に会いに来ていた。その人の名前、橘心優と、名前のイメージから波打ち際でアコースティックギターを奏でる可憐な人……を勝手に想像していた。
「おー、アキラ。その子と一緒にやってみたいって?」
アキラのような赤い髪、両耳についたピアス。
歳は……恐らく俺たちとほとんど変わらない。高校は卒業しているらしいけれど、どれだけ歳上でも20歳だろう。
「よろしくなー、少年」
「は、はい」
心優さんは屈託のない笑顔を浮かべて、俺の頭に手を乗せてうりうりと揺らす。
伸びてくる左手の薬指に指輪がキラリと光っていた。安直に捉えると心優さんは結婚しているのだろうか。
心優さんの結婚相手となると、それはそれで少し気になった。心優さんのように、パンクでロックな感じの人なのだろうか。
けれど、それも結局は思い込みや偏見で、訪ねた家の奥から現れた人がそう示していた。
「心優? お客さん?」
名前を呼ぶのは、心優さんとは正反対に極普通の見た目の旦那さん。爽やかで清潔感のある人だった。
「あぁ、来るって話してたろ? ギターおしえてやるんだ」
「そうだったんだね。──初めまして、橘信吾です。よろしくね」
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