お帰り。
彩愛と叶の決闘からしばらくの日が経っていた。
結論から言ってしまうと、叶は見事西城高校に合格していた。
これで晴れて春から高校生となり、アキラと姉妹揃って同じ高校に通うことになるわけなのだが。
「アキ姉ぇ、タイマンしよう」
何かアキラに対して不満があったり、鬱憤が溜まっているわけではない。それは叶自身の、決意表明のようなもので。
「同じ高校にさ、番長は二人もいらないでしょ?」
「なるほどな……話が簡単でこっちも助かるぜ」
叶の意図を察したアキラも伸びをして軽く準備運動をする。喧嘩っ早いのか、それとも異母妹想いなのか……どちらにせよ、楓太としてはできる事ならば喧嘩は止めてほしい……とは心では願うが。
(まぁ、それも二人にとっては、コミュニケーションの一種なのかもな……)
相手を倒すというよりも、勝ちたいの気持ちが両者共に顔に浮かんでいた。
朗らかな笑顔で、よもや喧嘩が始まるだなんて思えはしなかった。
だがそう思えはしないだけで、始まったのは紛れもない激闘だった。
「うっしゃ!!」
「つあッ!!」
開始早々クロスカウンター。女の子の喧嘩で響いてはいけない音が鳴る。
けれど、アキラも叶もどちらもその程度では怯みもしない。ニヤリと白い歯を見せて笑い、次の一手を繰り出す。
「相変わらず、本当に強いな……」
「いつからか、最強の三姉妹だなんて呼ばれているからな、私達は」
「間違ってないよ、3人ともあり得ないくらい強いしさ」
最強の三姉妹。
言葉にすると、まるでフィクションの中にだけ出てくる字面だが、それは、その存在はいま楓太の目の前にいる。
思えば随分と月日が流れたと、楓太はしみじみと感じていた。父親との別れ、三姉妹たちとの出会い。
様々なことにも巻き込まれたが、それも過ぎてしまえば経験だ。平凡な人生とは言い難いが、これはこれで面白いと開き直る。
(父さん、安心してくれよな。俺は俺で、楽しくやってるよ)
もう一年顔を合わせていない父、猛を想う。
いまどこでなにをやっているのだろうか、時期があえば自分から会いに行こう……そう思った楓太だった。
「ぐぁー……もうむり……」
「ぁっー、いってー……へっ、アタシの勝ちな」
大の字になって倒れ、空を仰ぐ叶に手を差し伸べる楓太。
「ありがと、楓太兄ぃ……あーあ、負けちゃった」
「また挑めばいいさ。これで終わりじゃないだろう?」
「もちろん! ……ねぇ、楓太兄ぃ。もしも私がアキ姉ぇと愛花姉ぇに勝てたらさ……」
年相応の、あどけない笑顔を浮かべていた。
どこまでも純粋で、邪気のない少女で、見るものすべてが輝いて見えていそうだ。
「勝てたら?」
「その時は……ううん、やっぱりなんでもない。それはね、勝ったときに言うねっ!」
楓太の腕に抱きつき、目一杯甘えてくる。
これも、なんだか久しぶりだなと新鮮な気持ちになる。遠くでアキラがメラメラと嫉妬の炎を燃やしていたり、微笑ましそうにそれを眺める愛花。
こんな生活が、いつまでも続けば良い──そう願っていた。
次回から再びほのぼのパートです。




