光と闇。
これはもはや彩愛編という方が正しいんじゃないかと思いますが、次回で叶編は終了です。叶のやりたいことをやって終わります。
「大人なんて……いない?」
「そうだ。叶もよく聞いていろ、他人事と思わずに」
「は、はい」
本当の意味で、大人なんていない。
そう言い放った峰十郎は、また静かに話し出す。
「君は、何を持って大人をおとなと呼ぶ?」
「なんでって……それは……」
考えてみるが、いざそう問われると具体的な言葉が出てこない。
口を噤んだ彩愛を見て、叶も自分なりに考えてみるが、やはり答えは浮かばない。
「そう……結局、大人なんてものは、少し君たちよりも体が大きく成長して、それまでに知恵をつけただけだ。言ってしまえば……子供よりも早く先に産まれてきているだけだ」
「だけど……それがなんだっていうのよ」
「君を苦しめていたのは、大人なんかじゃない……たった一人の悪意のある人間によるということだ」
峰十郎は続ける。それは励ましのような、喝とも取れる言葉。
「何があったかは具体的には訊かない。だが、いつまでも後ろを向いて生き続けることは良しとは言えないだろう」
「……そんなこと言ったって、じゃあどう立ち向かえばいいのよ」
それを聞くと峰十郎はニィ、と笑った。
そんなこともわからないのかと、嘲笑うかのように。だが、込められていたのは、それだけじゃない。
「簡単だ……そんなやつよりも、もっと素晴らしい人間になればいい。腕力でも良い勉学でもいい。将来、つまらねぇやつがいたな、と思えるようになるまで」
「素晴らしい人間……」
「いいのか? このまま君を陥れた人間と大して差のない器で終わってしまって」
煽るように言葉を投げると、良く言えば素直、悪く言えば単純な彩愛は、声を上げて宣言する。
「──そんなの嫌! あんなヤツと同じなんて、死んだほうがマシよ!」
「そう、その意気だ。それくらい言ってみろ、そしてやってみせろ……そのために、君は独りでいるべきではない」
その視線は、すぐ隣りにいる親友に。
分かっていた。彩愛にだって分かっていたことだった、停滞していては、何も解決しないことは。
逃げることが悪だとは誰も言えない。
逃げたっていい、それも間違いなく正解だ。だがそのために、他の誰かを巻き込んでいい道理はないのだ。
彩愛は、それを間違えかけた。
「……彩愛ちゃん」
「叶……ごめん、わたし、あんたの気持ち何も考えてなかった」
「いいよ、私も……ムキになって喧嘩しちゃってごめん」
通じる気持ちが、二人を結んでいた。
だから謝罪をすれば、それを素直に受け取り、気持ちを返す。
「……高校、行ってみる。わたしが将来、何ができるかわからないけど……探してみる」
「私も手伝うよ! 一緒に探そう!」
彩愛の手を取り、未来を語る。
それは若者たちの特権だ。彩愛や叶、楓太に愛花やアキラにだってある、いつか大人になる者達の特権。
「……わたし、頑張ってみるね」
「うん……一緒にね!」
★★★
その男は下卑たニヤケ面を浮かべていた。
自身が撮影した動画の編集に没頭しながら、ひどい醜悪の笑みを。
「相変わらず趣味がわりぃなぁ、竹田」
「何言ってるんですか兄貴。これも大事な仕事ですよ」
「そうかい。しかし、小学生にイタズラしてる動画なんてよ、よくもまぁ大金払ってでも観てぇってやつがいるよなぁ」
「それが性癖ですから。まあ彼らは所詮動画で、僕は全員味わってるんですけどもね」
竹田は裏ビデオの編集を一旦やめて、兄貴と呼んだ男に、自身の身代わりとなって自首をした男のことを訊いた。
「彼どうなります? 僕そっくりに整形して刑務所入った奴」
「ま、あと4、5年もありゃ出られるんじゃねえの? おめぇのやってきた余罪が多すぎて無駄に伸びてんだよ」
「はっはっは、そのぶんうちの組のシノギにゃ貢献出来てるでしょ?」
竹田の正体は、真面目な学校職員などでは無い。
その醜い正体は、指定暴力団、十代目藤城組の構成員の一人……竹田昌平。
幼い彩愛に手をかけて、あまつさえその一部始終を映像化して裏ビデオとして販売した、最低最悪の男だ。
「そういや、そん時のガキ……俺に懐いてて可愛かったなぁ、はは。また会えねぇかなぁ〜」
その願いは叶う。
けれどそれは、まだ少し先の話だ。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます!




