決闘。
「叶? 今からどこか行くのか?」
「うん、ちょっとね」
夜がやってくる時間。
叶は動きやすい服装に着替えていた。
これから、果たし状を送りつけてきた相手との約束を果たすために。
「こんな時間にか?」
「大丈夫だよ、楓太兄ぃ。……すぐ終わるから」
そう言って叶は家を後にした。
例の公園までは、それほど距離があるわけではないが、この時期の寒さは身に染みる。
走り出す。はやくあの場所へ向かうために。
話したいことがあった。
話を聞いた最初こそは、怒りに思考を奪われたけれど、少し冷静になれば、頭を冷やせばどうして彩愛がこんな事を突然申し込んできたのかは謎だったから。
彩愛の事を親友と信じている叶は、彩愛が楓太に限らず、誰かに危害を加えるだなんて信じたくなかった。
無我夢中で走っていると、気づけば約束の公園にいた。
そして、一台のバイクと、その側に特攻服を身に纏った少女。
「彩愛ちゃん……」
「遅かったわね」
彩愛以外には誰もいない。怒髪天のメンバーは誰も関わっていないのは本当らしい。
叶にとっては、居たとしても大して影響はないのだが……。
「彩愛ちゃん、やっぱり……やめようよ。私、理由が訊きたいよ。なんで決闘なんて……それに、関係のない人まで巻き込もうとして」
「あんたがここに来たから、もうそれはそれ。関係ないわよ、だから後は、あんたがわたしと戦えばいいだけ……でも、そうね。理由、ね……」
彩愛はつまらなさそうに答える。
「このままじゃ、あんたが大人になっちゃうから」
「……大人になるから?」
「あんたは……叶は、わたしとずっと子どものままでいい。叶、あんたが負けたら、高校なんて行かないでわたしの怒髪天に入りなさい」
「……どうしてそんなことを」
「わたしが負ければ、あんたの言うことなんでも聞いてやる……」
「勝手に話を進めないでよ!」
「うるさいうるさいっ! いいからっ……わたしと決闘しろぉっ!!」
彩愛の叫びは夜の闇に消える。
空虚さだけがそこに残り、二人を包んだ。
「……いいよ、わかったよ。わからず屋の頑固者には、言ってもわかんないみたいだから」
「あの頃のわたしと思うんじゃないわよ、あんたと出会って、わたしも変わったんだ……!」
二人の間合いは近くなる。
一触即発、お互いにとっての射程距離、攻撃範囲内。
先に動き出す方が、いや、先に動き出せた方が確実に先手を取る。
その火蓋は、彩愛から切り落とした。
「──叶ェええええッ!!」
油断していた事もあるが、想定よりも圧倒的に疾い拳に対応できず、己の頬に打ち込ませてしまった。
「っ……彩愛ェッ!!」
挨拶返しのように、叫びながら殴り込む。堪えた叶と違い、彩愛は派手に吹き飛んだ。
ここにギャラリーがいれば、誰もが力の差を理解するはずだろう、だが彩愛本人はそうは感じてはいなかった。
むしろ、とある事に興奮さえしていた。
「ふ、ふふ……そう、そうよ。あんたに彩愛ちゃんなんて呼ばれたくない、丸くなって甘くなったあんたから、そんなこと……」
切れた口内に滲む血を吐き出す。
特攻服を脱ぎ捨て、ここからが本番だと高らかに宣言した。
「いくわよ叶……あんただけは、私の側から離れさせない」
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