いつか大人になる君たちへ。Part7
次回は彩愛の過去のお話です。
終わりが近づくと、時間が流れる早さはかわらないはずなのに、気がつけば驚くほどのスピードで過ぎていく。
それを最も感じているのは、叶本人だろう。なにせ受験本番が、もう明日に迫っていたのだから。
根を詰めすぎても精神に関わるからと、前日は勉強はほどほどにして頭を休ませていた。
「叶、ついに明日だな〜」
「なんだかドキドキしてきちゃった」
叶がよく眠れるようにと、ホットミルクを差し出す楓太。
それを受け取り一口飲むと、ミルクだけでは感じられない甘味に、叶は頬を緩めた。
「美味しい……なにかいれてる?」
「はちみつ。俺も結構好きで良くするアレンジだよ」
楓太も同じものを飲んでいて、それを見ていたアキラと愛花も欲しがったから、楓太は更に追加で二人分のホットミルクを用意する。
「飲んだら今日は早めに寝るんだぞ? 明日に限って寝坊した〜、なんて笑えないからな」
「わかってるよぉ、楓太兄ぃ」
叶に限ってはそれもないだろうと楓太も頭の中では思ってはいたが、やはり心配なものは心配だ。もしかすると、叶え本人よりも緊張をしているのかもしれない。
自分自身の受験のときだって、ここまで緊張はしていなかったのに、と楓太は思い出していた。
暗い部屋で、ひとりで勉強して。
父……猛も仕事に追われて家にも帰れず。
よく、受験は団体競技というが、それもあながち間違いではなかったのだろうと楓太は言葉にはしないがそう感じていた。
「そうだな……叶なら大丈夫だよな」
「うん、任せてよ楓太兄ぃ。……あ、ねぇ、それと」
少し照れくさそうに人差し指同士をあわせて、叶は楓太にお願い事。
「合格できたらさ、私とデートしてよ。二人だけで、さ」
それは本心からのもので、勇気を振り絞っての提案。
好意が全てバレている叶にとっては、意中の楓太とのデートは特別なものだった。
「……あぁ、もちろんだ。だから、全力を出し切るんだぞ、叶」
「うん!」
その応援は、どんなものよりも叶の力となる。
きっと明日も大丈夫、そう信じて叶はゆっくりと眠りにつくのだった。
★★★
「なによ……大人、大人……って」
彩愛は叶の言葉を、いつまでも繰り返していた。
大人が嫌いな彩愛は、自分自身が大人になることも拒絶したかった。友達がそうなるところも見たくはなかったし、ましてや自分自身なんて。
「大人なんて皆汚いじゃない……」
そう、あれは彩愛がまだ小学生の時だった。
担任の教師に陥れられ、孤立し、あまつさえその小さな尊厳さえも踏みにじられた、あの日から。
西本彩愛は──大人が大嫌いだ。
今回もここまでお読みいただき、ありがとうございます!




