いつか大人になる君たちへ。Part5
「もう中学生も終わりか……」
彩愛はまだまだ冷たい夜の風に吹かれながら、この先のことを考えた。
中学を卒業した後、離れていく怒髪天のメンバーは少なからず必ずいる。
残る事を無理強いして引き止めることも出来ないし、むしろその方が世間的には正しいのだろうとは、彩愛もわかっている。
皆、少しずつ大人になっていくのだ。
段階を刻み、義務教育を超えて、最初に迎える競争の時。
「つまんね……」
自分だけが置き去りにされている感覚。
けれど彩愛からすれば、勝手に全員急いで進み過ぎているだけだ。もっと自分の好きなようにやればいいのに、高校に行かなくたっていいのに、と。
もちろんそれは所詮、子供の考えでまともに取り扱う大人はいない。
「叶なら……わかってくれるのかな」
頭に浮かべるのは、共にバカをしたライバルの顔。
出会いこそ謎だったけれど、それからの絆の深まり方は傍から見れば親友と呼ぶにふさわしいものだった。
本人は決して認めはしないが、あくまでライバルとしての叶との関係を望んでいた。
何故か、そう訊かれると答えは一つだった。
その方が、カッコいいからだ。
「そういえば、結局……一回も叶には喧嘩で勝ててないな」
勝てるどころか、叶は矢ヶ峯中学で番長にまで上り詰めていた。その差は広がり続ける一方で、他の誰から見てもライバルを自称するのは厳しくなっていた。
怒髪天のメンバーたちもそれを感じてはいるが、決して口には出さない。絶対に、おくびにも。
ひたむきに、前向きに叶に挑む姿が皆をそうさせた。信頼や、シンプルに彩愛の事が好きだから皆も彩愛の意識を下げることはしない。
「よーし、卒業までには絶対勝つ!」
「その意気ですよ彩愛さん!」
怒髪天は無免許運転ということを除けば、悪さをするグループではない。少しばかりヤンチャをする悪ガキ少女の集まりと言う方が正しい。
純粋な彩愛がトップであることもだろうが、名前に似合わず怒髪天は案外優しい子たちの集まりだ。
だからこそ。
数日後に始まってしまう叶と彩愛の、本気のタイマンを、止める事が出来なかった。
彩愛の尊厳を、守るために。
わずかでも更新していきます。




