いつか大人になる君たちへ。Part4
それは彩愛が中学一年生の頃の話だ。
中学生に上がったばかりの彩愛は盗んだバイクで走り出す。悪いことをしたいというわけではなく、ただただ好奇心が勝ってしまった。騒がしく走り回る、あの忌み嫌われる暴走族の姿をカッコいいと思ってしまったのだ。
バイクの乗り方は動画で見ただけだったが、天性の才が目覚めた。
風を切り、すれ違う走行車両を追い抜き気の赴くままに走る。
今の自分は無敵だ、怖いものなんか何もない。
だってこんなにも、自由に走っているんだ──彩愛は叫んだ、あまりの気持ちよさに。
「あっーはっはっはっ!」
どこまで来たのかもわからなくなってきた頃、小休止を挟むため名前も知らない公園で止まる。
だが静かに休むことは叶わなかった。
公園の中央付近から聞こえてくる、打撃音。それに遅れて短い悲鳴。
気にならないわけもなく、彩愛はその音の発生場所まで向かう。
彩愛が目にしたものは、信じがたい光景だった。自身と歳が変わりがなさそうな少女が、複数人の男たちと殴り合っていた。
いや、殴り合ってはいない──あの少女が一方的に男たちを制圧、無双していた。
「す、すご……」
その少女は、当時中学一年生の叶だ。
当時から桁外れの戦闘スキルを身に着けていた叶相手に敵うはずもなく、その周りに打ちのめされた人の山が増えていく。
「ふう……」
叶が一息吐く。喧嘩というか、圧倒的な力による無双が終わったのだ。当の本人も一仕事終えた、という様子でもなく、退屈そうにあくびをしていた。
「さて帰ろうかな……ん?」
「待ちなさい!」
考える間もなく、彩愛は叶の前に飛び出していた。
叶も予想外の乱入者に驚く。それも自分と同じくらいの歳頃の女子だったから、なおさらだ。
「何、誰?」
「わたしは西本彩愛! あんたのライバルになる者よ!」
一方的な宣言と、どこから来たのか大層な自信。
一種の興奮状態である事も加味して、彩愛は叶に向かってそう叫んでいた。
★★★
「ぐ、ぐぇぇ……」
「大丈夫? 喧嘩慣れ、全然してないみたいだったけど……」
弱すぎて逆に心配されてしまっていた。
たったの一振りでのされてしまった。けれど彩愛は満足気に、冷たい公園の土の上で寝転がっていた。
「すごい……」
こんなにも常識外れの存在がいたのかと、彩愛は心から感動していた。
「あんた、名前は……?」
「私? ……八月朔日叶」
「わたしは西本彩愛……ねぇ、あんた。わたしのともだ……ライバルになりなさい!」
どんな上から目線だと思わなくもない叶だったが、なんだかよくわからないけれど、面白い子だなと感じた叶は。
「……うん、良いよ」
それから二人が同じ学校に通っている事がわかるのは、その翌日のことだった。
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