いつか大人になる君たちへ。Part3
「なるほど、あの二人が叶の姉達ってことね」
彩愛は今までに感じたことのない殺気の余韻が抜けないままだった。
叶に凄まじい姉妹がいる事は知っていた彩愛だが、実際に対面するのは今回が初めての事。
「あれは確かに最強の番長って言われるわけね。……でも、あの男は誰だったんだろ?」
兄ではないのなら、新年から共に正月参りに行くほどの関係の異性。
「も、もしかして……」
超新星レディース、『怒髪天』の総長、西本彩愛。
凄まじいバイクの運転スキルと、喧嘩で格上相手にも果敢に立ち向かう根性。
その姿に惹かれ、集まった者たちで構成された『怒髪天』。そこには歳は関係なく、中には彩愛よりも年上、高校生もいた。
それだけ、彩愛のもつカリスマ性に惹かれているのだろう。
「か、彼氏とか……なのか?」
だからこそ、なにやら喧嘩等とは一切関係のなさそうなつぶやきに、怒髪天のメンバーはそれぞれが、直接は聞かないが、彩愛の様子の変化に気がついた。
「あンのぉ、彩愛さん。なんかさっきからどうしたんですか?」
「え、なにが?」
「モジモジしてて。トイレでも行きたいんすか?」
「違うわよ! ちょっと、考え事してただけ」
基本傲慢な彩愛だけれど、下っ端たちからは慕われている彩愛の態度には誰も意に介さない。
「それよりアンタ達、今日はずいぶん集まりが悪いみたいだけど」
総勢20人の怒髪天だが、今日はその半分の10人しか集まっていない。これまでの集会で、誰かしら欠員がでる事はあったが、ここまでの人数になるのは彩愛にとって初めての事だった。
その疑問に対し、下っ端の一人が答える。
「もう何人かは受験すからね〜、案外律儀に進学する気だとかで」
「……じゃあもう集まらないってこと?」
「いや、そうかはわかんないすけど……でも真面目にガッコー行く気がないなら、来てる……すよね。うん」
「そう……」
口にはしなかっただけで、皆それなりに何かを考えていたんだと、胸ががらんどうになったかのような感覚に陥る。
今までそこにあったものが、少しずつ崩れていくような……。
そして、少しの切なさ。
今後どうするにせよ、なにも相談してくれなかったことに、一抹の寂しさを覚えた。
「彩愛さんに迷惑をかけたくなかったんすよ」と励ますようにそんな言葉を投げかけてくれるが、それも今では言い訳のようにしか聞こえていなかった。
「……あいつはどうするんだろう」
叶の顔を思い出す。
叶と出会い、好敵手と呼びだした、始まりの日を。
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