いつか大人になる君たちへ。Part1
新しい年がやってきた。
誰にでも当たり前にやってきて、当然それは八月朔日家にも。
「お父さんも初詣くらい、一緒に来ればいいのに」
「仕方ねーよ、ていうか神社に父さんが現れたら他の参拝者が初詣どころじゃなくなる」
「まぁ注目集めそうだもんな」
靴紐を固く結び直しながら楓太は苦笑した、神頼みなどしそうにもない峰十郎が神社へ赴く姿を想像して。
それはそれとして。
「じゃあ行くよー」
真奈美が家の鍵を閉じ、楓太たちは近くにある小さな神社へ向かう。
八月朔日家が毎年参拝をするために、必ず訪れる神社だ。
「ふぁあ〜……ねむ」
「いつまで起きてたのアキラ。今日は初詣に行くって言ってたのに」
「新年は無限におもしれーテレビやってるから仕方ない」
「まあ、それもわかるよ。年が明けたっていう特別感も相まって、つい夜ふかししちゃうよな」
年末恒例の尻をしばかれる大御所たちの特番や、今年の紅白は白の勝ちだとか、ある意味では年末年始にしかしない話題を交えながら歩いていた。
「ほら、ついたよ」
八月朔日家にとっては馴染みのある神社だが、楓太にとっては初めて訪れる場所だった。
どことなく、懐かしい匂いがすると楓太は感じていた。初めて参拝しにきたとは思えない、慣れ親しんだ感覚。
「楓太さん、どうしたんすか?」
「いや……いいところだな、って」
月並みな感想を口にする。それに対して「神社なんてどこもそんなに変わらないすよ」と返されてしまう。
時間帯もあるのだろうが、人も少なくごった返すことの無くスムーズに参拝を行うことができた。
「みんなは何をお願いしたんだ?」
「今年も楽しく過ごせますように、って」
「皆が健康であるように、と」
「私はやっぱり、受験に合格できますようにーかなぁ」
それぞれの想いが飛び交う。
微笑ましい、そう思っていると楓太も聞き返される。
「楓太さんは、なにをお願いしたんすか?」
「そりゃ、皆のお願いが叶うように、だよ」
交通安全や、合格祈願のお守りをそれぞれ購入し、おみくじも引いて──全員末吉だった──帰ってお雑煮でも食べようかと話していたとき。
ぴしりと列を組んだバイクに乗った集団が、楓太たちのすぐ側を通り去った。
マフラー音がけたたましく鳴り、その背中が遠くなってもまだ耳に届いている。
「正月早々から騒がしいな、どっかのチームか?」
「レディースだな。母さん、なにか知らないのか?」
「さすがにわかんないよ。現役引いて何年だと思ってるの……って、なんか一人戻ってきたけど」
指差す真奈美と同じ方向を皆が顔を向けると、確かに先頭を走っていた1台がUターン。ピンク色のツインテールをはためかせ、楓太たちの……叶の前で止まった。
「──叶じゃない。明けましておめでとう、ね」
「彩愛ちゃん! 明けましておめでとー!」
叶が呼んだ、彩愛──西本彩愛。
彼女は暴走族、レディースの『怒髪天』総長であり──叶の友達だった。
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