強くなるために。
ものすごく短いです。
「──強くなりたい、か」
「はい」
クリスマスパーティーから一夜明け、俺はいつもの服装の峰十郎さんに向かいあう。
これまで起きた事を、峰十郎さんに話した。
あれからまた襲撃に合い、更に手酷い怪我を負ったこと、そして俺の気持ちを。
「守られてばかりじゃ、嫌なんです。それに、俺自身にも……ちっぽけですけど、プライドがある」
あの瞬間でも、どの瞬間でも彼女たち頼りが前提だった。
胸にこびりついた、本当にちっぽけで独りよがりなプライド。
それと、アキラと叶の顔が浮かぶ。
二人の気持ちに答える前に……守られてばかりで、どんな時でも俺に任せろと言えない男じゃ、俺が嫌だ。
「あの三人よりも強くなる事は難しいかもしれない、でも万が一の時、自分の身は自分で守れるようになりたい」
「……なるほどな」
俺がやれること。
家事もそうかも知れないが、それだけに終わりたくない。
「時間がない。技術が必要なものは教えられないが……君の生存本能に備えられたものに、関わるものを一つ、教えておこう」
「……生存本能?」
「それは──」
★★★
「……これで、いいんですか?」
「あぁ……必ずそれが役に立つ」
「……でも、確かにこれは俺の身を守ることには繋がるかもしれませんけど……皆を守ることは……」
「相手を倒す、ということだけが守る術ではない……勝てない相手からは逃げろ。それも一つの戦い方だ」
それを聞いて俺はハッとした。
勝てないなら逃げる。
そうか、それでいいんだと。根性を見せるだけが全てではない。危険な目に合う前に、それから逃げ出してしまえばいいんだ。
言われてみれば確かにそうだ、俺はどんな相手にも立ち向かう事ばかり考えていた。
「……とはいえ、護身の術も教えておこう」
「はい、お願いします!」
逃げる事も重要だけれど、危険な状況に追いやられた場面から逃げ延びることも大事だ。
「拳の握り方は……」
その日は、峰十郎さんを貸し切った一日だった。
なんだか……上手く言葉にはできないけれど。
胸の内が、暖かくなるこの感じ。
俺にはそれが、どうしてだかとても……懐かしく思えた。
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