プレゼント。
「父さん……なんだ、そのふざけた格好は」
スイッチを切り替えた愛花は、誰もが突っ込みたいであろうその姿に一言。
人類最強を目指すお父さんが、それとはかけ離れたコスプレをして現れたのだから困惑するのも無理はない。
「くっくっく……これくらいのサプライズはあるさ」
「いや、わけわからん。普通に不審者かと思ったぞ」
冷たい言葉と冷たい視線。
それとは対象的に、峰十郎さんは何やら温かい目をしていた。
「以前からずいぶんと、関係が進んだようだが」
「え……あっ」
繋いだ手を、慌てて振りほどかれた。
やっぱり少し恥ずかしかったのか、誤魔化すように「寒かったから」と口早に告げた。
峰十郎さんも「ふぅん」とニヤニヤしていた。
「なんでもいい……とりあえず、俺も家へ向かうからな」
「あ、あぁ……母さんは帰ってくるのを知っているのか?」
「いや、知らん。どんな反応をするかは、楽しみではあるな」
確かにその姿にどんな反応をするのか、気になるところではある。呆れるか、面白がるか……。
ひとまず、予約していたクリスマスケーキを受け取りに行き、サンタクロースの峰十郎さんと共にみんなが待つ家へ戻った。
★★★
「──テメェなに勝手に帰ってきてんだ峰十郎ッッーー!!」
峰十郎さんの事を確認した真奈美さんが、これまでのイメージが破壊される叫び声と共に、ドロップキックを峰十郎さんにぶちかました。
玄関から派手に外へ吹き飛ぶ。
俺は何がなんだかわからなくなる。いや、本当にどういう事だ。
「相変わらず、手厳しいな真奈美……」
「ったりめぇだ、いきなりふざけた格好で帰ってきやがって。おもしろくねーんだよ」
……真奈美さんの豹変ぶりに、俺はもしやと一つの推測を浮かばせた。
考えてみれば、そのほうが自然なのかもしれないが……確認のため、娘3人たちに訊いてみた。
「あの……真奈美さんって」
「あぁ……母さんは若い頃はレディースのトップだったらしい」
レディース……って、暴走族の女性版のようなあれか。そう考えると、真奈美さんからこの三人が産まれてきたのも、分からないでもないのかもしれないし、峰十郎さんと結婚したのも理解できる。
というか、峰十郎さんにいきなりドロップキックかませる辺り、もう何も言うことはあるまい。
「ま、まぁまぁ真奈美さん。せっかくのクリスマスですし、家族水入らず……で……」
そこまで言って、俺は口を閉ざしてしまった。
その言葉は、俺が言えることではなかったからだ。
……だけど。
「……そうね。家族水入らず……楓太くんもね」
真奈美さんの言葉に救われる。
背中をポンと押す手が暖かくて、外の寒さも忘れてしまった。
「おーい、父さん。早く入ってこいよ、外さみーだろ」
「というか、なんでサンタクロースの格好してるの?」
「決まっているだろう、今日がクリスマスだからだ」
「じゃあ何かプレゼントでもあるのか?」
「無論だ」
そう答えると、峰十郎さんは背負っていた白い袋から何かを取り出した。
丁寧に梱包されたプレゼント。それは5つ用意されていた。
「今のお前たちに必要なものだ」
俺はまさか自分にも用意されていたとは思わず、かなり驚いた。そのプレゼントを受け取り、峰十郎さんに確認してから、梱包を剥がした。
それは一冊の本だった。
タイトルは……『たったひとつの決断力』。
……確かに、今の俺に必要なことかもな。
「あ……そうだ。愛花たちに、俺からもプレゼントがあるんだ」
俺は以前から編み続けていた、手作りのマフラーを3人分用意していた。
これからもまだまだ寒い時期だから、遅くならなくて良かった。
「……ありがとうございます、楓太さん」
「ありがとう楓太兄ぃっー!」
「ありがとう、楓太。大事に使わせてもらうよ」
三人の喜んでくれる姿に俺も嬉しくなる。
また何かの機会に、こういうプレゼントを渡せたらいいな。
「……さ、ご飯にしよう……ディナーのほうがそれっぽいかな? ほら、峰十郎も一旦着替えてきな」
さあ、これからはクリスマスパーティーだ。
俺にとって、それは。
産まれて初めて、誰かと過ごすクリスマスだった。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます!
明日はお休みします、再開は12日です!




