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居候高校生、主夫になる〜娘3人は最強番長でした〜  作者: 蓮田ユーマ
プロローグ
7/134

アキラの昼休み。

「アキラさん、さっきの人は?」

  

 クラスメイトの華子はなこは当然の事だけど、楓太さんとの関係を訊いてきた。少し説明が難しいけど、全てを素直に話してしまうの憚られた。

 私が言葉に詰まり、うまく答えを切り出せない様子を見て華子は「あっ!」と声を上げた。


「もしかして彼氏!?」

「違うよバカ」


 瞳をキラキラと輝かせて興奮している。そんな事実はないし、それ以外にも華子が期待しているような関係でもない。


「いろいろあって今うちで居候してんだよ。事情も事情だから、あまりぺらぺらと話すようなことでもねぇんだ」

「ふーん。でも、変な感じだね」

「何が?」

「アキラさんは歳上相手でも強気な口調なのに、あの人にはちゃんと敬語なんだね」

「あのなぁ……アタシだって多少の常識はもってんだぞ」


 わずかな反抗心を見せながら、あたしは弁当箱をあけた。

 中身は随分とバランスの良いおかず達、卵焼きにきんぴらごぼう、ほうれん草の胡麻和えにウィンナー。

 そして、白米の上に梅干しが一つ。


「あのお兄さんが作ったの?」

「そうらしい。家事全般はできるんだと」


 それにしても不思議なものだ。

 わずか出会って数日の男の手料理を食べているのだから、なんともスピーディーな展開だ。

 それどころか一緒に生活することになっている。

 

 楓太さんは掃除や料理を今後してくれるらしい。母さんの負担を減らせるように協力してくれると。洗濯は母さんが変わらずやるみたいだけど。

 大方、下着やなんやらを触れる事に配慮しているんだろう、女四人分だしな。

 あたしは別に気にしないけど、あとの二人が何と言うかもわからないからな。


「ねぇアキラさん、あれ見て」

「ん?」


 華子が指差すのは校門。そこに用があるのは登下校の時くらいだが、この学校にやってくるのはそんな真面目なやつばかりじゃない。


 五人の男たち。それぞれどこかで一度見たことがある奴らだった。そう、確かその共通点は、私がぶちのめしたってところだ。


「八月朔日ィ! 出てこいやァ!」


 先頭の男が声を荒らげて叫んだ。凄みを出そうとしたのか、がなりすぎて半分何を言っているのかわからなくて笑いそうになってしまった。

 だけど他の皆にはその威嚇は十分効いていたみたいだ。アタシよりも背が高いくせに背中に隠れようとする華子も、「なんとかして」と囁いていた。


 そう言われちゃ仕方ない。

 みんなが呼ぶからアタシもそう名乗っているだけではあるが、この学校の番長だ。せんせー達が来る前にとっとと片付けてしまおう。


「よー、誰だよテメェ」

「あァ!? 覚えてねぇのか!?」

「なんで覚えてやってると思うんだよ。思い上がんなよデブ」


 私の言葉にデブがわなわなと震えだす。覚えてやってないことになのか、デブと言われたことに対してキレてるのか、この際どちらでもいい。

 そのまま逆上して突っ込んできてくれた方が楽だった。


 先に手を出したら負けだしな。


「死ねや八月朔日ぃ!!」


 ちからだけに任せた大振りの拳。当たればひとたまりもないだろうが、そんなもん当たるわけもない。

 どうにも女だからといって舐められてしまうのは、やはり腕力とかそういうものの差だろう。


 実際私がこのデブ、それどころかコイツの何に惹かれて着いてきたのかよくわからんが、後ろの四人の取り巻きにも力じゃ敵わないだろう。


 だけど人間である以上、そんな性別の差じゃどうにも出来ないものもある。

 デブパンチをスレスレで交わし、代わりに私の細い腕からの一撃を見舞いした。


 それだけだ。

 ただ中指をやや立てた拳は的確に人中を撃ち抜いた。


「ィッ、っ、ぁぁっ……!」


 デブは膝から崩れ落ちて項垂れている。

 おそらく予想外の痛みに意識が追いついていないはずだ。


「こ、このやろうっ!」

「やっちまえ!」


 取り巻き四人が一斉に走ってくる。

 数でなんとかなると思われているんだろうが、四人程度でどうにかできると思われているのなら心外だ。 

 愛花の言葉を借りるわけじゃないけど、舐めてるやつはぶちのめす必要があるな。


 本来なら喧嘩において、一人対複数なんてものは割けるべきだ。普通なら勝てるわけはない。

 だけどアタシにゃ関係ない前提だ。


()()()()()()じゃ、こんなもん想定の範囲内なんだよ」


 一人目は顎を撃ち抜く。そいつの膝がつく前に二人目に金的。

 慌てふためく三人目のふとももに、脛で渾身の蹴り。弾けるような音と共にうめき声をあげて倒れ込む。


「ま、まて……」

「おいおいそりゃあねぇだろ。タイマンになってからが喧嘩は本番だろうが!」


 女のくせに生意気だとか、女が男に敵うわけ無いとかいろいろ言われてきたから、あえて一つ言わせてもらうが。


「男の癖に日和ってんじゃねぇよ!!」

「ぇあっ!?」


 飛び回し蹴り──旋風脚とも言う蹴り技が最後の一人の頭に吸い込まれた。それで事は片付いた。

 スカートでやるもんじゃないが、まあいい、どうせ中身はスパッツで見えやしねぇ。


「見たら見たでぶちのめすけどな」


 と、五人のうずくまる男子が完成したところでせんせー達がようやく駆けつけてきた。


「八月朔日……またおまえか」

「先に手ぇだしてきたのはコイツらすよ」

「まったく……あまり騒ぎを大きくしないでくれよ、お前はただでさえこの地域じゃ有名なんだ」

「へーい」


 後はせんせーたちがなんとかしてくれる。あたしは華子のところに戻り、昼飯を再開する。


「アキラさん、相変わらず強いんだね」

「違う。あいつらが弱いんだよ」


 まあそれはそれとして。


「美味いな、これ」


 他人の作った飯を素直に美味しいと思えたのは初めてだった。正直に言って母さんよりも料理は上手いかもしれない。

 今日の夕食も、楓太さんが作るのかな。もしそうなら、今日の楽しみが一つ増えた。


「餌付けされてるみてーだな」

「何が?」

「いや、なんでも」


 なんにせよ、楓太さんとはいつまでの付き合いになるかわからないんだ。

 それなら互いに良い関係のほうが都合が良いと考えながら、アタシは弁当箱を空にしてしまうのだった。

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