サンタクロース。
「もう今年もあと少しだなぁ」
お茶の間で眺めるテレビから、年末特番の宣伝が流れるのを見て俺は何とはなしにそう呟いた。
そこから話が繋がらなくても良かったし、誰かが続けるならそれでいい、独り言のようなつぶやき。
「そっすね〜……」
「今年もあと少し……12月も終わりに向かうね」
アキラと叶が反応して、当たり障りのない無難な返事。
ここにきてもう春も夏も秋も過ぎ、冬を迎えた。いつまで世話になるかはわからないけれど、この家で迎える最初の年末だ。
「叶……試験は2月だっけか」
「うん、もう2ヶ月切っちゃった」
「勉強の方は問題なさそうか?」
「任せといてよ愛花姉ぇ。こう見えても成績はいいのです」
今日はまったりとしてムードで、のんびりと会話を広げる。たまにはこんな日もいいもんだ。
「さて……そろそろ取りに行こうかな」
「クリスマスケーキか」
そう、本日はクリスマス。
家族みんなで過ごそうと、今夜は全員集まっていた。
真奈美さんもハリきっていて、チキンやらグラタンやら色々と作ってくれている。
「私もついていこう、一人だけじゃ悪いしな」
「じゃあ私も!」
「あ、アタシも!」
「え〜! みんな行ったら準備が大変だから、誰か一人にしてよー」
と、キッチンから真奈美さんのコール。
俺は別に一人でもいいのだけれど、三人はじゃんけんで誰が行くかを決めていた。
★★★
「はぁ〜、すごいな、雪」
「そうだね、ホワイトクリスマス」
同行するのは一発でチョキで仕留めた愛花だった。
コートに身を包む姿は、二人で出掛けたときの大人びた格好よりもかなり幼く感じた。
服装の問題もあるのだろうが、それとまた別に。
「楓太はケーキだったら、どんなのが好き?」
「そうだな。チョコレートかなぁ、粉末みたいなのがかかってるやつ……愛花は?」
「私はね、モンブラン。……大好きなんだけどなんでモンブランって、ホールケーキを買おうって時には選択肢にいれてくれないんだろ」
「まぁホールケーキって、ショートケーキのイメージ強いもんな」
「でもでも、やっぱり一度考えを改めるべきだと思うんだよね。モンブランにも人権ならぬホールケーキ権が必要だよ」
──普段と違う愛花に、やはり頬の内側がくすぐったくなる。
悪いと思わないし、なんなら可愛いと思うし……でもやっぱり、いつもの愛花とのギャップに違和感が生じる。
ハスキーだと思っていた声も、今は高い甘ったるい女の子の声。俗に言うアニメ声みたいで、確かに愛花も含めて、人によってはコンプレックスになるのかもしれない。
でも、これは愛花の本来の姿。
俺はそれを拒んだりはしないし、受け入れる。
いやそもそも、受け入れるというのも、少しおかしい。
これが、愛花という少女のありのままの姿だ。受け入れるもなにも無い。
「楓太?」
「ん、あぁどうした?」
「ううん、ポケッー、としてたから。どうしたのかなって」
「なんでもないよ。……そうだ、せっかくだ。ホールケーキとは別に、こっそり小さいの買おうか、モンブラン」
「ほんと!? やったー!」
子どものように喜び、るんるんとステップを踏み歩き出す。
だが気が緩んだのか、雪が少し溶け氷かけの地面で足を滑らせる。
「わっ!?」
腰から落ちかけそうだった愛花の身体を抱き止める。
愛花の身体能力ならば必要ない行動だったかもしれないけれど、考えるより早く体が動いていた。
咄嗟だったから、自分が思うよりも強く愛花を抱いていた。
「あっ……」
「ほら、気をつけな。ケーキは逃げやしないからさ」
「……うん」
「それとも、転ばないように手でも握っておくか?」
多少皮肉のつもりで、そんな冗談。
けれど、ほんの数秒後に、その冗談で上げた手のひらに、ひんやりとはしているが、確かな温もりが伝わった。
「え?」
「……楓太が握っておくか? って言ったんだよ?」
「あ、や、まぁ……そう、だな」
「いこ」
「……おう」
……考えるな、これもただのスキンシップだ。
ちょっとトキめくな俺……今のすっげー危なかった。
心臓がきゅっとなった。
「な、なぁ愛花……わぶっ」
ドンッ、となにかにぶつかってしまった。
愛花の方を他所見しながら歩いていたから気付けなかった。
しまった、人とぶつかったかと思い、その相手の方を見ると──
「メリークリスマス」
──クリスマスよろしく、真っ赤な衣装と、大きな白い袋。そう、サンタクロースがいた。
……いや、まさか。しかしこの声。
いつの間に帰ってきて、というよりそういうことする人だったんだと……俺は、サンタクロースのコスプレをした峰十郎さんを見て、この人の事がよく分からなくなった。
「メリークリスマス」
「いや、聞こえてるんで大丈夫っす……」
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