それだけアタシ達は。
楓太さんと愛花が次に向かったのは映画館。
二人分のチケットを購入したところを確認して、アタシと叶も同じものを。
「うぇっ、これホラー映画だよ」
「……我慢しろ。最悪観なくてもいい」
「え〜……やめようよ。私もアキ姉ぇも、なんなら愛花姉ぇもホラー映画とか得意じゃないんだし」
巷ではアタシ等には怖いものなんてない……そう思われているらしいが、そんなことはない。怖いものは、明確にある。それは3人とも共通して……幽霊の類だ。
だって、あいつら、殴れねぇから……。
「いいからいくぞ!」
「ぶー……」
劇場内が薄暗くて助かった、二人の後をつけてもバレにくい。二人の後方の席に腰掛け、スクリーンよりも二人の状況に目をやる。
変わったような様子はないが、ホラー映画での定番の事といえば……。
「『きゃっ、こわ〜い』……なんて言いながら腕に抱きついたりすんだよ」
「アキ姉ぇ、漫画の読み過ぎだよ」
「あれは教科書みてーなもんなんだよ……」
実際──映画が始まり、中盤に差し掛かる頃、愛花は楓太さんの腕にしがみついていた。
それだけでは飽き足らず、顔まで埋めて……。
(羨ましい……)
そんなことが、簡単にできて。
もう今のアタシたちじゃ、出来ない事。
恥ずかしいし、楓太さんも果たしてそれを受け入れるかどうか。
(異性として意識される……どうやって、できるんだろうな)
映画が好みではなかったのか、眠りこける叶の涎を拭いてやりながら、アタシは無関心な映画を眺めていた。
★★★
上映が終わり、アタシ達は楓太さんよりも先に劇場から出る。
先に家に着いて、二人を待っていないと不自然だからな。
「愛花、楓太さんのこと……どう思ってるんだろうな」
「好き……か、どうかはわかんないよね」
胸に秘めているのか、それともまだその感情は産まれていないのか。アタシもそうなるとは思っていなかったけど、愛花が楓太さんに恋心を抱く瞬間が、想像できない。
そもそも、愛花が誰かを好きになることが。
自分自身よりも弱い男に、愛花が惚れるのだろうか。
(いや、強い弱いは……力だけじゃない)
楓太さんは、喧嘩とかじゃあアタシたちには敵わないかもしれない。だけど、楓太さんの心の強さ、そういう腕力だけじゃない強さもある。
だから、アタシが楓太さんのためにできる事。
楓太さんが、求めているもの。
「なんなのかな……」
それを考えながら、暗い夜の道を叶と歩いた。
長い、長い一日だった。
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