友達。
今日は少し、散歩に出ていた。
一人の時間が欲しくて、考え事がしたくて。
もしくは、叶とアキラから少し離れるため。
「今一緒にいたら、どんな顔したらいいかわかんないからな……」
先は考え事がしたくて、とは言ったはいいが、本当は何も考えられない。ただ、ボッーと風景を眺めながら気ままに散歩。
考えても、今は答えなんか出そうにないから。
誰かに相談でも出来ればいいんだけど……そう思いながら川を眺めながら歩いていると、背後から「おーい」と声をかけられた。
それは聞き馴染みのある声。だけど、ここ最近はずっと耳にしていなかったから、一瞬空耳かと想った。
「小町?」
「おいすー、ミヤ久しぶりじゃん」
ラフなビッグサイズのパーカーが似合う女の子。
彼女は俺の、唯一の友人だった。
花坂小町、同級生。
「ていうかやっと見つけた。ミヤ、連絡しても全然返事しないから。死んだのかと思ってた」
「縁起でもないこと言うなよ。俺も俺で、いろいろ大変だったんだよ」
「ふーん。僕の連絡を無視するくらいって何? 総理大臣のSP?」
「それなら出来ないかもしれないけど。……まぁ、ホント。いろいろ」
「はー、やれやれ。いろいろって抽象的だねぇ、雑だねぇ。僕じゃなかったら呆れられてるよ」
「別にいいよ、友達お前しかいないし」
本当に小さい頃から友達がいなかった。
だから小町が話しかけてきたときは心底驚いたし、友達が初めて出来た俺は、その日は舞い上がってしまっていた。
あの日は父さんも、そんな俺を見て嬉しそうにしてくれていた。
「まぁまぁ、それより久しぶりに会ったんだからどっか行こうぜー。暇でしょ?」
「今ならな。夕方には帰んねぇと」
「なに、門限?」
「違う。晩飯の用意とかしないといけないから」
それを聞くと小町は目をキラリと光らせて。
「ふぅん。じゃあとりあえずどっかには住んでるんだ? あのおんぼろアパートじゃなくて」
「……まぁ、お前には隠すことじゃないしな。カラオケでも行こうぜ、そこで話す」
★★★
「──ふ〜ん、で。そこで専業主夫みたいなことしてるわけだ」
「そういうことになる」
注文したフライドポテトを頬張る小町に、俺のこれまでの出来事を話した。
その内容に、小町はデンモクで歌う曲を選びながら俺にいくつかの質問を飛ばす。
「なんで隠してたん?」
「いや……なんか、気まずいし」
「隠される方がムカつくね、僕は。てかどこが気まずいか分からん」
「それはほら、親が不祥事起こしたとかさ、言いにくいだろ」
「やっちまったものは仕方ないじゃん。それにお父さんは責任取ってるんでしょ? ほっぽりだして逃げてんならわかるけどさ」
「それはそうだけど……」
「つーーーか、そんなことどーでもいいんだよね。僕が言いたいのは、そんな大事なことを、大親友の僕になんも話さなかったミヤがムカつくってこと」
「……すまん」
腕を組み足を組む小町。凄まじい態度のデカさだが、今は何も言えない。俺は素直に頭を下げた。
「反省してる?」
「してます」
「じゃあ仕方ないな。ビンタで許してあげる」
「許してなくない!?」
「これ以上ないくらい許してるから」
結局ビンタされた。
全然痛くはなかったけど、小町が満足そうだからいいか。
「まったく。何かあったら相談って事を知らないのかね」
「ごもっともで……あ」
そこで俺はひとつ思いつく。
そうだ、相談……こんな事を話せるとしたら、確かに。
それに小町も女の子だ、あの二人の心理について、俺よりもわかる所があるかもしれない。
「小町、そういうことなら、早速相談したいことがあるんだが」
「おっ、なんだねなんだね。なんでも聞いてみたまえよ」
むふんと胸を張る小町。さすがだ、こういう時に頼りになるぜ。今回はその胸をしっかり借りさせてもらおう。
「あぁ、実は二人の女の子に告白されててな。でも二人の事はとても大切で、どちらかを選ぶ事が出来なくて……こういう時、どうするべきだと思う?」
「はっはっは! ぶち殺されたいって?」
顔が全く笑っていない。
額に血管がうかびあがり、ピキピキと不機嫌なオーラが溢れ出していた。本当に殺されるかもしれない。
身を乗り出し胸ぐらをつかんで、俺に詰め寄る。
「おいこら、誰が惚気話をしろって言った」
「違うんだって! マジなの! 本気で悩んでるから!」
そんな俺をみて、小町は「あほくさ」とため息をつく。
ソファにどさりと腰掛け、たった一言の答えを俺に提示する。
「どうするべきって、決まってるじゃん──ミヤが女の子として好きな方を選べばいいんだよ」
小町はヒロインにはなりません。
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