続・ファーストキス。
「アタシ、楓太さんの事が好きです」
真剣な表情から、それが冗談でもドッキリでもなく本気だという事は疑いようもなかった。
疑えないからこそ、俺は度肝を抜かれた。
それもそうだろう、叶に続いてアキラまでもが告白してきたのだから。
アキラはそれを伝えると、目を合わせられないのか目線をそらす。
「楓太さん……アタシと付き合ってほしいです」
どこまでもまっすぐな言葉。
気持ちと、どうなりたいか。俺はその言葉の意味を理解しないわけにも、出来ないわけもない。勘違いでも、思い上がりでもない、真実だ。
あの日感じた……アキラの気持ちは、自意識過剰なんかじゃなかったんだ。
「……アキラ、ありがとう。でも……」
すぐに答えはだせない。
それは叶との件もあるからだが、こうなってきてしまうと新たな問題が発生してしまう。
ここでアキラの事を選んだら、叶はどうなる?
俺とアキラが付き合っている姿を、見せつけるというのか?
それは逆も同じで、どちらにせよ俺は決める事はできない。
確実に、どちらかを選ばない事になってしまうのだから。
「わかってます。叶も、楓太さんの事が好きなのは……それに、キスも」
「き、聞こえてたのか!?」
「本当は聞くつもりはなかった。でも一度聞こえたら、もう引けなくなってた」
なんと言う事だ……じゃあ、アキラは俺と叶がキスをしてしまったことを知っていて……その上でいま、俺に告白をしてくれた。
もしも俺がアキラの立場だったなら、同じように気持ちを言葉にできるか? 相手が、自分の妹とキスをしていて……何も思わずにいられるのだろうか。
つまりは、俺。
俺への気持ちの変化は、何一つなかったのだろうか。
「逆ですよ、楓太さん。アタシ、むしろ……負けられないって燃えました」
アキラは一歩踏み出す。
俺との距離を縮める。
「絶対アタシのほうが好きなんで」
「うっ……」
やはり、というかそりゃあそうだという話だが。
叶も、アキラも……どこに出しても恥ずかしくないむしろ誇らしいほど可愛い彼女たちに面と向かって好きだと言われ、狼狽えない男子高校生はいない。絶対にいない。いてたまるか。
それも現在進行系で、二人から告白されて、その返事を保留にしている……贅沢だの罰当たりだのと言われても仕方ない状況だ。
「でも、楓太さん。アタシ、一つだけ納得していない事があるんす」
「……なんだ?」
「叶と、キス。しましたよね」
「……した、な……うん」
もう言い逃れもできない。俺は誤魔化さずに肯定する。
アキラはそれを確認すると、さらに一歩、前へ踏み出す。
そしてついに俺の胸までやってきて、頭をぽふんと押し当てた。
「……それじゃ、フェアじゃない」
「アキラ、っえ?」
がしりと、胸ぐらを掴まれた。
まさか殴られる──一瞬そう危惧したが、それも見当違いで、ただただアキラが思い切りをつけるためにした行動がそれだったというだけだ。
「んっ……!」
「っ!」
少し背伸びをして、足りない高さを補う。
掴んだ胸ぐらは、離さないため逃さないため。
ぎゅっ、と瞳を閉じて勢い任せの──キスだった。
人もまだまだ歩いている時間帯、犬の散歩をしているおじいさんや、ランニングをしている人、小石を蹴りながら帰る中学生。
横目で見られていることは感じていた、けれどアキラはやめない、キスを止めない。
「ん、ぁ……」
数秒にも、数時間にも感じたキス。
唇が離れて、アキラの顔を見れば俺の脈拍はテンポを上げた。
「……楓太さん、もう一回、しましょうよ」
「えっ、それは……」
「……だめ、すか?」
涙目の上目遣いで言われて断れるわけがなかった。
ソレが駄目だと、わかっていても……。
「楓太さん、アタシ……絶対負けないから……」
「……」
俺は何も答えられなかった。
結局これは俺の意気地がないからだ。ずるずると受け入れ、取り返しのつかない状況になっても、文句は言えない。
だって、全部自分で蒔いた種だから。
けれど許してほしい。
俺は、何も間違えることのない完璧聖人でもなければ……彼女たちの心を弄ぶ下衆でもない。
ただの……一人の、優柔不断な男なんだ。
アキラの唇の温もりが再び伝わる頃、俺は心のうちでそう懺悔した。
なんだか暗くなりそうですが、ハッピーエンドは約束します。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます。
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