再会。
「お? この前の兄ちゃんじゃねーか」
「え?」
いつものように日用品などの買い物の帰り、俺はその男に声をかけられた。
確か……そうだ。今はいないけれど、周りを囲んでいた連中が「御剣」と呼んでいた男だ。
「奇遇だなぁ……ん? どうしたその指の傷跡」
「え、あぁ……いえ、ちょっといろいろあって」
まさか釘で一本一本さされたんですとは言えなかった。
適当に誤魔化して、俺は相手へ話を振る。
「御剣……さんは、今日は一人で?」
「あぁ、今日はちょっと妹に会いにな……何にも属さず一人で気ままにいるとそう言う事も簡単にできるな」
「属さず……?」
「ちょっと前までチームに入ってたんだけどな。いまは潰れちまったし、それに俺には合わんかったからどの道抜けていた」
道理で今日は以前はいた取り巻きたちがいないのか。
そして、心做しか晴れ晴れとした表情。重りがなくなったような、何かから解放されたような。
「んー……」
「どうかしました?」
「いや、なーんか兄ちゃん、どっかで見たような気がするからよ……まぁいいか」
自己解決した御剣は、それから「まだ時間もあるし、何かの縁だし飯でも行こうや」とお誘い。かなりフランクな態度に、日頃からそうなのだろうと困惑はしなかった。
しかし俺も買い物の最中、申し訳ないが今回は断らせてもらおう。
「すみません、家でみんなが待ってるから──」
帰る──そう伝えようとしたときだった。
背後から殺意。俺にではない、それはわかる。だがそうだとしても背筋が凍るほどの圧に俺は振り向く事も出来なかった。
その正体は……。
「うぉぉぉっ!?」
御剣が蹴り飛ばされる。揺れる長い黒髪が意思を持っているかのようにうごめいている。
「愛花っ!?」
「楓太ッ! そいつは羅生門の一人だぞ!」
その言葉にはっとする。
羅生門……それは俺を攫い、愛花によって壊滅させられたはずのチームだったはずだ。
御剣はそこに所属していたというが、それならなぜ俺のことを知らない? そして、あの時裏で何があったかを。
「今更また攫いに来たのか! 今度こそ本当に殺してやろうか……」
「おいおいなんだいきなり」
「ふざけるなよ、お前、自分達が傷つけたくせにとぼけるつもりか……!」
そこで御剣は何かに気付いたように眼が広がる。
「……まさか、羅生門が人質にしてたっていうのは、お前のことだったのか?」
★★★
「……と、いうわけなんです」
「なるほどねぇ……だからさっきはいきなり蹴り飛ばされたわけだ」
腹をさすりながら御剣はぼやく。
御剣の方は理解してくれたが、愛花がそうもいかなかった。依然変わらずに御剣を睨みつけている。
「愛花、この人も何も知らなかったんだ。そう気を荒らげないでくれ」
「……楓太がそういうのなら」
しゅんとする愛花を見て御剣は笑う。
「なんだ、兄ちゃんの言うことは随分素直に聞くじゃないの。……というかなんだ、お前らデキてるのか?」
「えっ!? い、いやそういうのじゃないから……!」
今までに一度も疑われたことのない関係に俺は思わず狼狽えてしまった。気恥ずかしかったというのもあるが、俺なんかが愛花の……と考えると強く否定してしまった。
「はっはっは、まぁなんでもいいけどな。……と、話してたら案外時間経ったな。俺はそろそろここらで……あぁ、そうだ。
八月朔日愛花、今度会ったらまた喧嘩しようや」
御剣はそう言い残し、妹に会いに行った。
「……変なやつだ。さぁ楓太。私達も帰ろう」
「そうだな」
歩き出そうとすると、愛花が俺の手を握った。
握るとも言わず、ごく自然に当たり前のように。
一瞬気づかなかったくらいだ。
「……ま、愛花?」
「どうした?」
いや、手……と思ったが、やめた。
やめさせる理由もないし、愛花も何か俺が心配だからそうしたのだろう。
「ところで、楓太。あいつが言っていたデキているとはどういうことだ?」
「え、いやそれは」
……どうしよう、分かっていないのなら教えてもいいんだろうけど。
それを言うのもなんだか気まずいというか……しかもこんな、手を握っている状況で。
「ええと……俺たちが恋人同士って勘違いされていたっていうか……」
「……私と楓太がか?」
怪訝な表情。
まぁ、そうなるよな。俺と愛花がそんな関係だなんて。
「確かに、それは見当違いだな」
「はは、そうだよな」
「私と楓太は──家族なんだからな」
そう当たり前のように俺に向けた。
俺もその言葉に同意した。
(……恋人、か)
空を見上げて、何かを想う愛花の横顔。
それが本当に綺麗だったから、少し見惚れていた。
「それも、悪くはないのかもな……」
「何がだ?」
「いや、なんでもないさ。はやく帰ろう」
俺の手を引き、走り出す。
繋ぐ手が少し熱くなっていたのは、たぶんそのせいだ。
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